護衛騎士の手遅れな自覚
『護衛騎士の拗れた恋』の続きなのでそちらからどうぞ
アイリティリア様をつれて国外に逃げることに成功してから数日た経っていた。
サマリア(※メイド)の読み通り日々盛られていた毒がなくなったことでアイリティリア様は徐々に回復していらっしゃる。
俺達は勿論、ヴィグセル(※皇子の護衛騎士)は特にそのことについて喜んでいる。踊り出さんばかりだ。……まぁ格好付けのあいつがそんなことやるわけないがな。
幸せそうな2人を見てあの堅物で合理主義者のサマリアも頬を 緩めて「これでよかったかもしれないわね」 と言った。
俺もこれが悪いとは思っていない。
あの時アイリティリア様をつれて逃げなければ間違いなく殺されていた。それが良いわけがあるはずもない。
それでも。
逃げる時、ふと振り返った相棒の、アナスタシアの泣きそうな……置いて行かれた子供のような顔と僅かに伸ばされた手を思い出すと。
これでよかったなんて全く思えないんだ。
父さん……いや、ゲオルギウス(※騎士団長)の味方となってアイリティリア様を裏切った、元相棒。
裏切られていたと思うと胸が裂けそうにいたくなる。
手を取れなかった事を思うと胸が締め付けられる。
これで良いわけがない。でもこれが悪い訳でもない。
アナスタシア……なんで裏切ったんだ……。
あいつと出会ったのは五年前。
俺は丁度見習いを終えて正規騎士として働きだした頃にゲオルギウスが唐突に連れてきた暗い目をした見習い騎士の少女。
必要最低限も話さず全てを拒絶するような彼女に周りは良くて距離を置き、生意気だと憤る人も少なくなかった。
父さんが連れてきた人だから、と話し掛けたことでまさか世話役を押し付けられるとは思いもしなかったものだ。
すらりとした痩身。整った顔立ちに豊かな金の髪。花屋やパン屋などの看板娘などやっていればいいんじゃないかと思える風貌。研ぎ澄まされた刃のような雰囲気め目つきが台無しにしているがそれでも騎士団なんて危険な仕事に着かなくてもいいんじゃないか。
そう本気で思っていた。訓練場で彼女の実力を見るまで。
軽々とその細腕で重い剣を振るい、素早い動きで危なげなく避ける。そして何より戦い方が上手い。さらに医術の心得があり、騎士団付きの軍医が舌を巻くほどの腕を持っている。
騎士団長の推薦であり確かな実力を持っているので不満を持っていても周りは黙り、彼女は遠目に見られるようになった。
そんな彼女に俺は毎日接し続けた。世話役というのもあるが何より彼女を放っておけないと思ったからだ。
そうして一年たって。変わらず彼女は話すことは殆どなかったが……接し続けた効果だろうか、彼女の雰囲気は心なしか柔らかくなり俺は彼女の表情から感情を読み取ることが出来るようになった。
当時から仲の良かったヴィグセルには引きつった顔で否定されたが接してみれば彼女は感情豊かで心優しい少女であることがわかると思う。
そしてその次の年の始まりには一言二言話すように。
その次の年には共にアイリティリア様の護衛になって。
その次の年には一緒に遊びに行くようになって。
仲良くなっていた、と思っていた。
五年の付き合いだ、それなりに絆があると思っていた。
だからあいつは裏切ってない、何か理由があるはずだと思おうとして……彼女のことを驚くほど何も知らない自分に気付いた。
表情から感情を読めるようになった。
少ないとはいえ話してくれるようになった。
…ーー
それだけだ。
彼女の生い立ちも、好き嫌いも、特異なことも、趣味も……何も知らないし聞いたこともないし聞こうとしたこともない。
知っているのは戦力としてのデータだけ。
何も知らないのに、裏切られたなんて思うなんて……なんて滑稽なのだろうか。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて涙が出てくる。
ただの知り合いを越えない程度の付き合いに絆なんて、信頼なんてあるはずがないのに。
そう思うと。
何故か更に胸が痛くなった。
痛い、痛い。涙が溢れてくる。
違う、彼女との絆は確かにあったはずなんだ。
そう心が叫んでいる。
なんで彼女のことを思うとこんなに苦しいのだろう。
なんで、どうして、俺は…………。
ふ、と思い出した。
ある日二人共にアイリティリア様に非番を言い渡されて街に出た日のこと。取り敢えず彼女を誘ってみたものの特に目的もなく街をさまよっていた時、彼女は道の端は花を売っていた少女から花を一束買った。
花束をぼうっと見つめる彼女を見てなんとなく花束から一輪花を抜き取り彼女の髪に飾ってみた。
驚いてこちらを見た彼女は少し間をおいてすごく綺麗な笑顔を俺に見せてくれた……。
それを見て思ったんだ。
彼女を守りたい。ずっと一緒にありたい、と。
あぁ、わかった。
なんでこんなに苦しいのか。
なんでこんなに悲しいのか。
彼女のことが、好きだったんだ。
なんて無様なんだろう。なんて愚劣なんだろう。
今更自覚しても、もうどうしようもないではないか。
敵対した彼女に愛を乞うなんて出来るわけがない。
もうあの国に戻ることもする気はない。
なんでこうなってしまったのだろう。
そう、嘆いた時だった。
勘に突き動かされてその場を飛び退いた。
自分がいた場所を刃が通り過ぎていく。もし飛び退かなかったらその刃は俺の首を切り落としていただろう。
はやる動悸を抑えて目を凝らして暗闇を見つめた。
鈍く光る刃物。それを握る闇夜に紛れる黒いローブをきた細身に人間が振った刃物を構えることなく下に向けて逃げも隠れもせず立っていた。
ついに追っ手がきたか。
そう重い剣に手をかけた。
「ぁは」
静寂に、そんな微かな笑い声が響いた。
その笑い声を聞いて思わず体がびくりと震えた。
有り得ないことはない。
でもそうあって欲しくない。
声の主の正体を知ってしまう前に逃げてしまおうと足が一歩後ずさった。逃げられる訳がないと知りながら。
「あっはははぁ!やっぱり凄いね、ユクシノ。……私が鈍っただけかな?」
そう言いながら彼女は目深に被ったフードを取った。
彼女と思えないほど明るい口調。
でも見間違えるはずのない懐かしい見慣れた彼女の姿。
呆気に取られた俺に剣を突き付けながら彼女は凶笑を浮かべた。
「殺しにきたよ」
重く冷たく告げられた言葉が胸を抉る。
どうして、こうなってしまったんだろう。
主人公はアイリティリアに毒を盛られていることは勿論知っています。でも黙っていました。
サマリア
流されるままついて行ったら皇女の逃亡を助けていた。な、なにを(ry)てなっている ちょっぴり天然風味な人。異常に幸運なので上手く行っただけで主人公が思う手引きなんて欠片もしていない。合理的だが楽観的でもある。
ヴィグセル
ヘタレ騎士2
お調子者のムードメーカー。だが阿呆だ。
見当違いの方向に努力するのが得意だがそれが大体上手く行くので護衛騎士に至るまでになった。
アイリティリアにほれた理由は守ってあげなきゃという保護意識が成長して…といったところ。
アイリティリア
見た目は可愛らしいが色々あってクールなニヒリストで諦め癖のついた自虐的な皇女様。
ヴィグセルにほれた理由は底無しの明るさに惹かれて……といったところ。
本能的に主人公を敵とみなし主人公と行動を共にするユクシノ諸共嫌がらせに我が儘を言っていたという設定。
ゲオルギウス
ダンディーなおじ様。
国を愛し職に生きる人。
権力を持つために養子と皇女の縁談を進めていたのではなく、そこそこの身分のヴィグセルが皇女に惚れていることに気付いて二人が結婚して内乱の種を生むよりは自分の監視下において子供も生ませず毒で緩やかに死んでもらう予定だった。
因みに皇帝の許可?ないよ()あとで適当に処理する予定だった。毒も独断。
国のためにこうするのがいいんだ!という視野の狭い大人が権力を持った結果がこれだよ!
行き当たりばったりで書いている上携帯でろくに添削していないからそろそろ矛盾点がわいてきそうで怖いですが、もうちょっと続く…かもしれません。