表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第3章 おてんばメイドと開かずの扉
20/44

占い師?

 ユールは、琥白亭の古びた木製扉を開いた。キィ……と軋む音が、何やら怪しげな雰囲気を一層醸し出す。



「――こんにちは!」



 ユールが元気よく挨拶をすると、ロビーにいた数人の客は一斉に振り向きこちらを一睨み。

 そして、一斉に元の姿勢に戻った。無言。


 うわぁ柄悪い……まるで山賊みたい……


 恐らく宿泊客の食堂も兼ねているであろうロビーの向こうにカウンターがあり、そこには一人の女性が立っていた。



「ユール君、いらっしゃい」



 女性は青いシルクのローブを纏い、額に輪っかのような飾りを締めてあり、口元も同じシルク布で覆っていた。


 凛とした声と目元から察するに、かなり若い。

 勝手にお婆ちゃんを連想していたから、かなり面食らった。


 まあ、誰が見ても彼女は占い師と解る格好をしていた。



「こんにちは琥白(こはく)さん。仕事頼みたいんだけどいいですか?」


「あら珍しいわねぇ。では、こちらへどうぞ」



――カウンターの隣の小さな部屋に通された。



「――そちらに座って」


「はい!」



 ユールは嬉しそうだけど……

 どうせ水晶とか出して手をわらわらとかざすんでしょ?



「私は琥白。宜しくね。ユール君の連れの方は、お城のメイドさんかしら」


「初めまして。景羅と申します」


「そう……探し人ね……」



 ユールは、どうだ凄いだろ的な眼差しを向けてきた。

 いやいや、そんなの、事前にユールが話してるんでしょ。

 馬鹿でも解る。騙されないわよ。




「その前にあなた……ちょっと見てあげる」



 え、見るって、あたし?



「いやいや、あたしは別にそんな、結構です」


「ううん。あなたのその、柔らかそうな(ところ)に隠してる″それ″を見たいの。ウフッ」



 え……ちょっと何で……

 これは誰にも、キッカにすら見せたこと無いのに……



 ユールも驚いた顔をしてる。何なのこの人……



「はぁ、何の事だか……ちょっと、どこ見てんのよヘンタイ!」



 ユールは慌ててあたしの胸から視線をを背けた。

 あら、耳まで真っ赤。可愛いわ……



「ごめん! 違うよ、違うんだよぉ、何を持ってるのか気になったんだよぉ……」


「フフフ。景羅ちゃん。そんな警戒しないで。

 元々″それ″は私が造った物だから」




 はあ? 何を言ってるのこの人。

 これはあたしが鳳仙の国に居たときに、14歳の誕生日にお母さんから譲り受けたペンダントだよ?……

 お母さんもお婆ちゃんから、そうやって代々受け継いで……代々……



「あ、あなた、ふざけないで! 歳幾つよ!」


「えっとぉ……ごめんなさい、最近数えたことない」



 首を傾げながら、ローブから見える目元が笑っている。


 バカにして!




「――あたし帰る!」


「ちょ、景羅さん!」


「待ちなさい」



 あれ……あれぇ? っか、体が、動かない!

 立ち上がろうとしてるのに、言うこと聞かない!?


 何、何したの、この人!



「いいわ、別に。見せたくなったら、お願いね。

 じゃあ次はユール君。探したい人の持ち物、何かある?」


「はい。えっと……これです」



 ユールはポケットから女物のハンカチを取り出した。



「前に借りた物なんです。これで良いですか?」


「ええ。ありがとう」



 琥白さんはハンカチを手に持ったまま、じっとしている。




「うわっ! ぐぬぬぬ……」


 突然体が動くようになったあたしは、力んでいたから椅子から転げそうになって、それを必死で堪えた。何なのよこれ……



「何してんの? 景羅さん」


「むぅ、うるさいわね! わかんないわよ!」


「フフフ。名前はキッカ、ね……あら南蛮の部族の……そして景羅ちゃんと同じ、メイドさんなのね」


「凄ぇ! 俺、まだ何も言ってないのに!」



 わざとらしい……あたしは騙されないんだからっ!



「そんなの、インチキに決まってるわ!」


「そんな! 景羅さん、そんな言い方ないだろぉ」


「良いのよ、ユール君。ねえ、景羅ちゃん。

 あなたは、私がインチキじゃないと、何か困る事でもあるの?」


「ええっ? いや、その、別に……」



 そんな風に言われると、確かに何も困る事はない。


 でも……



「だって、そんなハンカチなんかで」


「全ての物には神が宿っているの。あなたなら聞いたことあるでしょ?」



 うちのお婆ちゃんみたいな事言わないでよ……

 ははぁん、解った。

 この人……同じ出身なんだわ! 

 しかも同じ部族の出身なんだわ!

 だからこのペンダントの事だって知ってて……



「俺は聞いたことないなぁ」


「琥白さん、あなた、鳳仙の国の出身でしょ」


「さあ、どうかしら。フフフ。まあ、あの国にも結構いたわ。

 向こうの地方の思想よね、これは」


「そうなんだ……って、だからってそんな事出来る人いなかったわよ!」



 琥白さんは目を細めて笑った。



「簡単よ。あなたにも出来るわ」


「嘘よ、そんなの」


「簡単よ。要するに、神様と仲良くなって、精霊を介して情報を引き出すの」



……はあ?



「ハンカチから? ……何か、魔法みたい」



 琥白さんは目を見開いた。そして、首を傾げながら言った。



「――そうよ?」


「え?」



 占い師、じゃないの?



「その辺のまじない師なんかと一緒にしないで。

 魔法にはちゃんと理屈があるの。

 当たり外れ、信じる信じないではなくてね」


「あの……神とか精霊とか、ちょっと言ってる意味が解らないんですけど」


「うん。解らなくていい。大事なのは感じる事。

 胸に手を当てて聞いてみて。きっと聞こえるわ。フフフ。

 そんな事より、ユール君。ちゃんと言わなきゃダメじゃないの」



 ユールは唇をつき出して下を向いた。



「ごめんよぉ……だって、魔法使いだぁなんて景羅さんに言ったら、子供ガキ扱いされて二度と来てくれないと思ったんだもん」



…………うん、ユールは正しい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ