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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第2章 森の狩人と近衛騎士
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祟り神

『牡鹿は力を奪われてるから、自分の張った結界すら、破れなくて……』


「誰も助けてくれなかったのか?」


『蒼き狼に所縁のあるものは結界のせいでこの国に入れなかったんだ。

 その一部始終を見ていた神々も、見返りが無ければ何もしてはくれない。

 兄貴の言ってた、需要と供給のバランスがおかしくなるからね』


「何てこった……」



『蒼き狼は、傍観しいてるだけのそんな役立たず(神々)を呪った。そして何よりも、妻を殺してしまった自分自身をも呪ってしまった』


「自分で自身を……自責の念は計り知れないな」


『そう、祟り神さ』


「祟り神に……」


『蒼き狼はこの時、怨みの炎を宿した。

 蒼き炎を身に纏った、蒼怨之狼と呼ばれるようになったんだ』


「そうえんの、狼……」


『今では、炎を当てた呼び名になったけれど、当初は怨みの字を当てられて呼ばれてたらしいよ。

 そりゃもうとにかく、神も魔物も、動くものは見境なく殺し捲ったらしい』


「おっかねぇな。しかもたちが悪い。それからどうなった?」


『退治された』



 簡単に言うなよ……



「退治って、神に殺されたって事?」


『いや。倒したのは、人間だった』



 嘘だろ……



「人間が神を殺せる訳ないだろ、そんな――」


『やったのは東方の民。

 どこの部族かはまだこれから調べる所。詳細不明だよ』


「どうやって殺したんだ?」


『兄貴、僕は一言も殺したとは言ってないよ。

 退治されたって言ったの』


「同じじゃねぇのか」


『ちょっと違うんだよ。東方の民の、古来の秘術で″神降ろしの術″というのがあってね。そいつを使ったんだってさ』


「神降ろし? それって、神が降りてきて予言みたいな事するのと違うのか?

 ガキの頃に、よく隣村の婆さんがやってたろ。

 さっきみたいな″憑依″の事じゃなくて?」


『一般的にはそうだよね。俺達の時代はね。

 でも、古代の東方の民の神降ろしは、ニュアンスが違うの』



 生唾を飲み込んだ。こんな話は初めて聞いたし、驚きだ 。

 そして何より、トモがこれ程までに伝説に詳しい事が……

 気味悪い。


 五年間の放浪の旅が、嘘でなかった事の証だ。



「どう、違うんだ?」


『神が神でいるうちは、人は触れることすら出来ない。

 この秘術は、神をその立場や地位から″強引に″引きずり下ろすんだ』


「引きずり下ろす、のか。

 それでも神だろ?人間がどうやって……」



 そんな事、出来るのか…………



『そう。人間じゃ無理。けど、同格の神なら殺し合える。

 蒼き狼はその術でクラスの下がった瞬間に、同格の″神の剣″を持った東方の剣士よって八つ裂きにされたんだ』


「うぁ……救い用の無い話だな。

 そっか、神剣か……でも、殺した訳じゃないってのは?」


『僕もまだその辺の詳細は知らないんだけど。

 殺せなかったのか、殺さなかったのかが解らない。

 噂ではその時使用した神剣の″性格″に問題があったとか』


「性格って何だ。剣に心なんかあるかよ馬鹿馬鹿しい。

 だいたい、噂って。あははっ、誰の噂だよ」


『まぁ僕の中では五年間だけど、この一週間、各地の神々に聞いて回ったんだよ』


「何でよ」


『言ったろ? 牡鹿に頼まれたの。

 このフェイセリアの世界に再びアルファを誘き寄せる為に、俺は牡鹿に代わって策を練ったんだ』


「何か……お前、色々と凄いな……」


『作戦は上手く行ったよ。

 とある世界で、俺達の持ってるペンダントが″蒼炎の紋章″っていう神具だって事を知った時には、これだぁ! って思わず叫んじゃったよ。アハハ』


「これだぁって……お前、色々と可愛いな」


『うるせ! この神具、感情で色が変わるって聞いてたでしょ? 実は俺達の生命力を色で表すらしいんだ。

 いわゆる″マナ″を溜め込む事が出来る代物でさ。

 情報伝達だけじゃなく、異世界へのトンネルの役割も果すんだよ!』


「あ、あー、ちょっともう色々と驚き過ぎてて、よくわからないな。凄いの?」



 トモは頭の角をぶつけてきた。



「痛っ、やめろ」


『ちゃんと聞けよ! これが、今回一番の収穫だろ!』


「何でだよ」


『解んないかなぁ。

 これ持ってたら、マナを貯めるだけで異世界に行けるんだよ? 小難しい手順を踏まなくてもね!』


「……へぇ」



 鹿は再び角を、今度はグリグリとぶつけてきた。

 

「痛いって! 何なんだお前は。なあ、もしもお前の体がもう……そうなったら、お前は死んだことになるのか?」


『多分そうなるね』


「じゃあ早く行こうぜ」


『危ないよ、夜だもの』


「何言ってやがる夜行性が。お前は今、鹿だろ! なぁなぁ、背中乗せろよ」


『それが本音か! 乗りてえだけじゃん! やめろ!』



 角に捕まったが振り回された。

 すげえ、ジェイク並にパワフルだな、鹿め。



「一度やってみたかったんだよ。いいだろう。ケチ」


 暫くの間があり、穏やかな冷風が頬を掠める。




 感じ取っていた。




 付き合いの長さが、これからトモが口を開いたら何を言い出すのかを。

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