烈の瞬き
手にしたペンダントはいつもより強く光輝いていた。
「むぉ!?――」
クァァァァァァァ──
甲高い音が鳴り響き、ペンダントの光は大きくなっていく。
持っているのが辛くなるほどの熱が手に伝わってくる……
くっそぉ、トモの野郎! 熱いって言えよ!
『ごめーん。もうちょっとだから』
軽く言うなよ! 火傷確定だぞこれ!
俺の苦悶の表情に比例して、コレルの顔がみるみる歪んでいく。
「貴様ぁ! 既に″其処に″居たのかぁぁっ!」
そして、コレルを包み込むほどの巨大な光の矢が、ペンダントから迸った。
――バシュゥッ!
「ぐぅぁ! これ程とは……認めん! 認めんぞ! 貴様等、蒼の、蒼のああああああぁぁぁぁ……」
「黙って死ねぇぇぇぇぇぇ!」
『いやいやいや、兄貴、さっき言ったけどそいつ死なないんだってば……ま、いっか』
貫いた光は消え、コレルは両膝を地面に着き、仰向けに倒れた。
「コレル! 大丈夫かコレル!」
コレルを抱き抱えた。息はしている。酷い脂汗をかいてはいるが、いつの間にか辺りを漂わす異臭は消えていた。
『逃げやがった……野郎、やっぱり白き牡鹿の言う通りだったぜ』
白き牡鹿? なんだそりゃ。
「メスじゃなかったのか? 伝説じゃ、白き″牝鹿″って聞いたぞ? どっちだ?」
『あ、それはね……』
「ぅ……うぅ……ぁ……何で、鹿が……」
「コレル!」
目を開けたコレルが、俺の後方を見て震えている。
「鹿? お前まで何言ってん――」
気配を感じ振り返ると、其処には真っ白い体毛の牡鹿が立っていた。
「うおあっ! しし、しか、しろ、し、し鹿っ」
『驚かなくて良いよ。俺だよトモだよ』
「え? トモ? ……はぁ? トモって、何で、お前、鹿になったの?」
頭がどうにかなったのかと思ったが、確かに先程のやり取りを思い出すに、今更、もう何も驚く事はない。そうだそうだ。落ち着こう。
俺は深呼吸をすることにした。
『説明は後で。取り敢えず、その人を休ませないと』
「お、おぅ」
コレルは朦朧としていた。テントに運んで寝かせる。
水を飲ませると、コレルはあっという間に安らかな寝息をたてて眠った。
はあ、俺も、喉がカラカラだ。
『あ、兄貴はその水飲んじゃダメだ。この辺に生えてる″眠り草″を擦った匂いがする』
「ブッ! あっぶねえっ! 何で? えぇ? 何で、口付けてから言う? バカ? お前バカ?」
こいつは……
『ヒッヒッヒッ……鹿ですが何か』
間違いない。この馬鹿な鹿は間違いなく、俺の弟なんだとやっとこれで確信出来た。
皆暫くは起きないだろうと言う弟の言葉に従い、俺達は再び見張りをしていた切り株の所まで来て腰掛けた。
「ふぅ……」
夜空には沢山の星が瞬いている事を、今更に驚く。
街で見上げる夜空とは圧倒的に質量が異なって見えた。
「此処は星が綺麗だな。こんなに煌めいて入るとは」
『ああ、あいつが逃げたから余計に空が澄んでるね』
「そうなのか」
こうして兄弟で夜空を眺めたのはいつの頃だったか……
そう、あの頃と違うのは……それぞれの立場と、今コイツが鹿になっている事。
そうそう、後は何にも変わっちゃいない。
……大問題だよ。
「トモ。ちゃんと説明しなさい。兄ちゃん怒らないから」
『嘘だっ!』
怒りが治まらん。コイツばかり何か知ってる感がどうにも許せん。
内容次第じゃ、白い鹿だろうが何だろうが、容赦なく殴りつけてやる……
……まぁ、結局何も出来なかった自分に一番腹が立っているんだけど。
『兄貴さぁ、そう言って怒らなかった試しがねぇじゃん』
「そうだな。解るか? 俺が今どれだけ……お前がそんな姿じゃ無かったら――」
『ぶっ飛ばされてる。解ってるよ』
悪びれもせず淡々と言葉尻を返しやがる。
全く、怒りが逸れちまったよ。
「ならいい。話してくれ」
『うん。じゃあ、この土地にまつわる話からいこう。
実はこのバルディウス王国が建国される前……
遥か昔に起きたとある事件から説明しなきゃならないんだけど……時間あるから良いよね?
今から二千年くらい前――』
「おい! つい三年前みたいな口調で古代を語るのははよせ。
二千年前だと? どんだけ大昔の話なんだ。見たわけじゃあるまいし」
『ハハハ、俺達、忘れてるけど実は見てきたらしいよ。魂がね。最も、俺も牡鹿に逢うまでは、はあっ? って感じだったけど』
「魂、だと?」
これからトモが話す内容は、俺の許容範囲を遥かに超えたものになる事は、間違いないようだった。