表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第2章 森の狩人と近衛騎士
14/44

遠い真実

「さっきのは何だったんだ? 人に憑依するって、悪霊か何かか」


『いや、あいつは、古代の神様なんだ。俺は″アルファ″って呼んでる。魔物の元祖みたいな神だからね』


「アルファ……ちょっと待て、神だと?」


 真水を引っ掛けられたような思いがした。


 あんなのが、神様って!



『うん。異国じゃ、邪神と呼ばれる存在さ。ここじゃ、忘れられた存在だからね。この世界じゃ大した力を使えないんだ。

 神々は、人々の信仰心から生まれるエネルギーを糧としてその莫大な力を維持してるから』



「うむ。騎士団で習ったような……需要と供給って感じか。しかし、あんなのを信仰する人間の気が知れん。

 そうだ、アルファが言ってた、蒼の血脈って何だよ」


『俺達は、東方の神の化身、蒼き狼の血筋って事だよ』



……何を言ってるのこの鹿は。



「おかしいなぁ、そうなると俺達、神様の末裔って事になるだろうが」


『俺だって知らないよそんなの。白き牡鹿に会ったら自分で聞きなよ』


「はあ? そこでぶん投げるか貴様。白い鹿はお前だろ!」


『あ、違う違う、俺は白き牡鹿なんかじゃ無いよ』


「おい……ならその姿は何だ」


『これは″契約者″として彼の力を借りたからこうなってる。

 この世界に戻る為にちょっとその辺の鹿に入る必要があったの。

 この鹿は只の鹿さ。ちょっと体を借りてるの』



 ふーん、そうなのか……ん?


「お前それって、アルファと同じ事してねえ? 憑依だろそれ」


『あはは、そうだね。でも人間に憑依するとさ、人によっては気が狂ったりして後で大変な事になるから、同種でない動物にしたんだよ。俺って優しいだろ?』




 優しいの意味取り違えてねぇか? 人間は憑依なんてしねぇんだよ……



「そ、そうか。よくわかんねぇけど、いつまでその姿なんだ?そのままじゃ俺が狂っちまうよ」


『兄貴の気が落ち着くまでだな。殴られんのは嫌だ』


それが本音か! この野郎……


「そうかそうか、なら一生そのままか」


『えー!』



 鹿は跳び跳ねて転んだ。

 ちょっと面白い。



「お前の身体は? どこに置いてきた」


『森の中腹。沼の近くにあるよ。もう、骨になってるかと』

 


 骨だと?



「えー? 何やってんだよ! 先に伝えること逆だろ! て……お前……死んだのか」


『だって……僕がいなくなって、五年くらい経ったよね?』



 五年? ……五年?



「何言ってんだ、一週間だよ」


 再び跳び跳ねて転ぶ鹿。

 何度見ても面白い。



『えぇぇぇぇ! マジで?

 僕の体感時間はあれからもう五年間くらい経ってるぞ?

 別の世界で色々と旅してきたんだけどなぁ……

 時間の流れが違うのか……そうか一週間か。

 回復魔法でもギリギリかぁ。間に合うと良いなぁ……』


「するとお前…………ちょっと待て、五年も放浪してたのか。

 置いてきぼりか? 俺の気持ちはどうなる!」


『ごめん。これでも急いでたんだ。

 別の世界って、其処に存在するために物凄いエネルギーが必要でさ。消費した力をもう一度溜める為に色々したし、その手順を踏むのに苦労したんだ……』


「そもそも、何で行ったんだよそんな所に」


『白き牡鹿に頼み事されちゃったの』


 神様に頼まれ事か。出世したな。


「神様が人間に何を頼むって?」


『牡鹿は、此所を離れる事が出来なかった。アルファに封印されてたからね』


「アルファに?」


『兄貴の鎧に付いてる騎士章、よく見ろ』


「……牡鹿だな。何だよこれが関係あるのか?」


『ああ、大ありだ』


「それってどういう……あ、地霊神か! でもちょっと待て……

 伝説では妖魔がこの地を護ってるっていう話じゃ……」



 バルディウス王国の紋章は牡鹿(おじか)だ。建国時に何か陰謀めいた事があったんだな?



『白き牡鹿は好きで地霊神をやってた訳じゃ無いんだ。アルファに騙されたの』



 ほら来た!


「騙された、とは?」


 神をも騙す神、か……



『蒼き狼は妖魔を根絶やしにしたんだけど、アルファだけ逃してしまった。

 伝説では妖魔が誓いを立てて地霊神となって、めでたしめでたし、なんだけど。実際は違った。

 アルファは此所、この森に追い込まれた時に、蒼き狼に邪視の呪いをかけたんだ』


「邪視の呪い?」


『聖視の呪いとも呼ばれてる。心正しき者が悪者に見えてしまう逆転の呪いなんだよ。

 蒼き狼は此処でアルファを殺した気でいたんだけど、死んだのはそう、白き牝鹿()だった。蒼き狼にはきっと、命乞いするアルファに見えたんだろうね』


「酷ぇ……なんて酷い事を……」


『そして愛する妻に化けたアルファは、この地を統治したらすぐ戻ると約束をしたんだ。

 蒼き狼は先に東方の国に戻って……待てども待てども、もう帰ってくる事は無いのに』


「酷いな。あ、ちょっと待て、牡鹿はどうした?」


『牡鹿は、その時まだこの森で、死んだ牝鹿の腹の中にいたんだって。

母親は最後の力を全て、子供に注いだんだろうね。

 彼は奇跡的に助かったんだけど、そこにアルファは目を付けた』


「またかアルファ! 今度は何したんだ?」


『入れ知恵さ。助けたのは自分で、母親を殺したのは″誰″かって。そうなったら』


「言わなくても解るさ。俺達のように、親を恨む」



 何とも、最悪な気分だ……


『そう。怒り狂った息子は、この国に結界を張った。

 蒼き狼が……父親が二度とこの地を踏めないように。

 これが、此処が″帰らずの森″と呼ばれる真実なんだ』


「そうだっのか……」



……父も此所に戻れず、息子は東方に帰らず、母も二度と……



『近隣の神々が要約、おかしいぞって気付いた時には、すでに手遅れだった。

 世間知らずの息子は、アルファに力を奪われて封印されてしまった。地霊神にされてしまったんだ。

 あいつは、その奪った力を使って、別の世界へ逃げてしまったんだよ』


「なんて……何て汚ぇ事をしやがる」



 それが神のすることか!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ