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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第3章 おてんばメイドと開かずの扉
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還る場所

 おっさんは、城下町の方向を向いた。

 剣を片手で大きく上段に振りかざすと、そこからゆっくりと、息を吐きながら町に向かって切っ先を下ろして身構えた。


 さっきの、目覚めろポーズの時よりも、何かちょっとだけ、おっさんがカッコ良く見えた。


「――琥白ちゃん。城下町はあっちだったな」


「はい」



「よしゃ、ケラウノス。やってくれ」



『了解だ……我並びに我が同志、天にあまねく精霊達に告ぐ。我が名は雷霆、ケラウノス……』


「凄い……神剣が詠唱してる……生きてるうちに神が操る神聖魔法を間近で見れるなんて、感激!

 ああっ、私ちょっと漏らしそう……」


「やめてくださいよこんな所で!」



 琥白さんはウルウルと瞳を輝かせて、恍惚の表情を浮かべている。まるでアレを覚えたての無垢な少女のようだわ。



『此の三千世界にさ迷いし……蒼き一族の末裔、ユールの分霊を、我が雷を以て彼の一族の継承者、冬弥の御霊へと還されたし!』



 空が……急に暗い雲が立ち込めて、真っ暗になっていく……凄い……



「すっごぉい……いいわぁ……あくまでもお願いじゃなくて、命令なのね……痺れちゃう……」



 琥白さんはクネクネ、モジモジしながら嬉しそうに言った。

 あ、この人、ちょっとヘンタイドMなのね……


 ゴロゴロとした雷雲が天空を、まるで絨毯のように広がっていく。



『この者、世の邪悪な理に仇なす、義の者なり……

 よって助太刀せんとする貴公等の善業、如何程か!

 得られし功徳は如何なるものか!

 我、全能の神の神剣なり……

 余多の神々よ、我が勅命に応えよ!』



 剣がそう叫んだ瞬間、暗雲から一筋の光が洩れ、城下町を照らした。


 同時に剣先から、おっさんの身体へと、天からの光が照らされた。



 琥白さんは、言葉責めにされたんだね。

 膝をガクガクさせながら、恍惚の表情でその場にビクビクとへたれ込んだ。

 もう、何してんのよ……




「――お疲れ、ユール。もう、安心していい」



 おっさんがそう言うと、どこからともなく、ユールの声が聞こえた……



 琥白さん……景羅さん……ありがとう……僕という魂は、目的を果たしたよ……だから、僕の旅はもう、終わり……

 僕はこれから、冬弥の魂に還るよ……



「かえるって……どういう意味よ……ユール……」



 これからは、冬弥の力になってくれよ……宜しくね……



「ユール……ユール?……ユール!」



 雲がどんどん消えていき、辺りは嘘のように晴れ渡った。

 少し前と変わらぬポカポカ天気。


――いや……変わった事がある。


 チリチリ黒髪のおっさんがサラサラ金髪になっていて、しかも若返っていた。

 顔立ちも、何か、東方と西方のハーフっぽい。



「相変わらずうるさいなぁ。ユールは俺。此処にいるよ」



 見た目、二十歳そこそこに見える冬弥さん。


――この姿は、見たことがある。



 夢の中で会った、あの美味しいパンをくれた人。その人だった。


「ユールなのね!?」


 確かめたかった。


「さっき言ったろ? 冬弥に還るって。

 冬弥はもう一人の俺で、俺はユールを取り戻しに来たんだよ。

 意味解るかい?

 昔、色々あって、アルファって野郎に魂ごとバラバラにされちまってさ。

 だから元々、俺には本体とか分身とか区別が無いの。

 勿論君のように、俺にも世界のどこかに分身がいるはずだけどね。

 その分身の居場所が解らないのは、冬弥が時空転移した際に本来の記憶を何処かに持っていかれちゃったからなの。

 それが俺の一番大事な記憶なんだけど。

 冬弥はケラウノスとそいつを探しているうちに、勝手に自分が本体だと思い込んでしまってた訳」



 何だか……よくわからないけど……よく喋るように……

 だけど……



「とにかく、ユールなのね?」



 わからないけど、これが、ユールの本当の姿なのだと、心がそう感じていた。


 何だか……涙が出てきた。



「そうだよ。まだまだ完全体には程遠いけど……な、泣くなよぉ。冬弥が消えた訳じゃないんだぜ?肉体は冬弥のだし、魂が元通りくっついただけなんだから、互いの記憶だってちゃんとある。どっちの記憶なのかたまに混乱するけどさ。アハハ……」



「ふぇ……お帰り、ユールぅぅぅぅ」


 あたしは、彼の胸に飛び込んでいた。


「アハハ……ただいま、景羅さん」



 一頻り泣いた。泣き止んで見上げると、ちょっとだけ、あたしと同じくらいの歳の、ちょっとだけ背が伸びて大人になったユールが、目の前で笑っていた……



──あたし達は一先ず琥白亭へと向かった。



『さて、片割れも1つ取り戻した事だし、次はどうしようかのう、冬弥よ』



 剣が言った。何だか改めて聴くと確かに、下腹部に響くような良い声してるわね。


「次は、此処からはかなり遠いな。真っ当に行ったら千年はかかっちまう。そこでだ。

 ノーヴァ山脈にいる神々の所へ御挨拶して、ショートカットする知恵と力を借りようと思う。

 俺って天才だな。頭使ったら腹減ったぜ。

 琥白さんは料理得意かな?」



「宿屋の女将ですよ。当たり前です」



 幾分かスッキリとした表情の琥白さんはサラリと答えた。



「そうだったな。そいつは失敬」



……ふと気付いた。



 ユールの闘いは終わった。でも冬弥の闘いは、これからも続く事。そして……



「これから、か……」


「何が」


「質問責めにするから覚悟しといて」


「えー」



 冬弥は嫌そうな顔をした。


……そして何より、あたしの旅はまだ始まったばかりなのだという事を、逃げる彼の後ろ姿を追いかけながら感じていた。



──本当のあたしは、心の中の……何処にいるのかな──



──第3章──終──

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