第12ゲーム vs小人種『リーナ』②
「あなた人間だったんですね・・・」
「そういうお前は妖精種、か」
ショッピングモール1階の大広間。吹き抜けになっているその広間に羽を広げ、相手を見る妖精種と拳を構え直し相手を見る人間がいた。
またしても拳は光のようなもので覆われていた。目をこらさないと見えない程度の光ではあるが、一度見えてしまうとかなり気になってくる。しかしアリスにはそれがなんなのか検討が付いていた。いや、アリスだけではない。汐海もゲーム内のことを思い出したのだ。
「こ、紅葉様~・・・だ、大丈夫ですか~・・・」
相手の青年に近い通路から小さな、本当に小さな小学生ぐらいの女の子が走ってきた。息の乱れはないものの慌てすぎて何がなんだか分かっていないかのようにふらふらしている。
そしてそれを逃すアリスではなかった。
一瞬にして矢を作り、弓にかけ、引っ張り放つ。
魔力で出来た矢は一直線にその少女に向かって放たれ・・・大きく後ろに飛んだ青年の拳によって防がれてしまった。
アリスの顔には驚きはない。駄目でもともとだったのだ。
「こ、紅葉様・・・」
「大丈夫、どこも怪我していない。それよりも・・・どうやら相手は妖精種らしい」
今来たばかりの少女に青年が情報を話す。
それと同じように弓を構えたままのアリスが汐海に話しかけた。
「汐海様」
「うん・・・きっとあの女の子は小人種・・・だよね」
謎の光。
その正体は身体能力や身体そのものを変化させる【変化】。相手のそれらを低下させる【不変化】というのもある。
これらは小人種の得意とする補助魔法だ。本来なら自分自身を強化し戦ったり、作戦を練る間硬化させ相手の攻撃を防御したりするものなのだが、それをどうやら人間に使っているらしい。
いや、そういう使い方もある。だが、それは咄嗟にきた攻撃から人間を守ったりする場合が多く積極的に戦力となる人間はそうそういなかった。
ちなみにこれらの補助魔法はゲーム内では相手がどこにいるか見ることができる範囲を広げたり、相手の次の攻撃が事前に読める(画面に一回だけ表示される)といったものだった。
だからこそ余計にこういう相手は珍しかった。
先ほど目を凝らしたときに名前が見えなかったのはキャラクターじゃなかったからか。だとしても圧倒的レベル差。あの少女もレベルが6もある。
「どうしますか、一応突破出来るか試みてみますが」
「いや・・・」
それは危険だ。
アリスの得意とするのは肉弾戦。相手は最初かなり驚いていたが今はもうそこでの不意打ちは出来ないだろう。羽も使ってしまったため、相手に妖精種ということもバレてしまっている。次からはその羽ありきの行動をされてしまうだろう。
(・・・・・それでも相手は人間。妖精種の羽の動きについてこれるとは思えない)
汐海は考える。
しかしアリスが得意な肉弾戦はそれらの要素ありきなのだ。それが封じられてしまった今、何かしらの武術を習っているであろう相手の方が有利になってしまう。
肉弾戦が得意といってもそれは魔力の威力を最大限上げることが出来るからで、アリス自身が何か武術を習っていたわけではないのだ。
(・・・・・ショッピングモール・・・策はある・・・かもしれない。でもそれは下手をすればすぐに腕輪が壊されてしまう・・・。先にアリスの羽を・・・!)
汐海は決意する。
「アリス、羽を最大限活かしながらの肉弾戦は出来る?」
「了解しました」
「でも危険だったらすぐに距離をとって。その後は・・・もう1つやれることがあるから」
アリスは静かに頷き、羽を広げる。
長時間飛べるわけではないが、その速さは人間に追えるものではない。
相手の青年のところまで、一直線に、低空で飛んでいく。一瞬だった。一瞬で距離を詰めたのだ。
「・・・・・ッ!」
さすがの青年もそれには驚く。
その様子を見て相手は恐らく妖精種と戦ったことがなかったのだろう、と汐海は判断した。
青年は両腕をクロスさせてアリスの攻撃を受ける姿勢だ。アリスは思いっきり魔力を込め、拳を叩きつけようとして・・・目の前に杖が出てきた。
いきなりのことでアリスの拳はその杖に向けられる。杖に拳が当たる。そのおかげで杖の向きなどが変わり、相手の魔法を防ぐ事が出来た。恐らく【不変化】をかけようとしていたのだろう。
「しまった・・・!」
そこで重要な事実に気付く。
人間の方ばかり気にかけていたが、相手の少女だって小人種なのだ。戦闘に参加してもおかしくはない。むしろそっちのほうがあるべき形なのだ。
ここで汐海が参戦する・・・ということも出来なくはない。銀色の腕輪の能力だって弱いがないよりはマシだろう。しかしそうすると・・・後々の作戦が出来なくなる。
アリスはそのまま距離を取らずに拳を叩きこむ。しかし、先ほどの攻撃が防がれたことにより、相手の体勢は元に戻ってしまっている。
「駄目ですか!」
相手の拳で相殺されてしまった。
それでもまだ続ける。羽をはばたかせ、瞬時に相手の後ろへ回る。しかし小人種がそれに気付き、杖で攻撃。アリスはそれを殴ることで少女を吹き飛ばす。杖を殴ったとはいえ、相手は小柄。その勢いのまま後ろに吹っ飛んでしまった。
「リーナ・・・!」
心配する声を上げる青年。ただ、目はアリスから逸らさず、杖を殴った時にできた隙を見逃さない。青年は光る拳をアリスにぶつけた。
「ぐっ・・・」
アリスも少しだけ後ろに吹き飛ばされる。
とっさに魔力を纏い、ガードしたがそれでも勢いを殺し切れなかったようだ。確実なダメージがアリスを襲う。
次にアリスが標的としたのは後ろに吹き飛んだ小人種の少女だった。先ほどの吹き飛ばしによるダメージはないようでぴょんと立ちあがる。そこを狙って魔力の塊を投げつけた。
魔弾。
野球ボールぐらいのそれが小人種の少女を襲う。
しかしその魔弾はあっさりとぴょんぴょんというリズミカルな動きでかわされてしまった。
「さすがは小人種ということですか・・・!」
小人種は全ての種族の中で一番すばしっこい。AGIが高いのだ。素早い。速いのではなく、素早いのだ。移動が速かったり、逃げることがはやかったり、そして相手の攻撃をかわしやすいという特徴がある。ただでさえ命中が不安定な魔弾だ、かわされてしまって当然かもしれない。
「なら・・・!」
次は拳に魔力をため、攻撃を繰り出す。羽を使い移動し、右拳を相手にぶつけ・・・ようとしてあっさりかわされる。そこを狙って今度は左拳をぶつけようとするが、青年の右拳が迫り来ていた。
「・・・・ッ!」
しょうがなく左拳を青年の右拳にぶつける。青年の拳は少し弾かれたものの、体はその場に踏みとどまっていた。アリスはここでとんでもない間違いに気づく。
かわされた右拳、相殺された左拳。アリスにはもう攻撃手段がない。また魔力を練ることもできるがさすがに1秒2秒では無理だ。
それに対し、相手の青年の右拳は弾かれているものの・・・左拳が生きている。さらに言えば小人種の少女だってまだまだ動けるのだ。
「アリス!」
汐海の叫びにより、ふと我に返り、羽を咄嗟に動かす。全身に魔力を纏いガードしながら後ろに思いっきり飛んだ。青年の左拳が軽く当たる。それでも結構なダメージとなった。
アリスは汐海のところまで飛び、そして殴られた箇所を抑える。
キャラクターといえども痛覚だって普通にある、当然のように殴られたところは痛い。
(あの小人種・・・)
逃げている、避けているように見えてあの小人種はきちんと考えている。アリスの攻撃をかわすことにより、大きな隙を作らせ、攻撃手段を減らしていく。
汐海は思った。
確か・・・小人種って一番頭がいいんだったっけ。だとしたらあの人間だけじゃない、やばいのはあの小人種もだ・・・!
「アリス、ごめん」
「謝らないでください、汐海様のせいではありませんから」
そう笑顔で言う。
その顔を見て決意をかためた。
失敗するかもしれない。死ぬかもしれない。それでもアリスがここまで頑張ってくれた。すでにアリスと出会ってからそれなりの時間が経過している。
汐海が、1人の人間が肩入れできるのには十分な時間だった。
「僕に考えがある。それをやってみよう」
「その考えって・・・」
汐海は上を見る。そこにあるのは制限時間だった。残り・・・2分程度。
2分。
これから汐海は2分死と隣り合わせの戦闘を行わなければならない。それを覚悟して汐海はアリスに指示を出し始めた。
「アリスは今直ぐに隠れるんだ」
「え・・・?」
それを聞いてアリスは硬直する。
汐海が何を言っているのか分からなかったのだ。
しかしそうしている間にも相手の小人種はパートナーである人間に【変化】をかけ始めている。やはり1試合中ずっと持続するわけではないのだろう。
そんな傍からみれば攻撃チャンスともなりえる時間を使って汐海は作戦を説明する。
「このショッピングモールには隠れられる場所がいっぱいある。お店の中はもちろんいたる所にある観葉植物の陰とか、柱の後ろとか、買い物カゴが積み重なっている後ろでもいい。それにここの大広間は吹き抜けだ。2階や3階からも見下ろすことができる」
「それはそうですが・・・」
「アリスの強みは種族を隠しながらの戦闘、そこからの不意打ち。だからこそ肉弾戦が活きている。でも今はもうそのどちらも使えない。だから・・・遠くから弓矢で狙うんだ」
汐海は早口で説明した。
しかしアリスはそれを瞬時に理解し、聞きもらすことをしない。それだけ汐海を信用しているのだろう。だからこの策にも確実に勝てる何かがあるのだと判断した。
「しかし弓矢は・・・」
アリスは口ごもる。
そう、弓矢は簡単に破壊されている。遠くから撃っても同じ事だろう。だが。
「あのバフ・・・とかいう魔法を拳に集中させ破壊できた。全身をそのバフで覆うと分散してしまい、そこまで強いガードにはならない」
最初の方の戦いで、無傷ではあったものの相手が弾かれていたことを思い出す。
「しかしどこかに集中させると他が疎かになる。その瞬間を狙うんだ」
「そんな瞬間・・・あるんでしょうか・・・」
「それを僕が作るよ」
そう言うと汐海は相手の方に進んでいく。もう作戦の説明は終わったらしい。あまり納得いかない部分があるものの、アリスは汐海の後ろにある通路の方へ走りだした。
その様子を見て、【変化】をかけ終わった青年が一言。
「遠くから狙うつもりか」
そう呟いた。
汐海は自分の銀色の腕輪を見る。ここでヘマをすれば簡単にこの腕輪が壊されてしまう。それではさすがにまずい。だから慎重にならなくては。確実に、丁寧に。
そして汐海も後ろへ走っていく。そして近くにあった買い物カゴを掴んで・・・思いっきり前に投げた。両手を使ったものだったが、相手に届くかどうかはギリギリ。
でも狙いは当てることじゃない。
一瞬でも相手の目をそのカゴに集中させることだった。
「・・・・・」
青年、紅葉は思う。
(きっとこのカゴに俺らの目を集中させようというつもりなのだろう。そしてどこからかあの妖精種が遠距離攻撃・・・。無駄だ、カゴ程度【変化】がなくとも防げる)
それに、と思考を一度区切った。
(俺の耳をなめてもらっては困る。2、3階程度のこの吹き抜けから見える範囲の足音なら全て聞き取れる。いや、これぐらいなら普通の人間にだって出来るだろう)
だから【変化】を拳に集中させ、カゴを見ずに、当たっても構わないとばかりに前へ踏み出した。
「紅葉様!駄目です!」
小人種リーナが叫ぶ。彼女は気付いた。いや、これは当たり前のことだと思っていた。だからきっと紅葉も気付いていると思って言わなかったし、言う暇がなかった。
彼女は驚いていた。紅葉が拳に【変化】を集中させたことに。
その瞬間だった。紅葉の真後ろから魔力で出来た矢が発射され、それが脇腹をかすっていく。
「なっ・・・!」
紅葉は驚く。
かすった程度でもかなりの痛みだ。当たり前である。魔力は触れたらその内部から破壊していく。例え体を鍛えていようが痛みを減らすことは不可能なのだった。
(どうして・・・!音も何も聞こえなかった・・・!)
小人種であるリーナは気付いていた。
相手には・・・『羽』がある!
長時間飛ぶ事はできないものの、この吹き抜けの近くに来ると同時に地面につくかつかないかというレベルで低空飛行し、足音を消すことだって可能なのだ。
紅葉とリーナの気付きの差。
それが相手に大打撃を与える。その矢のせいで紅葉の体勢が少し崩れてしまう。それを汐海は見逃さなかった。少し距離を詰め、叫ぶ。
「【連射】!」
銀色の腕輪のまわりに10個の白い弾が浮かぶ。
それを見て、紅葉は咄嗟に【変化】で全身を覆う。威力は低いと言えどもそれは魔法の一種だ。10個全て当たってしまうと生身の体ではそれなりのダメージになる。
しかし汐海が発射したのはたった5個。
すごい勢いで発射されたうちの3個は紅葉の体を支えていた片足に、そして残りの2個は小人種リーナのところへ。
もちろんリーナは魔法、自分に硬化変化をかけて防ぐが・・・少し後ろへ弾かれてしまった。その際の一瞬のふんばりが行動の遅さへと繋がっていく。
「紅葉様!」
「ぐっ・・・!」
まんべんなく【変化】をかけていたため、薄くなっていたガードが崩される。当たった箇所は無傷ではあるものの思いっきり弾かれた。
そう、支えていた片足が弾かれたのだ。紅葉はそのまま前のめりに倒れていく。
リーナは自分に硬化変化をかけてしまったため、連続で魔法が使えない。さらに、すでに紅葉には硬化変化をかけている。これ以上はどうしようもない。
駆けつけようとしたが、先ほど弾かれたせいでリーナの挙動は汐海よりも遅い。
「・・・・・ッ!」
汐海は走っていた。
前のめりに倒れている紅葉の顔に向かって拳を突き上げる。そこにあるのは残り5個の白い弾。この至近距離で鍛えようのない顔に発射されればひとたまりもない。
顔は弾かれるだけでは済まない、そう思って顔に【変化】を集中させてしまった。それが誤りだったのだ。この光の弾5個を顔面に、と体のどこかにアリスの弓矢。
どちらのほうが威力が高く、致命的か。弓矢をかすったことしかない紅葉には判別が付かなかった。
「・・・・シッ!」
アリスが静かに矢を発射させる。
それは綺麗に【変化】が消えていた、生身の足部分にヒットした。かなりの痛みに紅葉は目を見開く。その様子を見て汐海は手をすぐにひっこめた。元々それを顔面に当てるつもりはなかったのだろう。
紅葉は前のめりにそのまま倒れていった。
もう少しで2章となります。
読んでいただきありがとうございました。もしよければ次回以降もよろしくお願いします。




