表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦いの国の少女アリス-fairy game-  作者: 花澤文化
第1章 1回戦、開幕
6/13

第5ゲーム vs美の音楽家『グーディー』

(まずい)


 汐海は思った。

 今近くにアリスはいない。きっと後で怒られるのだろう。確かにそれもまずいのだが、それ以上にあのピアノが異質だと思った。あのピアノも風景の一部としてここに運ばれてきたものなのかそれとも・・・。

 上を見ると空に何か浮かんでいる・・・。あれはどうやら制限時間のようだ。第1回戦のバトル形式は制限時間付き。今は5分いっぱいあるが、あれが0になると自動的にバトルを終了させられるのだろう。


(ピアノを弾かせてはまずい・・・!)


 今、この状況で男がピアノの椅子に座ったということはすなわちそういうことだ。

 あれはきっとただの飾りじゃない。何か意味のあるものなのだろう。

 汐海はそれを止めるべく、とりあえず走り出す。別に策など何もない。とりあえず止めなければ、と思っての行動だった。

 走っている途中目をこらすとなんと相手のステータスがうっすらと表示される。


(こんなこともできるのか)


 しかしはっきりと見る事が出来るのは相手のレベルと名前だけ。あの男の名前はグーディーと書かれている。そしてレベルは・・・。


(レベルは3・・・!)


 すなわちアリスより上のレベルだ。

 汐海はアリスと出会う前にすでに獣人にパートナーがいたことから出会いはバラバラでもっと前から戦いを始めているものもいるのではないか、と推測していた。

 ゲームとしては失格だが、これがゲームではなく、戦争だというのなら納得だ。


「おぉっと・・・私のコンサートの邪魔をする気かいBoy。でも無駄さ、私の演奏は止められない。美しいからね、止められる道理なんてないんだよ。・・・・・・というわけでパートナー、止めるんだ」

「了解」


 男はピアノに座り弾き始める。

 そして隣にいた少女が腕輪をこちらへ向けているではないか。


(なんだ・・・?)


 少女はすうっと少しだけ息を吸って・・・。


「【連射ブースト】」


 と呟いた。

 汐海は驚く。ブーストというのは確かあのシルバーリングのステータス画面で見た腕輪の能力の1つ。どんな能力かは分からない、ということだったが・・・。

 その少女の腕輪のまわりには10個ぐらいの光る弾が現れていた。1つ1つは野球のボールよりも小さいぐらいだが、もちろんそんな生易しいものではないだろう。

 そして・・・。


「うぉお!?」


 その弾のうち2個が汐海に襲いかかって来る。動きは直線的で一直線にしか飛んでいない。さらに弾1つ1つが大きいのでとても見やすく、まだかわしやすくはあるが、速さがある。

 汐海はかわすために体を動かすも、無理な体勢をとってしまい、その場で崩れ落ちる。

 それを見逃さない相手のパートナーはさらに2個、光る弾を発射した。


「また・・・!?」


 汐海はジャンプしたり、身をかがめたりでその2つをやり過ごす。しかし恐らくこれ以上近付いてしまうとかわせなくなってしまうだろう。

 ある程度の距離があると一直線的な動きは見えやすいし、かわしやすい。だが、至近距離から撃たれてしまうと全く弾道が見えなくなってしまう。


(なら・・・!)


 汐海も腕輪を前に突き出す。

 その様子に相手は少なからず驚いたようだった。そう、汐海がパートナーとしてのサポートを出来るだなんて思わなかったのだろう。


「【連射ブースト】!」


 腕輪のまわりに10個の光の弾が浮かぶ。

 頭の中で2発飛ばすイメージ・・・それを思い浮かべ、相手のパートナーを見るとそちらの方向に向かって光の弾が2発飛んでいく。

 相手のパートナーは同じく2発飛ばすことで相殺。元々威力が低いのか、パンという簡単な音で両方の弾が消えていった。


(この調子で・・・!)


 相手の残りの弾は4個。そして汐海の弾はまだ8個ある。補充できるのかは分からないが、とりあえずこちらが有利なのは間違いない。

 この状況になってもリロードしないということは恐らく補充が出来ないものなのかもしれない。どうやらこの連射という能力は光の弾を10個撃つことができる能力のようだ。サポートのため威力が低くはあるが、相手の気をそらすことは可能かもしれない。

 汐海は再び腕輪を構えて少女に4発撃つ。さりげなく、軌道を外し気味にする。相手にギリギリ当たらないよう狙う。

 しかしそれに気付かない相手パートナーは4発またしても光の弾を発射した。

 4発同士が相殺される。


(いまだ・・・!)


 相手の弾がなくなったところで走り出す。

 ピアノからは今も音が聴こえている。これがなんの作用をもたらすのか分からないがすごく嫌な予感がする。はやく伴奏を止めなければ。


「え・・・!?」


 しかしその男はすでにピアノを弾いていなかった。

 相手のパートナーのとなりににやりと笑いながら立っている。でも、おかしい。なぜ、誰も弾いていないのに汐海の頭にはピアノの音が響いているのか。


(やはりあのピアノは・・・!魔具か!)


 汐海はそう判断する。

 先ほど、家を出る前にしたアリスとの会話を思い出していた。


『今の種族の印象では亜人が一番弱そうに感じるかもしれませんが、亜人の魔具は時間停止空間外でも出すことが可能です』

『もちろんその魔具の能力そのものを使うことはできませんが、道具としてなら可能なのです。例えば魔具がナイフの形をしていたらナイフとしては使うことが出来るということです』

『そういった意味では時間停止空間外で危険なのは獣人と亜人、ですね。断然』

『ルールを理解していない獣人や、ルールを理解したうえでの亜人。第3者を傷つけてはいけないというルールは逆に言えば・・・』

『それ以外なら何をしてもいい、ということになりますから』


 道具を使ったものというのは魔具ぐらいだ。時間停止空間の外でもピアノとしての機能はあったようだし、アリスが出す弓矢のようなものではないのだろう。

 相手の種族は恐らく亜人種。


(ぐっ・・・!)


 頭に響く音が大きくなっていく。

 頭が痛い。倒れる。うるさい。耳をふさいでも音が聴こえてくる。腕輪のまわりから光の弾が消える。どうやら集中していないと出せない能力のようだ。

 思わず膝から崩れ落ちる。

 このままではまずい、攻撃をくらってしまう。


「うごけ・・・!」


 汐海はそう念じるだけでなく声に出す。


「動け動け動け動け動け動け動け動け!」


 しかしあまりの音のうるささに立ちあがったとしてもすぐに膝を地面につけてしまう。このままだと何もできずに負けてしまう。

 汐海は1人で行動したことを心の底から後悔した。


(僕の単独行動が原因で終了とか笑えない・・・!)


 敵を見る。

 しかし敵はすでに先ほどいた場所にはいなかった。ピアノの音の大きさにより、他の音が全く入ってこず、まるで気付かなかった。


「しまった!」


 すでに攻撃範囲内に汐海はいるのかもしれない。

 影から狙い撃つつもりなのかもしれない。

 近付いて殴って来るのかもしれない。

 様々なかもしれないが頭をよぎる。なんとか立ちあがり、あたりを見渡すが誰もいない。誰も見えない。やはり隠れているのだろうか。


「あれ・・・?」


 しかしそこで頭に響く音が小さくなっていることに気付く。

 立てないほどではない。こうしている今現在もどんどん小さくなっていく。


(恐らく、あのピアノを聴いたものに長い時間、頭の中で音を響かせるという魔具・・・かな)


 それにしても・・・・なぜ攻撃してこないのだろうか。

 魔具の力が切れる前に攻撃されていればかなり危なかったのだが・・・。


「汐海様!」


 そう考えていると空からものすごいスピードで何かが降りて来た。アリスだ。

 その声を聞いてびくりと汐海は震えた。


「ご、ごめんアリス。まさか今すぐにこんな状況になるなんて思わなくて・・・」

「・・・・・よかった・・・」


 しかしそんな汐海のセリフも聞かずにアリスはほっと安堵した。


「お、怒らないの・・・?」

「怒ってますよ、でも無事でよかった安堵感の方が強いですね。というかゲーム機持ってます?」

「え、うん一応」

「あれで名前検索とかするとその種族の勝率だとか、バトルの結果だとか、能力や種族がバレない程度のバトルの一部始終を見る事が出来るんです。それで情報収集するといいと思いますよ」


 むっとした顔をした後にっこりと笑う。

 どうやら本当に心配させてしまったみたいだ、とさすがに汐海も反省する。普段なかなか人と行動することが少ない汐海としては1人で行動することに慣れきってしまっている。それがいけなかった。


「ごめん」

「いいんです、無事でいてくれたら。というか・・・敵はどこです?」


 そうこんなに隙を見せても襲いかかって来ない。

 アリスが来た事で攻撃しにくくなっているのだろうか。しかしそれだとしたら先ほど1人で頭を抱えていた時に攻撃すればよかった話だ。


「・・・・・もしかして」


 アリスが何かを思いついた瞬間。時間停止空間に亀裂が走る。普通の空だった上の部分がひび割れてきていた。すなわち、元の世界に戻ろうとしているのである。

 汐海は慌てて時間を見る。しかしまだ1分近く残っているではないか。


「な、なんで・・・!」

「・・・・・汐海様。時間停止空間が崩れる時はどんな時か。先ほどの説明で覚えていますか?」


 焦っている汐海。しかしアリスはその真逆でとても冷静であった。


「い、一応。確か、一方の腕輪を破壊した時か・・・パートナーである僕たち人間が死んだ時。それと制限時間が0になったときっていうのは今回のバトル形式限定だよね」

「はい。そのどれも正解ですが、もう1つありましたよね」

「もう1つ・・・?」


 汐海は思いだす。

 つい先ほどのことだったのだが、変なピアノの音により頭を刺激されたせいで全部ふっとんでしまった。なんとか考え続けて・・・。


「あ」


 汐海が思いだした瞬間と同時に時間停止空間が壊れ出す。

 そう、もう1つの条件。それは時間停止空間の外に出ること。どのぐらいの距離があるのかは分からないが一方方向にずっと走っていればそのうち外に出れるだろう。

 すなわち、逃げること、である。





「まあ、そんな怒らないでくれたまえボーイ&ガール。お互いに経験値が入るんだ、悪い事ではないだろう。まあ、今回の戦闘はそのパートナーであるボーイのほうが戦っていたからガールよりも多く経験値が入るだろうけれど、ね」


 軽いウインクをしてくる。

 そういえばシルバーリングにもレベルという表示があったなあ、と思いながら男、グーディーとその隣に無言で座るパートナーの少女と話していた。

 あの後、時間停止空間が崩れると場所は先ほどの公園のところであり、まわりの観客たちもいた。何ら変わりない日常に戻って来ていたのである。ただ1つ変化したことと言えばその隣にアリスがいたことであろうか。どうやらアリスは時間停止空間が現れる前の元の位置、すなわち汐海の家に戻るというわけではないらしい。

 グーディーは観客に頭を下げるとなぜかアリスと汐海にこっちへこい、とジェスチャー。そのまま公園の端にあるベンチに座る事になってしまったのだった。


「私の名前はグーディーだ。よろしく。そして隣にいるこの小さいのが私のパートナー、どんくさいやつとでも呼んでくれればいい」

「そういうわけにもいかないよ。僕は汐海、七実汐海。で、こっちがアリス」

「アリスです・・・し、汐海様に何かしたら許しませんからね!」

「はーっはっはっ!何かとは何かな?」


 なぜかとても馴染んでいるのだった。

 アリスは常にグーディーを威嚇しているがグーディーは気にしていない様子。そもそも一度戦った相手とは24時間戦えないのでここで戦闘にはならないのだが。汐海はそれよりも先ほどから話さない女の子が気になってしょうがなかった。

 ベンチから立ちあがり、女の子の前まで行く。


「汐海です、よろしく。えっと・・・中学生、だよね?名前は?」


 その様子を見てアリスはまたため息をついた。


「相変わらずのお人好しですね、敵なのに」

「・・・・・本当だね。君のパートナーは確かに少し危険かもしれないな。だーが!私の方が美しい!そのお人好しさ、とても綺麗だが私には敵わない!それが全て!」

「すげーうるせーですねこいつ・・・」


 女の子は汐海をじっと見つめる。

 汐海は目をそらしては駄目だとばかりに目をあわせる。どうやら女の子の方が観念したのか、静かに息をはいてから再び汐海に目をあわせた。


三蔵みくらしずく・・・」


 静かにそう答えた。


「そう、三蔵さんね。よろしく」


 その汐海のセリフにしずくは静かに頷いた。


「愛想のないパートナーですまないね」

「な、なんでそんな言い方・・・。パートナーのことが嫌いなわけじゃあるまいし・・・」

「嫌いだよ」


 グーディーは言い切った。


「まるで私を見ているようで、大嫌いだよ」


 そのセリフに特に反応もせず空をぽけーっとみているしずく。どうやらいつものことらしい。


「マイパートナーは学校でいじめられていてね。そのためあまり人に心を開いてくれないのさ。この美しい私に対しても、ね」

「い、いじめ・・・」

「おっと、ボーイ。それ以上は何も言うな美しくないぞ。ましてや首をつっこもうなんてするなよ。我々は敵同士。今回こうして並んで座っているのは私の演奏の感想を聞きたかっただけなのだからな!さあ、感想を述べよ!先ほどのエルフにはまるで相手にしてもらえなかった分ここで解消させてもらう!」


 どうやら変なとばっちりを受けているようだった。

 あまり触れられたくない場所だろうし、仮にも初対面。それ以上の追求を避け、その話に変える。


「感想も何も・・・・・もしかしていつもああいう戦法を?」

「もちろんさ、我々は弱い。だからああして戦闘はするものの、戦わずに逃げて経験値だけ手に入れているのさ。レベルが上がれば美しく強くなるかもしれないからね・・・!」


 すごく自信満々だった。

 元から別にその戦い方に文句があったわけではないが。


「なんで僕が頭を抱えていたときに攻撃をしなかったの?たぶん腕輪を壊すぐらいなら素手でも出来ると思うんだけど・・・」

「我々は弱い。それはマイパートナーもそうだが、私もだ。腕輪を壊せるか分からないし、ボーイにはまだあの連射の弾があった。あれをくらうのはごめんだからね」


 あの連射。どうやらリロードはできないらしく、1勝負10発が限度だそうだ。

 威力はそこまで高くないのだが、どうやらグーディーはあれすらもくらいたくないようである。


「というか聞きたいのはそういうことではないよボーイ。戦いの中での私のピアノはどうだった?と聞いている」

「え、えーと・・・うるさかったかな。頭にガンガン響いて」


 な、そ、そんなことに!とアリスは隣で怒っていたがその感想を聞いたグーディーはまるで逆の反応。とても笑顔になり、喜んでいた。


「ふふふ・・・!響く、か。それこそ私にふさわしい言葉だ」

「え、いや、そうじゃなくて頭に響いてうるさいっていう・・・」

「はーっはっはっ!ありがとうボーイ!これでまた私は元気にピアノを弾ける」

 

 全く話を聞かないまま立ちあがり、親指を立てる。


「グッドラック。またいずれどこかで会おう、ボーイ&ガール。その時は正々堂々と戦って勝って見せよう。私をあまりなめるなよ。さあ、いくぞマイパートナー。ぐずぐずするな」


 そう言うとグーディーの後を急いで追うしずく。

 なんというか嵐のようなやつだった、とアリスは思う。汐海は大きくベンチの背もたれによりかかり、軽くため息を吐いた。


「アリス、2つ聞きたいことがあるんだけどいいかな」


 大きく伸びをして空を見る。


「もし、僕が死んだら、それは事故死になるの?」

「いえ、存在そのものがなかったことになり、覚えているのはこのゲーム関係者だけになります」

「じゃあ、アリスが死んでしまったら・・・どうなるのかな」

「それは・・・ただそれだけのことですよ。戦い自体は腕輪を壊すまで終わらないんですから」


 だからこそ絶対に守ってみせます、アリスは小さく呟いた。

サブタイトル、本当は種族の名前をつけようと思ったんですが、今回のバトルのネタばれのようなものになると思い、こうなりました。


そしてもう1つ。小説の名前自体を変更しました。戦いの国のアリス、という名前に。サブタイトルの方は今後も変えるつもりはありませんので、検索の際はそちらでお願いします。


説明が終わり、だいぶ色々なことが出来るようになってきました。今後も読んでいただければ嬉しいです。


ではまた次回。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ