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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第2章 森の狩人と近衛騎士
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夜明け

『……なあ兄貴、聞いてく』


「駄目だ。認めねえ」


『兄貴……』



 何を言いたいのか、解ってるから即答してやった。


 認めない。

 この世界から、トモがいなくなるなんて。

 認めたくない。



「もう良いじゃねえか、これで終わりだ。

 なぁそうだろ? 牡鹿の封印も解けたし、アルファも居なくなったしよぉ」


『逃げただけだ! あの野郎、俺は絶対に――』


「俺達は関係ない! 蒼き血脈だ? 知るかそんなもん!

……俺達の生活はどうなる。此処まで頑張って、二人で、あのごみ溜めから、歯ぁ食いしばって、二人で……

 やって来てよぉ……これまでの人生、棒に降るつもりかよ!」


『違う! 俺は、自分が何者か知りたいんだ!』


「お前は! ……おまえは……」



――にぃにぃ待ってぉ――

――兄ちゃん、これ見て! 綺麗な虫……くさっ! ごめんなさいごめんなさい――

――おめでとう! 兄貴もこれで正騎士だね――

――兄貴やったよ! 無制限通行許可章が取れた! ――

――まじ鹿、美味ぇ! 兄貴そこ焼けてるって――

――兄貴、僕はこの世の景色を全て見に行くぞ! ――


――なぁ兄貴――



俺の……弟だろ……



思い出が溢れた。涙が止まらない。

トモから顔を背けた。



「チッ……馬鹿野郎……お前は……馬鹿野郎だよ……」


『兄貴……』



再び、長い沈黙が訪れた。



『――兄貴。東方の国にとっても″似た世界″に行った時にね、ある山の神に言われたんだ。

 お前は″三千世界″を股に掛けるつもりかって。

 何それって思ったの。

 世界が三千個もあるの? って聞いたんだ。

 そしたら、違うって言うの』


「三千世界か。ふっ、そんなに有るわけ――」


『十億個あった』


「え」



耳がおかしくなったのかと錯覚した。



『この″宇宙″がね、千個集まって小千世界って呼ぶんだ。

 その小千世界が千個集まって、中千世界。

 その中千世界が千個集まって、大千世界って呼ぶんだって。

 で、大千世界は三つあるって言うの。

 だから三千大千世界と呼ぶって、その神様は教えてくれたんだ』



 おいおい……多すぎやしないか……



「うーん。えーと、そうなると」


『千の三乗個。つまり十億の宇宙があるって事』


「想像つかんな。この一つの宇宙だって何にも解ってないのに、鳳仙の国の人口と同じ位の数の宇宙が、他にも存在するっていうのかよ」


『兄貴……俺の夢、覚えてる?』



 痛い所を突かれた。どうやっても、行くつもりか、トモ……



「考えろよ、トモ。お前まだこの世界の全てすら見てねえだろ。

 それに、十億個って……

 一日一個の宇宙を見るとして何年掛かる?」


『……二十七万三千、九百……小数点を時間で出すと……』


「もういい。そんな事が聞きたいんじゃない。頭良いなら解るだろ、馬鹿野郎! どう考えたってそんな年月を――」


『解んないだろ! 現にこうして、身体なんか無くったって俺は生きてる!』


「知らねえよ! 駄目だ!」


『僕の人生だ! 決めさせてくれよ! 僕がワガママ言ったの、そんなに無いはずだよ? 兄貴……頼むよ』



 トモ……お前が猛反発するのは、これで二度目だな。


 狩人になるって言ってきた、あの日だったな……



――やがて夜明けと共に、弟は俺のペンダントの中に、小さな光となって消えていった――

目の前には至って普通の、鹿の死体が残されただけだった。


――これでランス兵長への土産が出来たな。


 目覚めたジェイク達は見張りを交替しなかった事に対して心底謝罪してきたが、俺はそんな事は心底どうでも良かった。


 コレルは風邪扱いにされた。昨夜の事は鹿を見た事以外何も覚えておらず、それもまた風邪のせいにされていた。


 ウォレスが結界の見張りに付き、残りの3人で、森へと入った。


 俺が真っ直ぐ中腹へと向かう事をジェイクは不審に思われたが、それももう、どうでもいい。


 開けた中腹の岩場の片隅で、トモの遺体をカミラが発見した。


 岩場にもたれ掛かり、弓を持ったまま……まるで笑っているような、表情だった。


 その辺の大木や大岩を殴りながら号泣するジェイクをよそに、俺はペンダントを……蒼炎の紋章を、トモの持つ紋章へと、重ね合わせた。


 俺の持つ″トモの紋章″から光が消え、トモの持つ

″俺の紋章″に光が宿り、その光はトモの身体を包み込んだ。


 目を見開いて驚く二人は、その場で立ち尽くしたままだ。



 うんうん、暫くそうしていてくれると助かる。



『兄貴……ありがとう……』



 トモの声が頭に響いてきた。



 黙れ、兄不幸者め。


……行ってこい。そして気が済んだら……



『解ってるよ。必ず戻る。あ、言い忘れてた事がある』



 何だよ。手短に頼むぜ、あいつら、何すっか判らんぞ。



『蒼き狼に掛けられた″呪い″の事だけれど』



 ああ、邪視の呪いか。覚えてるよ。



『呪いは末代にまで、少なからず影響を受けるのが世界の常識だ。僕達も例外じゃないんだよ。だから、気を付けて』



 そっか。知らない常識をありがとうな。

 あ、だからマクレーン副団長が大嫌いなんだな、俺は。

 やっと理解できたよ。



『そりゃちょっと″飛び過ぎ″だ。アハハ……』



「ハッハッハ……飛び過ぎなのはお前の夢だろ、バカタレ……」



 トモの身体は、弓だけを残して、光と共に……




さて、これからどうすっかな……こいつらに何て言うべきか……



「おい説明しろマサト! 何が起きた? お前は俺の親友だよな?」


「何? 何? 何なの? ねえマサト!」



――鳥の鳴き声。緑生い茂る森の中。

 大木がところ狭しと生え列び、その上では葉が風に吹かれてさざめいている。


此処は″帰らずの森″の中腹付近。


 恐ろしげな名前ではあるが、なぁに、3日も寝泊まりする準備さえあれば、誰でも生きて帰ってこれる。



――何処にでもある森の中だ――




「――なぁ、お前ら、鹿肉食った事ある?」




「「マサト! 」」




──第2章──終──

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