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戦いの国の少女アリス-fairy game-  作者: 花澤文化
第1章 1回戦、開幕
9/13

第8ゲーム 異形種とは

「完敗だ・・・」


 汐海は時間停止空間が崩れた後の大学内。図書館の前にあるベンチに座りながらそう呟いた。

 そんな汐海の隣に座るアリスは悔しそうに下を向いている。

 対するその相手であった三木は汐海の前に座り、誇らしげに笑っていた。その隣には静かに目を閉じている獣人種、ミカグラがいる。今は人間モードだ。


「いやあ、すまんね七実」

「謝る必要はないけど・・・そのしてやったり顔が腹立つね・・・」


 汐海はそれなりにゲームが上手い。

 だから妖精戦争というゲームでのオンラインバトルではなかなかの勝率を誇っていた。対する三木はそもそもそこまで熱心にゲームをやっていたわけではなく、オンラインバトルも気が向いたら。さらに勝率もそこまでよくはなかった。

 それ以前に自分のキャラがごつい獣人ということで文句ばかり言っていたのだ。


(分かってはいたけど・・・この戦争と呼ばれるゲーム・・・あながちゲームと呼んでいるのも間違いじゃないのかもしれない)


 汐海はそう考えていた。

 三木やミカグラは明らかに自分やアリスよりも場数を踏んでいる。レベルだって違うはずだし、能力値だって違うはずだ。現に銀色の腕輪の能力で見た事の無い能力を三木は扱っていた。

 汐海は使えて連射のみ。

 やはりレベル差というものは相当大きいように思える。

 しかしその反面、ゲームとして練習させることが目的だったあの最初ゲームの経験はあまり生かされていないようにも思える。

 これは戦争であり、ゲームである。それが一番正しいのかもしれない。


(レベルも元に戻って・・・これじゃあ、最初から始める、じゃないか)


 汐海はゲームをリセットするときに使うそのワードを思い出した。


「くぅ・・・汐海様に勝利をプレゼントできませんでした・・・不覚」

「不覚?それはおかしいな妖精種。大体魔法を使える妖精種や精霊種は昔から獣人種を舐めすぎているのだ。だからこそ・・・私の拳に後れを取る」

「私が使えるのは魔法じゃありません!もっと扱うのが難しい魔力そのものですぅー!」


 気付けばキャラクター同士が喧嘩していた。しかも小学生みたいな言い合いだ。やはりこの争っている種族同士仲よくしろというのは無理みたいだ。

 当たり前である。ここではゲームのルール上好き勝手できないが、向こうではきっと戦争と呼ばれるほど凄惨なことが起こっていたのだろうし、お互いがその被害者で加害者なのだから。

 三木に止めるつもりはないらしく、汐海も三木との話に集中することにした。


「三木も参加してたんだね」

「ああ、というかほぼ間違いでな」

「間違い?」

「七実も見ただろ?あのゲーム参加の掲示板」

「あー・・・」


 汐海は思いだす。

 このゲームに参加するきっかけとなった掲示板の文章を。

 あの説明文はどうみてもゲーム内でのものだと思ってしまうような内容で、唯一おかしいのは参加者は死ぬかもしれないという一文。

 それもふざけているのか、緊張感を出すための演出かと思ってしまう。

 現に汐海も最初はゲーム内で何かイベントが起こると思って参加したのだ。


「でも、確か初めてこのキャラクターと出会った日から24時間以内に腕輪を自分で壊したら、参加しなくてもいいんじゃなかったっけ?」

「・・・・・そうだ。そうなんだよ。でも・・・このミカグラがそれを教えてくれなかったんだ!」


 半泣きでミカグラを見る三木。

 しかしアリスと言い合いをしていたミカグラは大して動揺することもなく言い返した。


「我が主に逃げという一手など必要ない。そう思って教えなかったのだ」

「逃げるに決まってるだろ!これ死ぬかもしれないんだぞ!どうせお前だってこの腕輪を壊されたら聖域とやらに転移させられるのが怖いんだろ!」

「どうやら・・・私に殺されたいらしいな」


 半分脅されていた。

 確かにこの分じゃわざと負けることも許してくれそうにないな、と苦笑いする。

 とはいえ、傍からみれば仲がよさそうに見える。汐海はなんだか少し安心した。


「そういう七実はなんで参加したんだ?」

「僕・・・?んー、なんでだろう」

「まさかお前その可愛いアリスちゃんが困ってるから助けるために戦ってるとかそういう主人公っぽいこと言うんじゃないだろうな!」

「そ、それも少しはあるけど・・・」

「大体汐海様ってなんだよ!ずるすぎるだろ色々!」

「一応様付けはやめてって言ったつもりなんだけど・・・」


 アリスを見るとその間も警戒を緩めていないようだった。

 主にミカグラに対する。


「私も様付けで呼ぼうか、宗司」

「絶対にやめろ」


 がりがりと頭をかく三木。


「そんなこんなで強くなるにはレベルを上げるしかないと思って手あたり次第戦ってたわけよ。相手の腕輪を壊すのは・・・あんまりいい気分じゃないけどな」


 腕輪を壊されて消えたキャラクターはどうなるか分からない。しかし必ずペナルティがあるはずだ。汐海は聖域送りではないか、と考えている。

 生き物が生きることのできない神による地域、聖域。

 しかし腕輪を壊す、その行為を否定する気はなかった。自分が勝ち残るため、愛着のあるキャラクターを助けるため、そして自分の願いを叶えるため。

 そのために勝つことはしょうがないことだった。


「ま、でも身近に仲間がいてよかったわ」

「うん、僕もそう思う」


 最初は心配していた汐海であったが、そんな三木に簡単に負けてしまったのでどちらかといえば自分の方が心配される立場になってしまった。


「今はこうして話してられるけど24時間経ったらまた空間が出るのは少し面倒だね」

「空間が出にくくなるらしいし、そこまで心配する必要はないんじゃね?というか、というかさ。俺たち2人いればレベル上げとかすごく簡単に出来るんじゃないか?」


 三木が嬉しそうに話す。


「ほら、決着は着かなくても経験値はもらえるし、繰り返し七実と戦い合えば永遠にレベルアップができるんじゃ・・・・・」

「それは現実的ではない」


 しかしその案をミカグラはばっさり斬り伏せる。


「確かに経験値はもらえるが、腕輪を壊すのと比べれば微々たるものだ。それに戦えば戦うほど時間停止空間は発生にしくくなる。レベルを1上げるだけでも膨大な時間がかかるだろう。その間に他の者はもっとレベルが上がっているに違いない。さらに個人的な感想を言えば、そんな勝ち負けを決めるつもりのない無駄な消費はしたくない」

「・・・・・へいへい」


 現実的ではないかもしれない。

 しかし無理やり参加しているとはいえ、ミカグラと三木はいいコンビに見えた。


「んじゃお互い何か情報が入れば交換し合おうぜ」

「うん」

「ふ、不本意ですが・・・汐海様が言うのなら・・・」


 アリスは最後まで悔しそうにしている。

 すると少し油断して獣の姿になりそうになっているミカグラが話しだす。


「一度戦ったよしみとして教えておく。ここらへんにどうやら異形種がいるらしい」

「異形種・・・!」


 反応したのはアリスだった。


「異形種って確か・・・同じ種族でも1人1人姿が違うっていう・・・」

「そうです、汐海様。そして最も恐ろしい種族です」


 アリスが話しだす。


「元々他の種族より数が少ないので、私も直接は戦っていないのですがどうやら同じレベルの他種族が3人がかりでようやく1人、倒せるレベルらしいです」

「そ、それって・・・」


 相当なのでは。

 汐海がそういう前に三木が声をあらげる。


「ちょ、ちょっと待てよ!確かに今まではそうやって倒せたかもしれないけどよ・・・このゲームのルールって今1対1だよな?かなりまずくないか・・・?」

「私はまるで負ける気がしないが・・・他の種族より苦戦する可能性がある」

「それに・・・確かこのゲームって1つの種族200人ずつ参加してるんだよね?」


 汐海がさらに繋げていく。


「最大数でさえも合わされてしまってるのなら・・・」

「な、なんだよそれ!調整の間違ったクソゲーじゃねぇか!」

「この前までのオンラインゲームだったらそれでよかったかもしれません。ですが今は違う。無理でもなんでも生き残らなければならないんです」


 アリスがきっぱり言い切った。


「先に言っておくが、私たちも異形種にただ劣っているわけではない。ただ、色々と不確定でよく分からない相手なのだ。強いというよりは戦いにくいという表現が合っているのかもしれない」

「戦いにくい・・・」

「それに・・・異形種には私たちにあるような道徳的観念がない場合もあります。そこらへんも不確定ですから。私たちが進んでしたがらないようなことも異形種には可能になる」


 ミカグラはアリスのセリフに続いた。


「まさにそうだ。どうやらここらへんにいる異形種は戦った相手のキャラクターや人間を腕輪を壊すのではなく、殺して勝ちを得ているらしい」

「ころ・・・」


 三木が言葉に詰まる。


「な、なんで俺に教えてくれなかったんだそんな恐ろしいこと!」

「宗司に教えたら怖がって騒ぐと思ってな」

「そら騒ぐよ!」


 ぎゃーぎゃー言っている三木をひきずりながらミカグラはその場から離れていく。


「とにかく注意するにこしたことはない。宗司の友人であり、優しい貴公らには言っておく。くれぐれも気をつけるようにな」


 一言そう残してどこかへ去って行ってしまった。

 恐らく三木の次の授業の教室だろう。教室は広く、人数もいるので1人ぐらい紛れ込んでいてもばれない。ミカグラも一緒に行ったのかもしれない。


「汐海様・・・」

「うん・・・本当にそういう人達がいるんだね・・・」


 まだ又聞きのような状態で真実かどうかは分からない。

 しかし注意はしておいた方がいいだろう。


「・・・・・・」

「汐海様、まさかとは思いますがその人達を探して倒すとかそういう・・・」

「あ、ううん。そんなことはしないよ。僕も、怖いから」


 そう言って汐海は。

 笑った。

 笑ったのだあの話を聞いて。

 アリスは本当に心配だった。


(汐海様はなぜこの戦いに参加したのですか・・・)


 先ほどは楽しんでいた。

 そのような色々な理由が混ざって今の汐海がいるのかもしれない。だとしてもアリスには不安でならなかった。この状況をも、楽しんでしまっているのではないか、と。





「なるほど・・・君はその体そのものを使って戦うタイプなんだね。ベリークール!」


 グーディーは笑った。

 時間停止空間内。すなわちバトルの最中だ。

 相手は小さな女の子1人と、背の高い青年が1人。その青年の方が拳を構え、ファイティングポーズをしていた。


「と言う事は君は獣人種、ということでいいのだろうか」


 対するグーディーはいつものようにピアノに向かって座ってる。

 亜人種が使う魔具。その音は相手を支配し、相手を隙だらけにしてしまう効果を生む。ただしグーディーは戦えるキャラクターではないので逃げるための隙を作るだけではあるが。


「・・・・・」

「あ、あわわ・・・」


 青年の方は無口だ。

 しかし小さな少女はやはり怯えているようで先ほどから慌てふためいている。


「ううん、人が慌てている姿と言うのはとても美しい・・・!我が出来そこないパートナーとは大きく違うな」

「・・・・」


 そう言って自分のパートナーを睨むグーディー。

 そのパートナーである少女は無口でその目は相手を見ている。油断してはいないらしい。

 グーディーがこういう性格なのでパートナーである少女、しずくがしっかりしなければならない。これはこれでバランスのとれたコンビだった。


「まあ、いい。我がコンサートへようこそ!たっぷりと歓迎・・・・・・」


 いつものようにピアノを弾こうとした時だった。

 小さく声が響く。


「【強化グロウ】」


 その声はグーディーやしずくには届かず、全く聞こえなかったのだが、青年の様子が明らかに変わった。体からはものすごい威圧感を放っている。

 強化。銀色の腕輪の能力の1つであり、キャラクターの体を強化して攻撃したり、人間の体を強化して攻撃を大きなジャンプなどによって防いだりする能力。今回はそれを前者のように攻撃に使う。


「ははは!」


 しかしグーディーはそれでもピアノを弾こうとする。

 獣人種の攻撃でもグーディーの魔具は壊れない、それを数々の戦い(全て逃げている)で知っていた。もちろん、グーディーにもその攻撃は効かない。

 なぜなら。


「【連射ブースト】」


 パートナーであるしずくが白い弾を10個放射した。

 1つ1つの威力は低くとも、さすがに10個となればそれなりの威力になる。それがいくら強靭な体を持つ獣人種であったとしても、だ。


「・・・・・」


 しかし青年はそのまま白い弾の中に突っ込み・・・全てがぶち当たる。

 青年はほぼ無傷だった。


「なっ!」


 驚いたのはグーディーだけではない、しずくも珍しく目を見開き、驚くという感情を外に出していた。

 あの白い弾を防御もせず、体で受けてもダメージがない。

 強化も所詮腕輪の力。そこまで体を強くできるはずがない。


「・・・・・ッ!」


 青年は拳を繰り出す。

 その拳はグーディーを狙ったものではない。狙ったのはピアノ。それが魔具だと完璧に見破られていたのだ。拳がピアノにぶつかり・・・大きな破砕音と共に綺麗に砕けた。


「わ、私のピアノがッッッ!」


 驚くグーディーに青年の拳が襲いかかる。

 その瞬間、青年は頭を抱え始めた。どうやらグーディーの演奏のように何か頭に音が響いているらしい。しかし今回はグーディーは何もしていない。

 グーディーが横を見る。

 そこにいたのはしずくだった。

 しずくはグーディーのピアノを弾いていたのだ。


「そういえば役立たずパートナーはピアノが弾けたのだったか・・・」


 ピアノは魔具だ。

 魔具は特殊能力であるパーソナルアビリティのようなものが1つだけこめられている。それを使えるのはパーソナルアビリティのない亜人種だけだ。

 人工物であるため、普通のパーソナルアビリティより弱くはあるが、魔具自体に能力が埋め込まれているので、こうして誰でも使えるというメリットもある。もちろん、亜人種以外にはパーソナルアビリティがあるので敵種族に乗っ取られることもほとんどない。

 人間、以外は。

 グーディーの魔具はさらにピアノを弾けること、が条件であるがしずくはそれをクリアしていた。


「考えてみれば人間にもパーソナルアビリティはない、からか。ふふふ、ははは!なかなかにいい演出ではないか!」


 壊される直前、しずくは最近覚えたばかりの銀色の腕輪の能力である【多重デュアル】をピアノにつかった。多重はそれをかけたものを増やすというもので、直前にピアノを2つにしていたのだった。

 しかしこれはずっと続くものではなく、この時間停止空間内でした効果はない。

 グーディーはこの空間でしか魔具を使えなくなってしまった。


「これで外でピアノを弾くことも出来なくなったか・・・まあいい!私には他にもたくさんの楽器があるからな!いくぞ、役立たずパートナー!」


 グーディーとしずくは走り出す。

 こうして危機一髪。いつものように敵から逃げれたのであった。


「・・・・・」


 頭を抱えながらその逃げる姿を青年はずっと見ていた。

かなり久しぶりになってしまいました。遅れてしまって申し訳ありません。


言い訳というわけではありませんが、他作品のほうも投稿しました。もし興味があればそちらも見ていただけたらと思います。


ではまた次回。

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