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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第3章 おてんばメイドと開かずの扉
24/44

死刑執行の日

――翌日。


 城下町の広場には人がごった返していた。

 久しぶりの、公開処刑だから。


 ユールの、死刑執行の日。



 あたしは、広場の群衆の中にいた――




 琥白さんは、来ないと言った。

 行くなとも言われたけど、あたしは、諦めがつかなかった。



 分身だから? それが何だっていうのよ。

 本体は別の世界にいる? ユールの命は彼の命じゃないの。



 あたしの知ったことか!



 あたしは、ユールを守る。絶対に守る。

 あの可愛い笑顔を、あたしは……



「やっぱり、あなたは馬鹿ね」



 不意に後ろから声を掛けられ転びそうになる。



「琥白さん!」


「一人で何しようってのよ。黙って見ててね。

 これも計算のうちなんだから」


「嫌よ! 大体何よ計算って」



 頭を抱える琥白さんは、面倒臭そうにあたしを見る。



「ちょっと、此処から離れるわよ――」



 彼女に手を引かれ、あたしは広場を後にした。


──町外れの小高い丘の上まで連れて来られた。


 城下町の広場なんて、此処からじゃ全く見えないじゃないの。



「こんな所まで来て一体、何なのよ本当に!」


「まあまあ、落ち着いて」



 あっけらかんとした表情の琥白さんに、あたしは手が出る寸前だった。



「――これから、あの方が来る」


「誰よ、あの方って」


「ユールの、本体の方よ」



 呆気にとられたあたしは、思わず回りを見渡した。



「本体!? 別の世界にいるって言ってたじゃない」


「そう、ユール君の計算が正確なら、その方が今此処に、降臨するの。ウフッ。これからもっと面白くなるわよぉ」



 魔方陣の書かれた布を広げながら、琥白さんはメチャクチャ楽しそうだ。

 もっと、面白くなるですって?

 ユールが殺されるって時に、不謹慎極まりない言動。

 もう我慢の限界だ!



「――さぁ、ちょっと離れましょ」



 地面に敷かれた布から、何やら、コーン、といった甲高い音が聞こえてきた。


 そして魔方陣の上2メートル辺りの高さに、まるで空間が裂けたような、大きな黒い穴が稲妻をまといながら現れて渦を巻いていた。



「あれが時空の狭間よ。あそこから全宇宙の、どの次元のどの世界にも行ける。

 近付かないでね、死んじゃうかも知れないから。

 準備の出来た、選ばれし者だけが、あの中に入れるの」



 穴は不気味な低い音をたてながら、ゆっくりと回ってるように見える。



 グオオオオオオオオオオオ……



 あたしはその場に立ちすくんだ。



「何か、怖い……」



 でもこの音……聞いたことがある、この音は……



「思い出した?」


「え?」


「あなたもね、あの中から、この世界に来たのよ」



 そんな……嘘よ!



「いや、おかしいよそんなの! 記憶にないし、この世界で生きてきた記憶だってあるし!」



「そうよね。そう思うのも仕方ないわ。あなたの人生は事実だもの」


「じゃあ何であたしが分身だなんていうのよ」


「昨日言ったじゃない。あなたは仮の姿。

 あなたの本体は、今はあなたの魂の中に生きているから。

 あなたのエゴが弱くなる時、要は寝てる時に本体の記憶が夢として現れるの」



 彼女の言葉の意味が解らない。



「――全然意味わかんない!」



 あたしの声を掻き消すほどに、音は大きくなっていった。



「後で話そう! さあ、来るわよぉ!」



 耳をつんざく程の轟音。あたしは耳を手で覆った。



 その刹那、ピタリと音が止み、辺りは静寂に包まれた。



「え?」



 ゴーン、ゴーン……



――遠くから鐘の音が聞こえた。



 これは、城下町の鐘の音。ユールの死刑が執行された音だと気付いたのは、3つ目の鐘の音が聞こえた時だった。



「ゆ……ユールッッ!」



 あたしが叫んだその瞬間、時空の狭間から光が放たれた。


 あまりの眩しさに目を瞑ってしまう。




――ドサリと音がしたので、恐る恐る目を開く。




 魔方陣の上に横たわる、男の人。黒髪で、東方の民の様な顔立ち。

 見たことないデザインの、礼服のような黒い服を着て、ネクタイをしている。


 全身ボロッボロなのだけは解るけど。

 彼は何やら大きなひょうたんのような形をしたバッグを抱き抱えながら、寝ていた。



 何だろ、何かの楽器の入れ物のような。

 そんな事より、 誰よ、この人……


 これがユールの本体、な訳? 

 嘘でしょ……そんな筈無い!




……顔のシワ、脂の乗った光沢のある肌、ちょっと出てる、お腹回り……髪の毛の縮れ具合に、額の上がり具合……これって……四十路過ぎたくらいの、おっさんじゃないのよ……



 思わず琥白さんを見た。彼女も、目を丸くしたまま、固まっていた。



「ね、ねぇ、琥白さん」


「う、うん」


「これが、ユールの本体なの? あの方なの?」


「あの……アハッ、ちょっと、わからないなぁ……アハッ」



――おっさんが目を覚ました。



「う……ウウッ……ん? あれ? 着いたのか?

 ケラウノス、どこな、あ……」



 辺りを見渡したおっさんは、あたし達に気付いた。



「あーるぇ! やあ、景羅ちゃん。久しぶりー。

 何百年ぶりだべなぁ」



……ちょっと、待って下さい……



「お、おじさん誰なのよ……」



 おっさんは今度は琥白さんを指差した。



「あー、そんで君があれだ、リンの分身サブだな?

 初めまして、冬弥です。

 初めましてってのも何か不思議だな。

 顔だきゃ知ってるってのは、何だかな。アハハ……」


「お、お待ち申しておりました。私、琥白と申します」


「宜しくねー。しかし君も仕事早いね。もう景羅ちゃんと合流したんだね」


「あ、いえ、これも冬弥様の分身の、ユール君の計算なんですのよ。ウフフ、あの子天才、アハハ……」



 ちょっと、待って下さい……なんか、何? この、軽めのノリは……



「ちょっと、琥白さん! ユールは? ユールはどうしたのよ!」


「待ちなさい。私もちょっと、混乱してて」




 琥白さんの笑顔が、すっごく引きつっている。

 ああ、解ったわ。そうだね。そうだよね。

 信じたくないんだね。ユールの本体が、こんなおっさんだなんて……そうでしょ琥白さん……



「ユール? ああ、そうそう、ユールな! あいつが此処に呼んだんだったな……あー、どうも最近歳のせいか、物覚えが悪いっつーか、なんつーか、孤独が身に染みるっつーか。うんうん」



 何一人で納得してるのよ、おっさん!



 冬弥と名乗ったおっさんは立ち上がると、バッグを開けた。


 中から、何やら剣の柄のような物を取り出すと、おもむろに天に向かってそれを突き上げた。

 

 何か……ダサッ。ダッサァ!


 此処が城下町の広場じゃなくて、本当に良かったと思った。



「目覚めろ! ケラウノス!」



 すると、それは光を放ちながら、大きな剣に変化した。



『おお、着いたか。ん? こやつらは何者だ?』



「け、け、け、剣が、喋ったぁ!?」



「きゃー! 格好いい声!」



 いや、驚く所違うでしょ、琥白さん……



『ふん。やかましい。

 おい冬弥。貴様もそうだったが、お前等人間はなんだ、俺様が話すのがそんなに珍しいのか』


「ばーか当たり前だろ、ケラウノス。此処は神々の世界じゃねえんだから。

 俺だって初めは同じリアクションしたろうが」



 もう、色々と、待って下さい……



『ふっ。まあ良い。

 そんなことより、肝心の分身が来ていないのはどういう訳だ?』



 ケラウノスと呼ばれた剣は、どうやら状況がつかめていない様だ。あ、このおっさんもか。



「ユール君は今程、冬弥様が到着するのと同時に、あそこにある城下町の広場で、処刑されましたのよ」


「な、処刑だと? なーにぃぃ! やっちまったなぁ!

 くっそぉ、先越されたか……あいつにメイン張らせようって思ってたのに……奴の考えそうな事だぜ」


『やれやれだな。しかし貴様の一族は本当に面倒臭いな。

 誰が本体でも俺様は構わんが。呪いのせいか』



「うるせーぞおい。武士の精神とでも言ってくれや」



 剣が、笑ってる。何が可笑しいのか全くわからない。



『まあ良い。奴が戻れば貴様の頭脳もちょっとはマシになるだろう。早速取り掛かろうか』


「一言多いんだよお前はよぉ」


「取り掛かるって、何をですか?」



 勇気を出して、剣に問い掛けてみた。何だか不思議な気分……



『あやつの魂を、こやつに吹き込む』


「そーゆー事」



 おっさんはニヤリとした。



 魂を、吹き込むって……




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