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魔法少年・ユウ  作者: 里見
動きの季節
3/16

〜side yu〜友達の多い友達

「ユウ、今日は草むしりだって」

と雪が言った。

2人は駐輪場の草を抜くためにスニーカーを履いて外に出た。

5月の午後の日射しは何もかもを白く照らし、女の子たちが「焼けるー」と言ってはしゃいでいた。

ユウと雪は日陰を選んで腰を屈めた。


「部活決めた?」

と雪はが草をつまみながら言った。

「園芸部」

「帰宅部ってことね」

「うん。雪はバスケ部でしょ」

「吹奏楽部か迷ってる」

「なんで」

「トランペットが吹きたいんだよ」

「どうして」

「バスケはバスケで楽しいんだけどね、勝つためじゃなくて上手くなるために何かをしてみたいと思ったんだ」

「ふぅん。コンクールとかあるんじゃないの」

「コンクールって、純粋な勝負とは違う気がするけどどうなんだろう」

「どうかな。僕はバスケの試合もトランペットのコンクールも出たことがないから分からないや」

「そうだね。俺も分からない」


雪はしばらく草を抜きながら試合とコンクールの違いについて考えた。

ユウは別のことを考えていた。

「ねぇ、雪」

草をむしっていた手を止めて、ユウが口を開いた。

「どうした?ユウ」

雪が応えた。

「草が全部燃えちゃったら楽だな」

「草をむしらなくてもいいから?それはいいね。俺たちに魔法が使えたらいいんだけど」

と雪は言った。

「魔法って」

と言って、ユウは続く否定の言葉を呑み込んだ。

それは他人の口から聞くと非常に幼稚な発言だった。

そして、ユウは雪からその言葉をあっさりと聞けたことに少し戸惑った。

それはユウが最も話題にしたい事柄であったが、雪は灯油をまいて草を燃やすという提案をすることも出来たのだ。

むしろそちらの方が雪らしい回答だとユウは思った。

「雪は魔法があると思うの?」

とユウは訊いた。

恥ずかしさで顔が熱くなった。

「思うも何も」と雪は言った。「あるでしょ?実際に」

雪は涼しい顔で草をぷちぷちと千切っていた(その辺りの草は根が太くて上手く抜けなかった)。

「意外とメルヘンなんだな」

とユウは言った。

「そんなことないよ。俺は」

「そうだよな、雪は。現実的で効率的だ。じゃあさ、魔法についてどれだけ知っているの?」

とユウは訊いた。

ユウは自分の草を抜くスピードが上がっていることに気がついていなかった。

「ほとんど知らないよ。魔法を使える人が、ごく少数だけどいるってことだけ。実際に会ったこともないよ。あとは魔法少女がこの街を護ってくれてるってことかな。噂だけど」

「噂?魔法少女?」

「あれ?知らない?有名な話だよ。どの街にも魔法少女が1人いて、その子が魔法を使ってその街を護ってくれてるんだって」

「護るって何から」

「さぁ、なんだろう。悪者?」


雪は、ユウの知る限り空想家ではなかった。

墓やお地蔵さんにいたずらをする子供だった。

妖精や小人の童話を楽しまなかった。

遠い未来の話をほとんどしなかった。

現実的に自分の前にあるものを大事に思うタイプだった。


「からかっているの?」

とユウは言った。

「からかう?まさか。俺がユウをからかうなんてあるわけがないよ」

と雪は言った。

ユウもそう思った。

ほかの誰が自分をからかったとしても、彼はそうしない。

そういう信頼が雪に対してあった。


チャイムが鳴った。

ユウと雪は校舎に入った。

途中、雪が彼の友達に呼び止められたので、ユウは1人で教室に戻った。


雪には友達が多い。

正直で、明るい性格だからだ。

彼は冗談で嘘をついたりしない。

たぶん。


雪がごく自然に魔法という言葉を使ったことと、自分が聞いたことのない魔法少女の噂を、ゆっくりと検証している時間がユウにはなかった。

彼は終業のチャイムを待って、約束の花屋へ急いだ。

急ぐ必要はなかったのだけど、 なんとなく気が急いていた。

早く、出来る限り早く、誠の話が聞きたかった。


雪が変なのか、誠が変なのか、自分が変なのか。

ユウはそれを早く決めなければいけなかった。


花屋の前には誠がいた。

今日は深草色の帽子を被っていなかった。

そのかわり、紺色の学生服を着ていた。

校章は隣の中学区のものだった。


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