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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第3章 おてんばメイドと開かずの扉
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次元の狭間

 吐き気が止まらない。


 皆は大丈夫かしら……


 足首が……足枷の部分がひどく痛い……



 海賊船の倉庫らしき部屋に入れられて、もう大分経つ。

 ドアの隙間からほんの僅かな光が見える。それが太陽の物なのか、蝋燭の物なのか……判断できずにいる。



――あたしの名前は景羅(けいら)

 両親と兄の家族四人と共に、黄原大陸(こうげんたいりく)のど真ん中にある大国、鳳仙(ほうせん)の国から、遥か西のファルセリア大陸にあるバルディウス王国に向かう途中だったの。

 理由は内乱クーデター


 バルディウス王国は、一昔前に起きた東方の内乱でも難民を受け入れていた経緯があるから、お父さんが、今回も大丈夫、暫く疎開しようって、言ったから……


 疎開なんて、未だに信じられないんだけど……現在入ってくる情報のほうが、もっと信じられない事態。

 内乱で皇帝から政権を強奪した鳳仙の女王様が、北方の騎馬民族や南方の蛮族の領土へ、突然、もう本当に突然、進行を開始したの。


 周辺の諸外国も青天の霹靂だったみたいで、もう何がなんだか……

 間違いなく言えるのは、戦争が始まったって事。

 大陸西の海岸線まで馬車に何日も揺られ、そこからファルセリア大陸行きの船に乗ったの。


 そこまでは順調だったのに……


 一夜明けたらあたし達の乗った船が、海賊船に襲われて、あたしは倉庫に入れられてしまったの。

 猿轡を噛まされ、手足を枷で不自由にされてて……


 何処まで連れていかれるの? もう、何でよ……

 あたし達……どうされちゃうの?――



 怖いよ……誰か、誰か助けて……



 気を失い、目覚め、もう何度目の目覚めか解らない……

 倉庫内は相変わらず真っ暗で何も見えない……


 ああ、お腹すいた……


 気持ち悪い……ああ、頭がぐるぐるするぅ……



 あたし、このまま死ぬのかな……


 このままだと、本当に……




――ガチャガチャ、キィ……




 何? え、誰か、入って来た……海賊?


 眩しい……逆光で、姿が見えないよ……



「げ! どこだ……あーるぇ! リン、火薬倉庫みたいだ……

 ちょっ……リン! 早く!」



 リン? 誰?


 あ、もう一人来た……



「何。ダメよ、食べ物なんか手出さないで。戻れなくなる」


「常に腹ぺこみたいな言い方やめてくれよ。

 ほら、かわいこちゃん発見」


「え? ちょっとどいて! 大丈夫? 聞こえる?」



 あたしは抱き抱えられた。とっても良い匂い……女の人だ……めっちゃ綺麗な人……


 猿轡を外されるのと同時に、手足の枷が勝手にガチガチと外れた音がした。



 え……女の人、ただ手をかざしただけなのに……今の、何?


「酷く衰弱してるわ」


「ああ。助ける?」



 え……何この男……助ける気ゼロ? 

 信じらんない……

 東方の顔立ちだけど金髪だ……ハーフかな……



「当たり前でしょ。この子だけでも、助けないと可哀想」



 どういう事……あたしだけって……



「でも″迷い人″だろ。この子連れていくの?」



 迷い人? 連れてくって、何処に……



「その前に、何か口にしないとこの子死んじゃう」


「おいおい、助けても良いけど″戻れなくなる″だろ、その子。責任取れんのか」


「この子、きっと鳳仙の国の子よ。服装で判る。きっと、逃げてる途中だったのよ。私のせい」


「運命だろ。君のせいじゃない」


「でも見殺しには出来ない! 

 それに、あの場所に戻れても、あんな世界だもの……」


「確かに。戻っても死ぬだけだな。リンが話しな」


「うん……ありがと」



 何の話なの……解らない……怖い……



「一応、水と食料取ってくる」


「うん」



 男の人は出ていった。



「大丈夫? 話せる?」


「ぅぁ……はぃ……」



 力が抜ける。声を振り絞るのがやっと……



「いい? 信じられないだろうけど……

 あなたはこの世界の″次元の狭間″に取り残されたの」



 次元の、狭間……何……それ……



「何て言うか、世界と世界の……泡同士が″くっついた部分″みたいな場所よ。いずれは大きい方に同化する。

 この船が、魔境の海域に……言っても解んないだろうから手短に言うけど、この船に乗っていた人達は全員、消えたの」



「……ぅ……嘘……死ん、だの?」


「解らない。次元転移の魔法をかけた扉を開けたら″ここだった″のよ。近くの星に行く予定だったのだけれど。

 この空間以外は、どこかに消えたの。ごめんね、説明が難しい」



 星に行く? 魔法? 待ってよ、意味わかんない!

 そんな事より、消えたって何よ……

 お父さんも?


 お母さんも?


 お兄ちゃんも?


 嘘よ……いや……いやぁ!



「ぅ……嘘ょ」


「嘘なら、良いよね。私もそう願いたい。でもこれが事実。

 この空間も、そんなにはもたない。

 だから決めて欲しいの。ここから出るか、留まるか」


「そ……んな……」



 男の人が戻ってきた。


「お待たせ。何、まだ話してるん?」


「うん」


「時間ねえぞ。なぁお嬢さん。現実を受け入れなきゃ、あんたも死ぬだけだ。後は選びな」



「ちょっと! そんな言い方」


「ならどう言えばいい? 俺は優しくねぇし、悪いが時間がない。このまま死ぬか、これ食って、生き延びるかだ。ほれ」



 手渡された柔らかなパン。

 それを見た瞬間、あたしは無心で、夢中でそれを貪った。


 本能? 理性? 何も考えられない。

 でも、あたしは、生きなきゃ……



 いや、生きる! こんな所で死ぬのは絶対に嫌だ!



 それよりも、ちょっと、やだ……何これ柔らかくて香ばしくてメチャクチャ美味しい!

 どうやったらこんな美味しく焼けるの! ?


 外国のパンって凄い……



「美味そうだな。空腹は最高のスパイスだからな」


 あ……


 やだあたし、男の人の前で貪り食ってる。

 恥ずかしい……リン、さん? も笑ってる……

 顔から火が出そう……



「水も飲みな。ミルクもあるぞ。喉に詰まらせたらサ◯エさんだぞ」


「サ◯エサン? 何それ。ウフフ」


「俺の国でみんなに愛されてた陽気な人妻だよ」




――お腹一杯になった。


「元気出た?」



 彼は微笑んだ。何だ、意外にいい人だったのね……



「はぃ……ぁの、お父さんは……お母……さん……どこなんでしょうか……」



 物凄い孤独感に襲われて、あたしは、涙が止まらなくなった。



「泣くなよ……って無理だよな……

 なあ、リン。何でこの子だけ消えてない?

 この空間にいたからってだけじゃ説明がつかない」


「んー、それは……そうね。

 人間の次元上昇アセンションなら皆消えてなきゃおかしい……え、嘘、まさか……それは、これよ!」



 リンさんは、あたしの首に掛けてたネックレスを、手に持って男に見せた。



「おお!? あーるぇ! 嘘だろぉ ……

 君も……いやいや、漫画だよこれじゃ……」



 彼は目を閉じて首を振った。


 マンガって何よ


「マンガって何」


 あ、リンさんも同じこと思ってたのね。




「めんどくせぇな、俺の国にあった娯楽だよ。

 つーか、こんな偶然あるわけ?」


「偶然なんてない。運命なんでしょ、これも」



 二人の会話は、全く理解不能だった。


「予定変更だな」


「そうね。でも……」



 何処からともなく、グォォォォォォという音が聞こえてきた。

まるで地獄の底から何かが這い上がって来るような音……



「――急がないと!」


「もう″マナ″がない!」


「俺のを使えばいい」


「駄目よ! そんなことしたら、また――」


「いいから! 俺は死なねぇから良いけど、このまま扉の向こうに行ったらこの子は死ぬ」


「わかってるよ。でも、やっと逢えたのにまた何百年、何千年も離れるなんて、い――」



 彼女の言葉を、髪に触れながら遮って、頬を伝う涙を指でなぞった彼……やだ、何この展開……ドキドキして見れない。


 てか、何千年って言った? ……



「嫌だよな。でもそれが現実、だろ?」


「……うん。ごめんね」



 微笑んだ彼は、胸元から光るペンダントを取り出して、私のペンダントに重ねた。


 同じものを……この人も持ってるなんて……


 ペンダントの光が、あたしのペンダントに、移って行く……


「これも運命なんだろ。大丈夫、祈りは叶う。

 また会えるさ――」


「冬弥……必ず、またね!」



 笑顔の彼は光に包まれて、弾けるように消えた。


 嘘……何、何が起きたの?



 そしてリンさんは、涙を拭きながら言った。




「必ず見つける! ケイラちゃんも、必ず見つけるから! それまで、生きて!」


「え……リンさん、一緒に居てくれないんですか?」


「ここは世界が違うの。あなたと次元を合わせるのに時間が――必ず迎えに――待ってて――ケイラ――



 目の前、というか辺りの景色が急にぐにゃぐにゃと歪み初めた。うなり声のような音はピークに達し――リンさんの声が遠くなって――



――あたしは、ペンダントの光に、全身を包まれた――







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