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柔らかな温かい物に包まれて微睡む
この感触は何だっただろうか?
滑らかな絹、お日様の匂い、優しい鼓動
ん?鼓動
一気に飛び起き、辺りを見回して愕然とする
な、何故ここに暗夜羊が?
ではここは人界?いつの間に来たのだろうか?
考え込むも答えは出てくることはない
一体どうしたら地震?にあって意識を失っただけで界を越えると言うのか
呆然と座り、困ったことになった自分の行く末を考える
転移陣は使えないため、誰かに使ってもらわないと冥界に戻れない
最低でも冥界で言う19日を人界で待たなければいけないと言うこと
人界と冥界は同じ時間は刻んではいない
ちなみに冥界の1日は人界では約一ヶ月半
つまりは一ヶ月が26日、一年が13ヶ月の339日(1ヶ月27日の月がある)のため
単純計算二年と1ヶ月半近くを人界で過ごさなければいけない
「気付いてくれなければもっと時間が掛かる気がします」
果たして落ちこぼれな自分の不在に気付くだろうか?
ハルルリアさんは気付いてくれると思いますが………
「あんたなにしてんだ?泥棒か?」
突如聞こえた声に後ろを振り返って固まる
人?え?この方は私に声を掛けている?見ているの?
「おい、本当に泥棒なのか?」
「私に話し掛けていますか?見ているのですか?」
「なに当たり前なことを、それより俺の質問に答えろ」
驚きに言葉がでない
冥官たる自分が人に認識されるはずがない
それなのに今、人の目に触れられているとは
「あんた………」
「あ、申し訳ありません。大丈夫です
えっと、私は泥棒じゃありません
ま、迷子になってしまった大人です、多分」
そんな蔑んだ目で見ないで下さい
仕方ないじゃないですか、とっさに思いつく言い訳なんかなかったんです
だから今にも誰かを呼ぼうとしないでください
「ごめんなさい、すぐに立ち去ります
なにも悪いことしてませんので、安心してください」
意気地なしですから、走り去るしかありません
「待て!!まだ」
待ちません。一人になってゆっくりとこれからのことを考えなければいけないんです
暗夜羊の群を器用に掻き分けてひたすら走る
誰もいない、静かに瞑想出来る場所まで
「なんて逃げ足だ」
舌打ちし、もはや姿の見えない者が座り込んでいた場所をみた
ここには何かあった気がするが
「それにしてもどうやって入ったんだ、ここは人が入らないように防護結界で封じたはずなのに
張る前にはこいつらしかいなかった。」
では結界を壊すことなくここに立っていた不審な奴
声からして少年、まだ小柄な体型は大人は言えず
言動を見るからにしてある程度の教育を受けていた、そこから考えられるのは
いや、憶測は要らぬ先入観を得る
客観的な視点で見れば、結界については二つのことが考えられる
一つは
結界を張った者より技術、魔力が上で簡単に干渉出来たこと
二つ目は
逆に魔力が少ない先天性の《魔力欠乏症》者で干渉にまったく影響されなかったか
少ししか見てないが魔力が高いとは見えなかった
かと言って《魔力欠乏症》とは言うほど魔力が低い訳ではない
「逃がしたのは痛いな」
だが奴の魔力パターンは覚えているから、次に見れば分かる
この魔眼に感謝することになるとは
「隊長、目標に動きがありました
残念ですが、予想が的中してしまったようです」
「そうか………、あれはそこまで堕ちてしまっていたか
引き続き、監視し報告をしてくれ
私は、本国に一足先に忠告してくる
どこまで話を聞くのか分からないがな」
姿を消し側近くで控えていた部下の報告に辛そうに顔を歪め、そして毅然とした表情を見せて男は前を見据えた