calling
身構えた俺を嘲笑うコレル。
身体中から嫌な汗が吹き出し、まとわりつく様な、今まで生きてきて感じたことの無い不快感と恐怖が襲う。
嫌な臭いが漂ってきた。獣の様な、それと何かが腐ったような異臭。
間違いなく、″目の前に居る者″から発せられているものだった。
「フフフ……紋章を、見せるんだ」
「コレル!」
いや、違う。コレルじゃない。
コレルの姿をした″得体の知れない者″だ……
「そんなに怯える事もなかろう。もうよい。
妾は話し合いにきたのだぞ? フフフ……そんな物でどうにかできる相手だと? 無礼な奴め。フフフ……」
鉄槌を握っていた自分に気づいた。
こいつ……信じたくはないが、死霊の類いか……やれるのか? こいつを……
皆は? ……クソッ何で結界内に――
「どうやって此処に入ったんだ! 一体テメェは何者だ!」
「ああ、結界の事か。フフ……まだ霊や魔物の様な低俗なものだとお思いか?
フフフ……″主人″に逆らう下僕なぞ居らぬ。妾は貴様ら人間共とは住む世界が違うのだよ」
「質問に答えろ! 何なんだお前は!」
「フフフ、解らぬということはさぞや恐ろしかろう」
どう考えても精霊、ではないよな。
妖精……いや、まさかジェイク達の言う通りなのか?
「妖魔、なのか?」
「フフフ……そんな風に呼ばれ、忌み嫌われていた事もあったかのう。だが、そんなものはとうの昔にこの世界から逃げおおせたわ」
妖魔じゃなかったら、何だってんだよ……
「ジェイク! カミラ! ウォレス!」
「呼んでも無駄だ。私の絶品料理はさぞ満足だったろう」
「クッ……何食わせやがった!」
「安心しな。私は貴様等兄弟にしか興味はない」
兄弟、だと……こいつ、トモの事を……この野郎が!
「そうかい、テメェがトモを……弟をどこにやった! 返答次第じゃぶっ殺す!」
怒りが溢れてくる……尋常じゃない怒りが!
化け物は、まるで上等な葡萄酒を飲み干したのような、恍惚の笑みを浮かべた。
「うぅぅん、素晴らしいぃ……流石、蒼き血脈は素晴らしい怒気に満ちている……八つ裂きにされてもこれ程の……本当に素晴らしい」
嬉しそうに笑うコレルの表情は最早、人と呼ぶにはあまりにもかけ離れた狂喜の表情をしていた。
「ごちゃごちゃと訳わかんねぇ事言ってんじゃねぇぞ化け物! 弟はどこだ!」
化け物は、首を傾げた。
「ん? なぁんだ。貴様本当に何も知らないのか。
私も探していたのだが」
「何ぃ? 私もって何だよ。
弟と俺と、一体お前は何が狙いなんだ!」
「勘違いするな雑魚め。貴様に答える義理はない。
が、一つだけ答えてやるとするなら、二人まとめて塵に還してやろうと思っていたのだがなぁ。残念だ」
御託は聞き飽きた。もう限界だ!
「ぅらああああっ!」
鉄槌を振りかざしたその時。
『――ダメだ! 兄ちゃん! 戦っちゃダメだ!』
直接頭に、けたたましい声が響いた。
同時に胸元から、熱い鼓動のようなものを感じる。
誰よりも聞き覚えのある声。
「なっ」
『兄貴、返事はいいから黙って聞いてくれ。今戦ったら兄貴の仲間が死ぬだけだ! 仲間は奴に憑依されてる!』
憑依だと?
「何だ? どうした。かかって来んのか?」
コレルは右手の指をクイクイとして挑発してくる。
『挑発に乗っちゃダメだ! 大丈夫、アイツは今の兄貴に手が出せない』
「ど、どういう」
『黙って!』
辺りを見渡すも、コレルと俺だけだった。
「ん? どうした。何をしている。助けなら来ぬぞ」
『――後でちゃんと説明するから、今は俺の言うことを信じてくれ。
″ここの世界″じゃ、奴も俺達も、互いに手が出せない!』
頭に響くトモの声はとても焦っている様子だ。
そして、どうしたらいいのか判らない今、俺はトモの言葉に従う事しか出来ないと悟った。
わかったよ、トモ。指示をくれ。
『ありがとう! さっすが兄貴、話が早い。
よし、俺の合図であの白銀の紋章を奴に向けてくれ!』
白銀の紋章を? ……ったくどいつもこいつも、ペンダントが何だってんだ。
わかった。やってやる!
俺は鉄槌を放り投げた。
「フフ……妾は聞き分けの良い人間は嫌いじゃない。やっと命令に従う気になったか」
俺は、化け物を見据えた。
『よし、今だ!』
鎧の隙間から胸元に手を入れると、勢いよくペンダントを取り出した。




