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戦いの国の少女アリス-fairy game-  作者: 花澤文化
第1章 1回戦、開幕
11/13

第10ゲーム ショッピングモール

「紅葉様・・・」 


 道場の朝。

 7時ちょうどに朝食をとると決まっているこの道場の食卓には紅葉とリーナが朝食を食べていた。父である東葉やこの道場に通う人もたまにこの食卓に混ざるのだが、今日は誰もいないらしい。

 健康第一ということで朝にはご飯、味噌汁、焼き魚に野菜の和え物というとてもヘルシーかつしっかり力がつくような料理が毎回作られている。

 東葉も紅葉も食事を作るのが得意なのだ。

 そんな食卓。不意にリーナが紅葉の名前を読んだ。


「どうした?」


 鉄の心ではないいつも通り年相応の紅葉。


「あの・・・最近近くに大きなショッピングモールが出来たと聞いたのですが・・・その・・・」

「ああ、なるほど。行きたいのか」

「す、すみません・・・」


 リーナも外見は幼く見えるとはいえ年齢でいえば年頃の女の子。買い物というものに興味だってあるし、服を買うことだって好きなのだ。

 いつもなら心配をかけずに1人で買い物に行ったりするのだが、初めての場所と人の多い場所ということもあり、紅葉についてきてほしいとのことだった。


「それぐらい問題無いよ。俺は別にここの道場の弟子ってわけでもないし。それにようやくリーナがしてくれた頼みごとだもんな」


 リーナは紅葉のことを紅葉様と呼ぶようにまるで従者のように慕っている。ただ、紅葉はそれが気に食わなかった。確かにリーナの方が年下ではあるが様を付けたり、へりくだったりするのはどう考えてもおかしい。

 だから何か頼みたいことがあったら遠慮なく言ってくれと毎日のように言っていたのだ。

 しかしリーナは自分の戦いのせいで体を鍛えなくてはいけなくなった紅葉の邪魔をするわけにはいかない、と今まで何も言う事はなかった。


「で、でも紅葉様はリーナのせいで・・・」

「何度も言うがそれは違う。俺は俺でこうしようと決めたんだ。リーナが負い目を感じる必要はない」


 そう笑って見せてもリーナの曇った顔は晴れなかった。

 どうしたもんかと考える紅葉。こうしてこの道場の1日が始まったのだった。





 ショッピングモール。

 最近出来たばかりでまだ人の多いそんな中に汐海はいた。目の前には自動販売機。そして手にはジュースが握られていた。顔にはすでに疲労が浮かんでいる。

 汐海は人混みが苦手だった。最近はアリスやその戦いを通して出会う人達が賑やかなので忘れがちではあるが、汐海は大学でも常に1人でいる。元々集団行動とかが苦手だったのだ。

 そんな汐海がなぜこんな場所に居るのか。

 今朝のことを思い出す。


『デートに行きましょう!』


 確かきっかけはそんなアリスの一言だった。

 正直汐海としては噂の異形種のことが気になったり、バトルのことで悩んだり、たまにアリスが見せる不安そうな顔、汐海の参加理由などで考える事がいっぱいあったのだが・・・。


『デートって・・・・・外に出かけたいってことだよね?』

『デートです!』

『・・・・・』


 この状態のアリスには何を言っても無駄だってことが分かっている。


『最近新しいショッピングモールが出来たそうじゃないですか』

『ああ、確か有名なお店とかが入ってるんだよね』


 いくつかのお店が内部に入っており、それを1つのでかい建物に収容したショッピングモール。中には人気ブランド店や全国で行列が出来るほどの食べ物屋など地方に住んでいればなかなか見る事の無いお店がいっぱい入っている。

 だからこそオープンしてそれなりの期間が経った今でも人が減る事はなかった。


『でも人がいっぱいいるってことはその分バトルになる可能性も高いよね?』


 今のゲームルールは1組対1組。そのパートナーとなる銀色の腕輪をつけた人間同士が近付くと時間停止空間が発生しバトルになる。

 一度戦った相手とは時間停止空間が発生しにくくなったり、一度戦ったらその相手とは24時間再戦することができないという規則はあるものの基本的には出会うと問答無用でバトルになってしまう。

 人が多ければ多いほどその銀色の腕輪を持つ人がいる可能性も高くなり、バトルの発生可能性もまた同様に高くなるのだ。


『そんなこと言ってたら外になんか出れませんよ』

『それはそうだけど・・・』


 しかし汐海自身、アリスの服装に問題がある事ぐらい分かっていた。

 綺麗な金髪に整った容姿、それだけでも人の目をひくというのにその服装は装飾がついたひらひらのメイド服のようなものだった。それがとにかく目立つ。

 今までは近所の安い服屋で買っていたりしたのだが、アリスも年頃だ、おしゃれぐらいしたいのかもしれない。


『分かった。じゃあ、後で行こうか』

『本当ですか!汐海様とデート・・・』


 その後、デートじゃないと何回言っても聞き入れないアリスにつれられやってきたのがこのショッピングモールだった。

 はっきり言ってしまえば予想以上の人。人。人。

 疲れた汐海は服を真剣に見ているアリスに休憩してくると伝えこの場にいるのだった。


「・・・・・」


 ジュースのフタを開け、一気に飲んで行く。

 人が多いからか夏が近いからか、気温はそれなりに高く、喉が渇くのもはやい。


「ぷはあ・・・」

「溜息かボーイ。女の買い物に付き合えてこそ一人前の男だぞ、この美しい私のように!」


 そんな汐海に反応したのは音楽家であり亜人種であるグーディーだった。今日も燕尾服のような服を来て、頭にはシルクハットをのせている。目立つ事この上ないが本人はそれをいいことと思っているようだ。亜人種であるため見た目は人間そのものではあるし、まあいいかと汐海も気にしない。


「なぜグーディーさ・・・」

「さん付けはやめたまえ。私と君の仲だろう?」

「・・・・・グーディーはなんでここに?」

「なあに、我が役立たずパートナーの付添、そしてここの楽器屋を見に来たのだ」


 そこあるお店は中古から新品まで様々な楽器が売っているお店。

 なるほど、グーディーの好きそうなお店である。


「ピアノを壊されてしまったからね、ここで買おうかとでも考えていたのだよ」

「そうなんだ・・・ていうか・・・パートナーの付添・・・?」


 そこに気付いた汐海は咄嗟にグーディーとの距離をとる。

 そう、パートナー同士が近付くとバトルが始まるかもしれない。この前は汐海たちに逃げることしかしなかったがこの場にアリスがいないため肉弾戦で負けるかもしれない。

 人間に似ているとはいえ亜人種なのだ。その身体能力は人間以上だろう。


「はっは!反応が遅いねえ。もし相手が私ではなく今話題の異形種であったならば君は殺されていたところだよ。油断しない事だな」

「異形・・・!」


 グーディーも知っていた。

 人間を殺す、キャラクターを殺す異形種。それは未だに噂の段階だが・・・ここまで広がるということはやはり信憑性があるのだろうか。


「・・・・・・」

「考え込んでいるね。私相手に随分と余裕だが・・・安心したまえ。我がどんくさいパートナーは近くにはいない。それに私たちは一度戦っているからね、時間停止空間が発生しにくくなっているのさ」

「・・・・・」

「ほんと、私を、亜人種を舐めすぎではないかな?異形種のことは今は気にしなくてもいいだろう。まだ噂の段階だ。そもそも人間を殺しても参加資格が別の人間に移るだけでメリットがないのだよ」


 このゲームのルールの1つ。

 銀色の腕輪を破壊する前にその人間を殺してしまったらその銀色の腕輪は破壊されずに残り、別の参加者(参加しようと思ったが定員に達していたので参加できなかった補欠)に移ってしまう。

 もちろん経験値も入らない、それは無意味なのだ。


「でも・・・」


 汐海は呟く。


「でも・・・もしその行為に何か意味があるのだとしたら・・・いや、何か意味がないとしたらそれは・・・単純にその異形種の趣味・・・!」


 その呟きは小さくグーディーには聞こえなかったらしい。

 勝手に話を変えていた。


「というかそもそも亜人種というのも君たち人間に向けて作られた用語だ。この戦争に人間の協力を求めようとする前は違う名だったのだよ、ボーイ」

「そうだったの?」


 自分よりも高い身長のグーディーを少し見上げるような形で問う。


「ああ、本当さ。だから私はこの亜人種という名前が嫌いでね。ただでさえ最弱と言われているのに、名前までころころと変えては相手種族に舐められてしまう」

「そ、それは・・・なんか申し訳ないけど・・・」


 別に汐海が悪いわけではない。

 だが、なんとなく反射的に謝ってしまった。


「じゃあ、昔はなんて名前だったの?」

「人種、人間種、だよ」

「え・・・!」


 人種。

 人間種。

 汐海は詳しいことを知らない。それこそ向こうの世界にいたときのことをアリスは話したがらないため向こうの世界の知識があまりないのだ。

 それでも分かる。

 この名前の意味を。


「それって・・・向こうの世界の人間ってこと・・・?」

「要するにそういうことだ。やはり君はあの妖精種から何も聞いていないみたいだね。当たり前だ、向こうで行っていたのは戦争なんだ。パートナーである君に向こうでしてきたことを知られて幻滅されたくないのだろう。そういう私もそれなりにひどいことをしてきたからね」


 それでもどこか笑っているグーディー。

 大方、きまった、美しいセリフがきまったぞッ!とでも思っているのだろうと汐海は思う。

 中学生の悪自慢みたいだ。


「・・・・・」


 人間種から亜人種へ。

 理由は思いつくし、その信憑性も高い。なぜなら亜人とは人間の亜種という意味であり、元となる人間がいなければ絶対に付かないような名前なのだ。

 ゲームにするに当たってそのまんま人間種では色々と問題があったのだろう。まず、汐海たち地球側の人間との区別が付きにくかったり、人間を戦争で戦わせたり。

 その問題をクリアするために亜人種というこれは人間ではありません、人間の亜種ですよという注意書きのような名前を付けたのだ。


「グーディー・・・」


 自分の種族の名前を変えられる。

 戦争の経験も、名前を変えられる経験もない汐海にはその気持ちは分かりにくかったが、それでもグーディーに同情してしまう自分がいた。


「ふうむ・・・これが一番いいかもしれんな」


 しかしそんなグーディーはすでに楽器屋の中を見ている。その目は真剣そのものでやはり楽器が本当に好きだということが伺えた。

 少しだけ心配して損したが、汐海もつられてそのピアノを見て・・・。


「え、高い!」


 その値段の高さに驚いた。

 いや、本当に。楽器なんてそれこそ学校のピアニカ(鍵盤ハーモニカ)、リコーダー程度しか触れてこなかった汐海にとってその値段は驚くものだったのだ。


「高い高いとは思っていたけど・・・」


 ここまでのものだったのか。

 というかそれよりもこのグーディーはこのピアノを買うと言っていた。金持ち・・・なのだろうか。しかし金持ちってこっちの世界に来たばかりなのに・・・どうして。

 アリスのことを考える。

 金持ちではなかった。それこそ一切の資金がなかったわけではなかったが・・・。


「不思議そうな顔をしているね。君は三蔵グループを知らないのかい?」

「三蔵グループ・・・」


 知っている。

 そう、まさにこのショッピングモールの全体を経営している財団のようなものだ。とんでもないお金持ちである三蔵が作ったものであるらしいが・・・。


「私の役立たずパートナーの名前を思い出してみたまえ」

「しずくちゃん・・・・」


 そう、しずく。

 では苗字は・・・!


「三蔵しずく・・・!」

「ご名答。我が役立たずパートナーは金持ちなのだよ!ふふっ・・・・すなわち!そのパートナーである私だって金持ちということだ!美しい!やはり私に手に入れられないものなどない!」

「いやそれただしずくちゃんの脛をかじってるだけじゃ・・・」

「ボーイ。やはり君は優しすぎる。利用できるものは全て利用しなければ意味がないのだ。それに・・・今回の買い物は魔具に関わるからね、パートナーにも許可をとっている」


 あのわけのわからない暴力馬鹿め・・・!我が相棒であるピッアーノを粉砕するとは・・・!怒りをこめた言葉をひたすらに言っている。

 魔具というものを詳しく知らない汐海は一度粉砕されても復活できるのか?なんて当然の疑問が浮かんでしまうのだが。


「君が優しいから君たちはまだ弱いままなのだ」


 しかしグーディーは唐突にそう言い始めた。

 汐海は面食らう。


「君は甘い。いや、君のパートナーもかな?妖精種はどうやら君の戦う理由を知りたがっているようだが・・・そして君も君を心配するパートナーを心配しているみたいだが・・・それが弱さに繋がっているのだ」

「・・・・・・」


 汐海の目には「あのとき一目散に逃げたお前が何を言っているんだ」という意味が込められていたのだが・・・グーディーは気にしない。


「なぜ、参加するのに理由をいちいち気にしなければならないのか甚だ疑問だね。私は私の種族のために、そして我が美しさが一番だと証明するために戦っている。だが我が役立たずパートナーは私にもよくわからなくてね。最初は自分を強くするだとかそんなことを考えていたみたいだが・・・今の戦法になってからは感情を殺し、人形みたいな子になってしまったよ」


 それでも支障はない、そう断言した。

 汐海はそうは思わない。今のセリフだけを聞いてもグーディーのパートナーはきっと正面から戦うような勝負を想像していたのだろう。ただ、グーディーは戦えない。結局逃げるしかないその戦法に自分の無力さを感じ・・・どうでもよくなった。そうなんとなく想像できる。

 もちろん推測だ。

 もしそうだとしたらこの目の前にいるチームは分かりあえていないことになる。それでも支障はない、なんてことはないはずだ。


「グーディー・・・それはちが・・・」


 否定しようとした。

 それは違う。やはり分かりあえなければ意味はない。僕たちは今その途中にいる、だなんてそれらしいことを言おうとして目の前のグーディーが消えていることに気付いた。

 グーディーだけじゃない。このショッピングモールにいた人達全員が消え、誰もいない静かなショッピングモールだけが残されていた。


「まさか・・・!」


 時間停止空間。

 近くにパートナーがいる・・・!


「汐海様!」


 慌ててお店から出て来たアリス。

 この自動販売機前に来る前アリスにきちんと居場所を告げていたのがよかった。すぐに集まることが出来る。これでひとまずは安心だ。


「・・・・・」


 そしてそれと同時に汐海はアリスのことをほとんど知らないと、そう思った。

 きっと汐海たちも分かりあえてはいない。

 だからその努力をするべきだと自分に言い聞かせる。この戦いが終わった後、アリスときちんと話をしよう。向こうのことも教えてもらって、僕の参加理由も考える。分かりあわないと。

 そこまで考えて・・・。

 視線を上に向けると吹き抜けとなっている天井が見えた。ここから2階も見わたせる。その2階に1組、背の高い青年と逆に小学生ぐらいの女の子のコンビがいた。


「・・・!」


 向こうもこちらを発見したらしい。

 この時間停止空間にいるということはあの人達が対戦相手。

 しかしここはショッピングモール。身を隠す場所もあるし、移動できる部分も広い。相手は2階。1階に降りてくるまでは少し時間がかかるはずだ。

 その間に身を隠してとりあえずアリスの矢による射撃で威嚇して・・・。

 汐海はそこまで考えていた。

 その考えは全て無駄になる。


「なっ・・・!」


 青年の方がそのまま2階から1階へと飛び降りたではないか。

 2階とはいえそれなりの高さがある。人間が飛び降りれるような高さではない。無茶をすれば骨を折ることになるだろう。

 ということは・・・。


「あの背の高い方がキャラクターか・・・!」


 汐海はここで相手は獣人種か何かだと判断した。それぐらいの身体能力じゃなければ無理な高さだったからだ。

 汐海は知らない。グーディーたちが同じ過ちをしていたことを。

 そしてグーディーではなく、自分達が対戦相手に選ばれた理由は相手とグーディーがすでに戦っていたので時間停止空間が発生しにくくなっていたから、ということを。


「・・・・・」


 ズドンと派手な音がしてその青年は地面に着地した。

 そして拳を握り、静かに汐海の方へ移動を始める。

 

次は恐らく戦闘だと思います。


読んでいただきありがとうございました。もしよければ今後もよろしくお願いします。

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