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戦いの国の少女アリス-fairy game-  作者: 花澤文化
第1章 1回戦、開幕
12/13

第11ゲーム vs小人種『リーナ』

「紅葉様、ここがショッピングモールなのですね!」

 

 目を輝かせていつもじゃありえないようなテンションで話しかけるリーナ。それを見て紅葉は顔をほころばせる。思わず笑ってしまう。こんなに喜んでくれるのなら来てよかった。

 リーナは基本的に我儘を言わない。別に言ってくれてもいいのに、と紅葉はいつも思っているものの何か後ろめたさがあるかのような顔をして断られてしまうのだ。

 そんなリーナが行きたいと言ってくれた。我儘とは言えないかもしれないが、それでも何かを願ってくれた。それだけで嬉しい。


「あまりはしゃぐと怪我するよ」


 傍から見れば兄妹みたいだろう。

 紅葉自身も妹がいればこのような感じなのかな、と考えていた。

 リーナのことはそれぐらい好きなのだ。家族のように。ただ、そんなリーナのことを紅葉はあまり知らない。家族構成とか姉妹とか兄妹がいるのか、とか好きな食べ物とか、好きな色とか。

 向こうの世界ではどういうふうに過ごしていたのか。

 そんな事も知らない。

 しかし紅葉はリーナのことを家族同然と思っている。そう、なんの疑問も抱かずに。普通ではありえないぐらいに入れ込んでいる。


「・・・・・」


 リーナは一瞬いつもの申し訳なさそうな顔をした後、紅葉の顔を見るとすぐに笑みを取り戻した。

 紅葉はそれに気付かない。いつものように優しい目でリーナを見ていた。


 買い物自体はそこまで長くなかった。元から欲しいものが決まっていたのかあっという間に終わらせてしまったのだ。こういうところはリーナらしいと言える。


「リ、リーナは背が低いですから・・・なかなかこういう服を買う機会はないんです」


 そう言って買い物袋を見せる。

 そこに入っているのは子供用の服だった。ただし、最近の小学生用に少しだけマセている感じが出ている。リーナが行きたがっていたのは子供用洋服店だったのだ。

 背が低いリーナはどうしても子供服しか着れるものがなく、年相応の服を着る機会が少ない。しかしこのお店はそんなはやく大人顔負けのオシャレをしたいという子供用のお店だった。


「そうか、確かに着てる服は子供らしいものだったな」

「うぅ・・・」


 若干紅葉の一言にダメージを受けつつ、それでもまた笑顔になっていた。

 結局は子供用の服というところが残念ではあるが、それでもいいのだ。リーナは紅葉に年相応に見られたいと思っているのだから。

 そんな気持ちに気付かない紅葉はそのまま休憩をすすめ、2階にある自動販売機の前に移動する途中のことだった。

 急に人が消えた。

 異常事態ではあるが2人にとってはもうすでに慣れたもの。時間停止空間だとすぐに判断する。

 リーナの手にあった買い物袋や紅葉の財布、携帯なども消えている。必要の無いものだと判断され、現実世界に置き去りにされたのだろう。

 とはいえ、時間停止空間がなくなればまた2人の元に戻って来ているはずだ、問題はないと判断。


「リーナ」

「は、はい・・・!念のため【変化バフ】を・・・!」


 リーナは小さく何かの呪文を唱え、手元に突然現れた装飾のついた杖を静かに振る。すると光のようなものが現れ、それが紅葉の身を包んでいく。

 【身体変化グロウバフ】。身体を強化させたり、皮膚をかたくしたり、筋力を強化したり様々なことが出来る補助魔法で今回は全身に身体強固(身体を固く強くさせる)という防御を目的とした変化が発生していた。

 これでもし飛び道具がきても一撃はしのげるだろう。


「いこう」


 その紅葉の言葉にリーナは頷く。

 まずは相手を探さなくてはならない。ほとんどの攻撃に耐えられる【変化バフ】を受けているためどんな場所でも堂々と歩ける。目指すは見晴らしのいい吹き抜けになっている大広間。

 その場所まで走る。

 走る。ひたすら走る。

 それでも紅葉の呼吸に乱れはない。リーナも特に問題無くついてきている。リーナは人間ではないためまだ理解できるが、紅葉のそれは理解するのは難しい。

 人間離れした人間。

 それが紅葉の道場での評価だった。


「・・・・・あれか・・・」


 吹き抜けになっている大広間。その下。1階部分に2人1組の男女がいた。この時間停止空間は対戦者以外の侵入を禁止している。ここにいるということはあの人達が対戦者なのだろう。


「こ、この位置では判断しにくいですが・・・大きな武器なども見えませんし恐らく精霊種が妖精種、小人種のどれかだと思います・・・」

「了解。だが、油断はしない。どの種族でも問題無く倒せる」


 紅葉の受け答えがどこか堅くなる。

 鉄の心。

 己の弱さを見せないそんな自己暗示。それが発動していた。


(しかし・・・)


 紅葉は思った。


(どちらがキャラでどちらが人間か・・・これほどまでに分かりやすいとはな・・・)


 相手の1人は普通、まさに普通な容姿だが、女の方。綺麗な金髪で可愛らしい容姿。明らかにそちらがキャラクターだろう。もちろん、紅葉はそれでも油断しない。

 相手の腕輪を壊す、その時まで。


「紅葉様!確か近くに階段があったはずです、そちらに・・・」

「いや、いい」


 リーナの言葉を紅葉は拒絶する。


「俺はこのままいく」

「え・・・・・このままってここ2階ですよ・・・?」


 ここは吹き抜けになっている。

 2階部分に手すりはあるものの、完全に防がれているわけではなかった。そこを乗り越えれば1階まで綺麗に落ちることができるだろう。もちろん、足を折るだろうが。

 2階といえどもそれなりの高さがある。怪我は確実だろう。

 それでも紅葉は飛んだ。

 手すりを乗り越え、そのまま1階に落ち・・・見事怪我1つせずに着地成功していた。


「こ、紅葉様・・・。よかった・・・。リ、リーナは階段から行きます・・・」


 もちろん【変化】のないリーナは飛び降りる事はできない。

 【変化】があっても飛び降りるかどうか非常に迷う場面ではあるのだが・・・。





「アリス・・・!」

「了解です!」


 汐海の言葉に即座に反応し、手元に弓を顕現させる。無駄に装飾のついたそれは一見弓として機能しないように見えるが、形は関係ない。

 ただ、引く動作をすればそれで矢が放たれる魔法の弓なのだ。

 もちろん作り出される矢は魔力。魔弾(魔力を丸くし、それを放つもの)の形状を変えたもので威力よりも命中を重視している。


「・・・・ッ!」


 アリスは矢を放った。

 一直線に飛んでいく。かわしやすそうではあるが、相手もこちらへ向かって来ているのだ。そんな中自分に向かう矢をかわすことは不可能に近い、が・・・相手はそれを可能にした。

 もちろんかわしたわけではない、その拳で粉砕したのだ。


「なっ・・・!」


 アリスは驚く。


(魔力は固形じゃない・・・粉砕するしないに関わらず、触れた瞬間にダメージを与える水のようなもの・・・それを粉々に砕いた!?)


 再確認を一瞬で終わらせるも、おかしいことだらけで判断できない。

 しかし、一度ミカグラと戦っていたため、そこまでの衝撃はない。


(だとすると・・・PAパーソナルアビリティ・・・。あの獣人種と同じようにその拳に触れる魔法や魔力は掴めるといったものでしょうか・・・)


 それならば圧倒的に不利だ。

 魔法ならまだしも魔力はそこまで連発できない。だからといって威力を抑えた矢を放っても無意味。


(いえ・・・諦めるのはまだはやいです!)


 弓を構え、矢を放つ。

 放った後はまたさらに弓を構え、矢を放つ。

 間隔が短い。普通ならば魔力を十分に練ることが出来ず、暴発してしまうだろうが・・・アリスのPAである【花咲ブルーム】はそれを可能にする。

 自分の身体に触れている魔力の安定を高めるPA。その手で魔力に触れながら矢を作っているためそれが発動しているのだ。多少無茶な魔力使用をしても暴発はしない。

 ちなみにもちろん、自分の魔力に触れても自分が傷つくということはない。当たり前だ、魔力とは自分の生命力みたいなものなのだ。


「・・・・・」


 相手は少し驚いたような顔をして・・・そしてその矢を思いっきり殴る。

 粉々に砕けたが・・・その後ろにも矢が控えていた。次々と襲いかかる。相手は自分の手の感触を確かめ・・・その場にとどまった。


(何を・・・考えているんだ・・・?)


 汐海はそう思った。おかしい。あの数の矢を前にして、動かないなんて。威力を抑えているとはいえ魔法より単純な破壊力のある魔力だ。無事でいられるはずがない。

 瞬間、ふと汐海には相手の青年の拳が纏っていた薄い光が全身に伸びていき、全身を覆うように動いたように見えた。


(光・・・?)


 何が何だかわからない。

 あの光はなんだ?相手のPAなのか?拳から全身に?なぜ?それはなんの意味がある?もしかして魔力に触れられるPAを全身に伸ばしたのか?そこまで器用なのか?自由なのか?

 疑問が次々と浮かんでいく。

 そして放った矢が体に触れ・・・相手の青年が少しだけ弾かれたように後ろに飛んだ。魔力の威力に弾かれたのだ・・・でも、それだけ。

 弾かれて終わり。

 無傷。

 相手の体は少し後ろに下がったがたったそれだけ。その後も放った矢が次々刺さっていくが、相手は弾かれるだけで無傷だった。


「・・・・・」


 アリスが唖然とする。

 魔力をその身1つで受け止めた?ありえない。ありませんそんなことは。叫びたい気分だった。

 汐海は考える。


(無傷・・・そこも驚くべきところだ。でも・・・弾かれた?)


 今まで拳で殴っていても平然としていた青年が今度は無傷ではあるものの弾かれていた。

 汐海はそこに着目していた。なぜ、今は弾かれたのか。

 何かは分からないが、相手の拳を覆っていたものが全身に広がった。それがなんなのか分かればいいのだが、それは考えるだけ無駄だろう。

 何らかが起きて、相手のそういうガードが薄くなった、そう考えるのが妥当だろう。

 でも。


(でも・・・無傷・・・これでは意味がない・・・!)


 弾いても無傷ならば意味がない。

 こちらの弓矢は一切効かないということだろう・・・。いや、そもそも忘れていたが、あることを汐海は思いだした。


(相手・・・!相手のレベル・・・!まさか僕たちより遥か上のレベルの可能性がある)


 あまりにも強すぎることからこう考えた。

 忘れそうになるがこれはゲームでもあるのだ。レベル差が戦力差になっていてもおかしくはない。


「アリス・・・相手は格上だ・・・」

「はい、最初から油断はしていませんでしたが・・・」


 そして汐海はまた思いだす。

 そういえば目をこらせば・・・相手のレベルと名前が分かるはずだ。汐海は目をこらす。しかしそうしている間に無傷だということを確認した相手がこちらへ走って来る。

 アリスは汐海を守るため、その拳に魔力を宿らせる。

 【魔法は拳エンチャント・フィスト】。

 拳に常に魔力を宿らせているおかげで常にPAである【花咲】の効果を得られるため本来なら暴発し、自分がダメージを負うレベルの魔力を練ることが出来る。

 暴発とは自分の手から魔力が勝手に暴走することであり、この時点で自分の生命力とは言えないためダメージを受けてしまうというわけだ。


「え・・・」


 汐海は目をこらし、見てしまった。

 相手のLv.15という文字を。

 自分達よりも10以上も上のレベルの持ち主に。しかし、名前が見えない。名前がない?グーディー戦のときは見る事が出来たのに。

 いや、今はそれもどうでもいい。


「アリス!」


 危険だ!そう叫んだが、すでにアリスは相手と向き合う形になっている。お互いがお互いの間合いに入ってしまっている。

 魔力を宿した拳で相手を殴ろうとする、しかしそのアリスの攻撃はあっさりと相手の拳に弾かれてしまう。が、相手も少しだけ弾かれている。

 一瞬、何か拳のまわりに光みたいなものが見えた。


(今の光って・・・)


 アリスは驚いた反応を見せたがそれどころではない。

 相手の右拳が迫っているではないか。それを同じ右拳で思いっきり弾く。そしてその隙に左拳を叩きこもうとするが、相手の長い足がこちらを襲う。

 いきなり拳よりも長い間合いのものを出されて一瞬困惑するも、左拳の魔力を咄嗟にその足に投げる。もちろん粉砕されたが相手の蹴りの威力も相殺されていた。


(今の粉砕は魔力の暴発でもありますね・・・!)


 普通なら暴発するレベルの魔力を体に触れ続けることによって抑えている。その体から離れればすぐにでも暴発してしまうのだ。その暴発による爆発で威力を相殺できたが、自分も食らう可能性のある技だった。危ない。


「・・・・・ッ!」


 その魔力を見て少しだけよそ見していたその隙に相手の拳がアリスを襲う。

 魔力を再び宿し、それを投げつけあえて暴発させることによりまた威力を相殺させた。だが、先ほどよりも威力が残っていたように見える。

 すでにその暴発のことも学習したのかもしれない。

 再び蹴り。

 またもや魔力を宿した拳で対抗するも、今度はこちらが大きく弾かれる。相手は・・・。


「まだ・・・!ですか!」


 まだ勢いが残っていた。

 その蹴りが命中する前に大きく後ろに距離を取る、が、それも読まれていたのかその蹴りを大きく前に突き出し、一歩踏み出す。そして右拳がアリスを襲う。

 確実に食らう。

 もう後ろに距離をとるのも間に合わない。

 しかしアリスは妖精種だった。

 綺麗な羽を広げ、思いっきり後ろに飛んだ。拳は空を切り、アリスは一息つく。


「驚きました・・・」


 アリスはそう言った。

 さきほどの攻撃も相当に驚いたが、そうじゃない。相手の攻撃の際に見えたその腕。その手首。そこにあったものは銀色の腕輪だった。





 矢を放った時から相手の種族が精霊種か妖精種に絞っていた。

 油断はしていない。していなかったが、そんな相手の少女がなんと前に進み、肉弾戦を挑んできたではないか。これは相当驚いた。

 相手の戦闘はどうにも慣れていなく、何か武道を習っているような感じではない。明らかに戦い慣れしていなかったが、それでも紅葉の拳は弾かれた。


(今までこのようなことはなかった・・・PAか何かか?リーナは降りてくるまで少し時間がかかるみたいだし、どうにか自分だけで防ぎ切らなければ)


 紅葉は拳を構え、攻撃する。

 だが、咄嗟のことだった。本当に少女そのものが攻めてくるとは思わなかった紅葉はその動揺から普段は隠している銀色の腕輪を相手に見られてしまったのだ。

 相手の少女が驚いた顔をする。


「あなた・・・人間だったんですね」


 それに対し、その少女、羽を広げるその少女に向かい紅葉は冷静に発言した。


「そういうお前は妖精種、か」

読んでいただきありがとうございます。


もしよければ次回以降もよろしくお願いします。

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