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戦いの国の少女アリス-fairy game-  作者: 花澤文化
第1章 1回戦、開幕
3/13

第2ゲーム vs獣人種『アレイ』

「汐海様、ご指示を!」


 そう言われて汐海は混乱した。ご指示。指示って何をどうすればいいのか。そもそもその前にアリスはいつものようにしてくれればいいのです、と言った。いつもってなんだ。もしかしてゲームのことを言っているのか。だとすればここにいるアリスはゲームを元に作られたわけじゃなく、ゲームの中のアリスそのものってことになるんじゃ・・・。


 汐海の思考は止まらない。しかし止まらざるを得ない状況になる。ストレッチを終えた獣人がこちらに向かって来ているではないか。確実に殺すために。殺すとは言われていないがあの気迫、こちらに危害を加えようとする気満々なのだ。分かりやす過ぎる。


「恐らくその感覚は正しいです。これを」

「え、え、え、な、なにこれ」


 そう言って手渡してきたのは小さなイヤホンのようなもの。しかしどこかに繋がっているわけでもなく、補聴器のような見た目をしている。促されるまま汐海は耳にそれをはめる。


『聞こえますか』


 なるほど。どうやらこの機械はトランシーバーのような役割を果たすものらしかった。これで意思疎通をしろとのことだろう。完全に場の勢いに流されるまま静かに頷く。

 しかし気になることとして、声が聞こえているのにアリスの口は動いていない。


『これで戦いながら汐海様に現状の説明をさせていただきます。最後の1つのトランシーバーで、使い捨てですから壊さないでくださいね』


 そう言うと向かってくる獣人に対し、アリスが走り出す。


「アリス・・・!」


 咄嗟に出たその名前にこんな状況とはいえ恥ずかしさを覚える。ゲーム内のキャラの名前を呼ぶってどうなんだと場違いなことも考えてしまう。

 頑張って恥ずかしいながら声に出してみたものの、届かない。いや、そういえばトランシーバーがあったのだった。どうやらこのトランシーバー、思考をそのまま相手に音声として伝える機能があるらしく、先ほどのアリスも口を動かさずに話していた。


『聞こえますか。汐海様、色々聞きたいことはあるかもしれませんがバトルのことについてだけ簡潔に話します。あなたたちの世界でいうゲーム、とやらのことを思い出しつつ聞いてください』


 ゲーム、というとやはりあの妖精戦争のことだろう。

 汐海は確信する。


『相手の種族については分かりますか?』


 その質問に汐海は即答する。

 もちろん頭の中でだ。


『たぶん・・・分かるよ。獣人種、ドワーフだよね。力が強く、物理攻撃に耐性があるかわりに魔法が使えない。そして魔法に対する耐性が弱い』

『正解です。さすが汐海様!』


 とはいうもののこれは基本的な知識であり、混乱しているとはいえ今現在汐海はぼーっと突っ立っているだけだ。これぐらいのことは出来て当然である。

 すごいのはアリスの方だ。汐海と頭で会話しつつも敵の攻撃を避けている。


「ちぃ!ちょこまかと!」


 獣人種の動きはそこまではやくない。そして一撃一撃に全力を尽くしているのか攻撃が大振りだ。あれでは小柄でそれなりに素早い妖精種にはあたらない。

 それは分かるのだが、1つだけ疑問があった。


『では私のことはどうですか?』

『妖精種。フェアリー。魔法ではなくその元となる魔力を扱うことに長けていて身軽。そして唯一空を飛ぶ種族で合ってるかな』

『なんか聞きたいことがあるみたいですね』

『・・・・・疑問があるんだけど、羽は使わないの?』


 羽。

 妖精種にだけある空を飛ぶ羽。

 それが今アリスの背中になかった。鳥の羽ではなく、透明で薄いどちらかといえば虫に近い羽に光が反射して虹色に輝くそれ。それがなかったのだ。


『基本この戦いで種族がバレるのは厳しいです。それは実際に見てもらえば分かるかと』


 そう言って再び敵の攻撃をかわし続ける。相手の獣人はどうもアリスに対して距離をとることを恐れているような動きだ。アリスもそれが分かっていて行動している。


(あれじゃあアリスにかわされ続けて終わりなんじゃ・・・)


 あれでは距離をとろうとする動きをアリスに読まれ、攻撃は当たらない。

 獣人はそこまで素早くはないが、脚の筋力による直線的な動きは十分はやい。一度距離をとってもいいような気がする。

 確かに妖精種は遠距離攻撃をするが魔力は精霊種が使う魔法に比べて威力は高いものの不安定だ。結局魔法より威力を抑えないと相手に当てることは難しい。そしてその威力では獣人を完全に倒す事は難しいだろう。ならば一撃くらう覚悟で動けば・・・。

 そこでようやく分かる。アリスのふわふわとした金髪の意味。耳を隠している意味を。


(まさか・・・相手に種族を勘違いさせている・・・のか・・・?)


 精霊種はエルフと呼ばれるように耳がとんがっている。アリスは相手にエルフかも・・・?と思わせるためにあえて耳を隠し、羽をしまっているのだ。

 確かにエルフ相手に距離をとることは獣人種にとっては死に直結する。そのまま突っ込む前に火で燃やされて終わりというパターンが目に見えるようだ。


「あ・・・」


 慌てて銀色の腕輪の刻印を隠す。ここでバレてしまっては意味がない。

 なるほど、種族を誤解させることによる動き・・・か。アリスは小柄だから相手は小人種かもしれないと思っているのかもしれない。いや、さすがにそれはないか。ゲーム世界でしか見た事がないが規格外の小ささらしい。


 この調子ならばいざ、というときに羽を出し、不意打ちで一気に勝負を決めることも出来るだろう。

 汐海は安堵する。何がなんだか分からないが無事に終わりそうだ。そこで一度冷静になった。


「くっそ!いちいちかわしてんじゃねぇよ!」


 左の拳を受け流し、そのまま少しジャンプして距離をとる。またも襲いかかってくる右の拳をしゃがむことによって完全にかわす。大きく獣人の体勢が崩れる。その隙を逃さない。


「この距離なら外しません!」


 手に力を込めるとそこにはピンク色の光が集まって行く。魔力。魔法へと変化させなくともそのものだけで威力のある攻撃になる。次にアリスが出したのは棒、ステッキだ。しかし曲線を描いているそれは杖ではなく・・・。


「弓・・・!」


 獣人は驚いたような顔をする。

 ピンクの光は細く鋭くなり、矢へと変化する。それを軽い動作で少し引く。それだけだ。厳密な弓矢ではないからそれだけでいい。

 矢が放たれ獣人の肩にあたった。


「がっ・・・!」


 魔法耐性のない獣人にはとてつもないダメージ。外傷はないように見えるが魔力によって内部を壊されている。肩をおさえる獣人。

 しかし相手はまだアリスの種族が分かっていない模様。エルフも弓を使うし、魔法と威力の抑えられた魔力の違いはそれこそ専門家である精霊種、妖精種しか分からないレベルだ。ましてや獣人は魔力のことを1つも知らないだろう。


「アレイ」

「わかってる手は抜いてねぇよ・・・!」


 痛みが少し引いたのか再び拳を作る獣人。攻撃される前に矢を連発させたいが魔力を暴発しないように扱うのは妖精種でも難しい。どうしても時間がかかる。

 しかし相手が行うのはまた大振りの一撃。拳を握りしめ、それを大きく振りかぶる。それでは意味がない。またアリスは簡単にかわしていく・・・が。


「っ・・・!」


 一瞬痛みに顔をしかめるアリス。


「え・・・」


 一瞬自分の目を疑った。

 汐海は目をこする。見間違い・・・か?その考えがアリスにも伝わっていたのだろう。


『汐海様、見間違いではありません。恐らく・・・PAかと』


 PA。

 パーソナル・アビリティ。種族に関わらずそのキャラが持つ唯一のスキルでキャラ生成の際にランダムで決まる。唯一無二のもので同じPAはゲーム内にはない、と言われる切り札。

 それが今発動した。


 汐海の目に狂いがなければあの獣人の拳が火を纏っていたのだ。その火が少しだけ攻撃範囲を広げ、ギリギリ届かない距離にいるアリスを少しだけ焼いた。属性付加、エンチャントと呼ばれるもので剣などに魔法をまとわせ、火剣を作るなど様々な使い方が出来る。

 だが、それは魔力を扱えなければ意味がない。

 そして獣人に魔力を扱う力はない。

 要するにMPが0なのだ。


(いや・・・まてよ・・・)


 汐海は考える。

 キャラはレベルが上がるごとにポイントをステータスに振れる。攻撃を上げれば物理的攻撃の威力が上がり、魔法攻撃を上げれば魔法攻撃の威力が上がる。その中の1つに魔力、というものがある。それを上げると多くの魔法が使えたり、魔力を上手く使えたりするのだが・・・。

 それを上げたのでは、という考えが。

 しかしそれでもほぼ意味がない。本当に一度二度小さな魔法が使える程度で実践には使えない。


「・・・・・」


 相手の人間を見る。冷静そうで、落ち着いている。どうもステ振りミスなんかやらかしそうにない。そもそもこの今の現象にステータスとかレベルとかあるのだろうか。ここはゲームではないはずなのに。

 汐海はそこまで頭で考えていたのだが、アリスは別のことを考えていた。


(汐海様・・・すごい集中力。初めてのバトルであそこまで冷静に戦えるって・・・頼もしいですが、どこか不安です)


 その思考は集中している汐海には届かない。

 固有のスキルPAは魔力が使えない種族にも魔力を使えるようにするものまであるのか?

 いや・・・違う。それにしてはすごく雑・・・むらがある。

 なぜ、さっきの一撃にのみエンチャント出来ていたのか。


「だいぶ疲れてきたんじゃねぇか!お嬢ちゃん!」

「くっ・・・!」


 動きっぱなしだったからかアリスに疲労が溜まりつつある。

 体力では圧倒的に獣人の方が上だ。長期戦になると妖精種には不利になる。


「よっと!」

「っ・・・!また・・・」


 アリスが顔をしかめる。

 かすった腕の一部が少し凍っている。


(凍り・・・?)


 汐海の思考がさらに加速する。

 氷結系の魔法は凍らすという付加があるものの、主要なダメージは氷属性ダメージだ。自分の手に氷を纏わせて殴るのが普通なのだが、今纏っていたものは冷気だけ。


 そこで1つの可能性にたどり着く。

 そして1つの危険にも。


「アリス!」


 その声によりアリスの注意が汐海に向く。


『相手のPAはたぶん属性付加じゃない、ただの付加効果だよ!』


 付加効果。

 火傷、凍り、毒、麻痺、魔法制限などの状態異常のことだ。属性がない分弱くみえるが、1つだけ状態異常のみしかない圧倒的付加がある。

 すなわち、即死。

 自分より大きくレベルの離れた相手にしか効果がなく、オンラインでは大体同レベル同順位の人と当たりやすいためほとんど意味をなさないと思っていた状態異常。

 攻撃を与えた相手を一撃で倒すという恐るべき効果。


『なるほど、それなら納得です』

『状態異常効果がないときとあるときがあるのはきっとランダムに発生するPAだからだと思う。さっきから無謀とも言える特攻をしてたのはそれが原因じゃないかな』


 しかしそれが分かったからと言って、どうしようもない。

 直線のはやさで言えば獣人の方が上のため、距離をとってもすぐに詰められてしまう。遠距離から攻撃するためには羽を使うしかない。

 種族がバレていないことがこんな状況をうんでしまうなんて。

 逃げに羽を使い、相手に種族がバレてしまうがしょうがない。ゲームではないのなら、即死効果はどうなるのか。恐ろしくて考えたくない。


『アリス、ここはもう羽を使おう。エルフだと思われたままだと、意地でも距離を詰めてくる。ここは羽を使って大きく距離を・・・』

『いえ、汐海様は相手のPAを見破ってくださいました。ここからは私がなんとかします!』


 そう言って逆に距離を縮めるアリス。


「なっ!」


 汐海は驚いた。

 ゲームと比べてしまったのだ。ゲームではボタン1つでどんな行動もとるアリスが、ここでは自分の意思で動いた。やはりここは現実なのだろうか。


「近付いてくるとは思わなかったぜ・・・!」


 嬉しそうに獣人が拳を振るう。

 なんの状態異常効果もついていない。しかし汐海の予想通りならば、拳を大振りするたびにPAが発動するのではないか、と考えている。そうじゃなければあんなに無理な攻め方はしないはずだ。

 拳を振るう度に心臓が飛び出そうになる。


 もしアリスに当たれば。

 でも自分には何もできない。邪魔になるだけだ。

 そう思った瞬間、敵の拳が漆黒に染まる。禍々しいその色は確認しなくても分かる。即死効果だ。

 かすっただけでも効果があるのか、きちんと当たれば効果があるのかは分からない。


「アリス!」


 叫ばずにはいられなかった。

 初対面のはずではあるが、ゲームの中のキャラクターなのだ。すでにたくさんの時間をゲームで一緒に過ごしている。

 アリスは身をかがめ、動かない。

 アリス!

 汐海は脳内でも叫ぶ。最初は恥ずかしいとさえ思っていたゲームキャラクターの名前を大声で。


 その声に答えるように。

 アリスは飛んだ。

 羽だ。

 羽を出したのだ。

 飛ぶというには小さなジャンプのようなものだったが拳をかわし、小回りをきかせて相手の真後ろに回り込む。しかしこのままでは魔力を暴発しないように工夫する時間が足りない。

 だから敵と同じく、アリスは拳に魔力を纏わせた。異質なエンチャント。魔法では無い魔力によるそれは普通ならば暴発して自分の拳が壊されてしまう。


 それを可能にするのは・・・。


「アリスの・・・PA・・・!」


 【魔法は拳エンチャント・フィスト】。魔法を使えないアリスが唯一使える魔法のようなもの。まがいものではあるが、魔力の威力は魔法よりも高い。ある程度暴発させる気持ちでその拳を放つ。

 このように自在に使い方を決めれるのも魔力の長所の1つだ。


「終わりです!」


 右、左の順で拳を繰り出す。なんてことはない、戦い慣れていない弱いパンチだ。こんな状態、敵の背後に羽で移動したという状態でなければかわされて終わりだろう。


「くっ・・・!くそ・・・!妖精種だったのか・・・!」


 ぶつけるのは魔力であってアリスの拳ではない。どんなに弱い拳でも・・・魔力がダメージを与えてくれる。弓矢の形状にする必要もないから威力もそこまで抑える必要はない。


「はぁあああああああああああああああ!」


 叫び声と共に獣人の体に拳があたる。

 大きな音がした。破壊音でもない、綺麗な音だ。拳が当たる瞬間はピンク色が増して桜のようだった。

 汐海はこんな場面で綺麗だと思ってしまったのだ。

 少女の拳とは思えないほどのダメージ、そして吹っ飛び方。数メートル吹き飛ばされ、吹き飛ばされた獣人は完全に気を失っていた。


「そ、そんな・・・アレイ!」


 獣人のところへかけよろうとする女性。

 汐海と同じで獣人に愛着のようなものがあったのか。慌てて移動し、獣人の近くに移動する。

 汐海もアリスに一言声をかけようと思ったのだが、一向に帰って来ない。

 アリス・・・?

 さすがに不信に思う。


「すみません・・・」


 そう言ってアリスは針金のように細い矢を魔力で作り、放つ。狙いは女性の手首にある銀色の腕輪。それに当たり、腕輪を破壊する。

 汐海はその行動を理解できなかった。


「え・・・?」


 女性はてっきり自分を攻撃されると思っていたのか、思わぬ攻撃に驚く。しばらく静かな時間が過ぎた・・・。何も起こらない。なぜそんなことをしたのかとアリスに問いかける前のこと。

 効果はあらわれた。


 獣人がうすくなり・・・そして目の前で消えたのだ。


「アレイ!な、なに・・・なんでこんなこと・・・!」


 女性は慌ててポケットを探す。


「ない・・・!ないないないない!ゲーム機がない・・・!さっきまでここにあったのに!なんで!アレイとのつながりが・・・!」


 女性は完全に混乱している。

 汐海はその光景を見て恐怖した。なんなのだあれは。なぜ、消えた。この腕輪が破壊されたからなのか。

 女性はゲーム機を探し、そして一通り、探し終わってから諦めたようにうなだれた。


「な、なに・・・。これはどういうことなんだ・・・アリス・・・」

「このこと含め話さなければならないことがたくさんあります」


 いつの間にかトランシーバーが壊れている。すでに声による会話へと変化していた。


「場所を変えましょう」


 そのセリフと共にあたりの空間がひび割れ、砕ける。するとその場はさっきまでの商店街に戻っていた。賑やかさも。人の多さも。何もかも元通りだ。汐海は今更驚かない。

 大きくため息をつきながら頭をがしがしとかく。


「白昼夢・・・じゃないよね・・・」


 汐海はわずかな可能性にかけるが・・・。


「ではさっそく汐海様の家にいきましょー!」


 隣で元気に話すアリスの存在が先ほどのことが現実だと訴えかけていた。

3話、連続投稿です。


次は少し期間があくかもしれませんが、すでに執筆中です。

思考錯誤している途中なので、何かありましたらよろしくお願いします。


ではまた次回。

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