プロローグ 画面を隔てた世界
神様により、その世界の国土の3分の2が失われた。
とても広い国で、様々な種族がそこに住んでいる。
力が強い獣人種。
魔法の使える精霊種。
魔力を使える妖精種。
頭のいい小人種。
道具をうまく使える亜人。
そして統一性のない変わり種異形種。
まるで違う6つの種族ではあるが、それぞれが助け合い、共に生きて来たのだ。そんな矢先にあらわれたのが神様。神様はあらわれ次第、国土の3分の2を奪っていった。理由は単純。
「お前たちは増えすぎた」
多くの種族がいることは神様にとって気に入らないことだったらしい。しかし神様といえど命を無闇やたらに奪うことは許されない。だから国土を奪ったのだ。
奪われた国土には植物ははえず、食物が育たない。住むだけで体調を崩すような環境で生き物はすぐに死んでしまうような場所だった。
『聖域』
奪われた国土は神様しか侵入を許さない聖域と呼ばれるようになった。問題はこの後である。
残った国土はとてもせまく、とても6種族が住めるような大きさはなかった。住めて1種族。そうなると必然、生きるためにはその国土を奪うしかない。
そして残った国土を奪うための戦争が始まったのだ。
仲のよかった他種族同士が殺し合い、他種族同士で結婚した人はすぐに別れた。平和だったその国は一気に戦乱の世へと変わってしまったのだ。
神様は国土を奪う事で自分の手で命を奪わず、そこに住むものたちに殺し合いをさせ、生き残った1つの種族をこの国に住むことを許したのである。
最初は乗り気じゃないものもいたが、生きるためにはそうするしかないと戦争はどんどん拡大。それぞれの長所を生かしつつ戦い続ける。
そしてここでまた1つの戦いが。
聖域から少し離れた場所。大きな木が生い茂る森の中で2人の人物がむかいあっていた。どうやらここでも戦争の中の1つの戦いが始まるということらしい。
「1人で来るなんてなかなか度胸があるじゃない」
「その余裕すぐになくすことになりますよ」
小柄な金髪の少女が1人。そしてもう1人は長身で綺麗でまっすぐなストレートの髪の毛の持ち主。2人とも人間離れしている容姿だ。
そして長身の方の耳はとがっていた。
エルフだ。
エルフは杖を取り出すと小さく小言のように何か呟く。はやい。聞き取れない。恐らく呪文。エルフの得意とする魔法なのだろう。対するフェアリーは弓を構える。
その弓には色々な装飾が施されており、一見邪魔そうに見えるが、構えもまた飾りだ。矢を装填して少し引くだけで発射される魔力の弓。そして相手を破壊する魔力の矢。
エルフは杖を前に向け、火の魔法を打ち出す。火の弾を発射するそれは5つに分かれて、フェアリーを襲う。弓を構えて矢を発射、5つの火の弾のうち1つを打ち抜く。
その際パァン!と弾けるような音がした。フェアリーは今の音を聞いて何か考える。
残る4つ。
フェアリーは唯一空を飛べる種族だ。背中に羽を展開し、空中に浮かぶ。常に飛び続けられるわけではないが、この4つの火弾をかわすぐらいの時間はあるだろう。
襲いかかって来る火の弾のうち1つをまず、大きく上に飛ぶことでかわす。さらにもう1つの火の弾を今度は下に向かって落ちることでかわした。
(ホーミング性能・・・追尾性があるのですか・・・!)
かわしたものの再び背後から襲いかかって来る火の弾。
しかし一度かわしたことにより、火の弾の位置が綺麗に一直線になる。これがチャンスだとばかりにフェアリーは再び矢を魔力で作り出し、弓を構える。
(さっきよりも強く・・・細く・・・鋭く・・・貫通させる矢に・・・)
考えながら矢を作り出す。
そして・・・。
(いけ・・・!)
瞬!という音と共に矢が発射される。先ほどの魔力の矢より細く、鋭い。これなら・・・。一直線になっていた火の弾を貫いた。これで2つの火の弾が消える。
残るは2つ。
エルフが追撃してこないところを見ると、この魔法自身かなりの魔力を使うため他の魔法と同時に使うことができないのか、それともこのエルフ自身がそもそも未熟なのか。
フェアリーは追尾性をいかすため、低空で飛んでいく。飛ばなくとも走るよりはやく移動できるという羽はその速度をあげていき、火の弾から距離をとっていく。
そして木のうちの1つの後ろに隠れ・・・火の弾は木に直撃した。2つとも無残に木にぶつかり消えていく。どこまでもついていくということを逆手にとられてしまった。
「くっ・・・!」
エルフは歯がみする。
やはりさっきの魔法はかなり魔力を使うようで汗がたらたらと流れていた。
「火を木で消すとは・・・下手をすればここらへん一体が火事になっていたぞ・・・」
「いえ・・・矢で貫いたときに何か弾けるような音がしたので、恐らく燃やすよりも打撃を重視したものなのだろうと思いまして」
燃やすための火の弾ならばあのような音は出ない。しかしぶつけ、相手に打撃を与えるよう特化したものなら火の弾だろうが堅く作られているため貫かれたときにあのような破裂音がしたのだ。
わずかな音の違いはフェアリーやエルフだからこそ出来るものであり、ドワーフなど魔法を使わないものは全く分からない違いである。
「なるほど。なかなかやるらしい・・・」
杖を構える。
エルフの目は本気だ。先ほどはホーミング性能のある火の弾が勝手に倒してくれるだろうとどこか楽観的だった雰囲気を改め、自分自身で目の前のフェアリーを倒そうという気持ちに切り替えた。
ここから先は一筋縄ではいかない。
そう思ってフェアリーも弓を構える。
どちらが先に動くか。
どうなるのかは2人にも分からない。
しかし2人とも神経を集中させ・・・一気に動く。
『時間切れです。対戦を終了します』
ビーという機械音と共に画面が消えた。
「えっうそ・・・もう時間・・・?」
画面上の制限時間のところを見ると綺麗に0が並んでいる。どうやら時間切れのようだ。制限時間内に倒さなくてはならないバトル形式・・・なかなか辛いものがあると思った。
でも今回は森の中で敵を見つけるのに時間がかかったし・・・しょうがない、とこのゲームをプレイしていた七実汐海は画面を見る。
オンライン対戦画面から切り替わり、自分のキャラを表示するステータス画面へ。そこには先ほど戦っていた金髪の妖精、フェアリーがいた。名前はアリス。
『惜しかったですね、shio様!次こそは勝ちましょう!』
そうテキストが流れていた。
汐海はうん、了解と小声で言いながらゲーム機の電源を切り、明日提出のレポートを作成するために再び机に向かう。
『妖精戦争』
それが汐海のもつゲームの名前であり、今世間で人気爆発中のゲームの名前だった。
読んでいただきましてありがとうございます。
ゲームの中に入る話があるので逆があってもいいよなあ、と思い考えつきました。そこまで長い話にはならないと思いますので、どうかお付き合いください。
ではまた次回。