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魔法少年・ユウ  作者: 里見
はじまりの季節
15/16

〜side yu〜クリスマスに

「メリークリスマス」

「メリークリスマス」

「この行事も長く続いてるね」

「うん。小学校2年生からだから、6年目だ」

ユウの前にはブルーのシロップがかかったかき氷が、雪の前には黄色のものが置かれていた。

2人は名前通りひなびた茶屋でテーブルに向かい合って座っていた。

東屋という名のその茶屋は、ユウの自宅の隣に50年前から店を構えていた。

「季節感ないよね」

と雪が言った。

「だけど冬のかき氷は好きだよ」

とユウが言った。

「俺も」

と雪が応えた。


外は寒く雪の予報が出ていたけど、空は明るかった。

東屋の中は石油ストーブの香りがした。

ユウと雪以外に客はなく、店主の年を取った女性が椅子に座って小さなテレビを観ていた。


「トランペットは上手くなったの?」

とユウは言った。

「まぁまぁだよ。楽器を吹くというのはとても楽しいね。だけど、部活というのは勝ち負けにこだわりすぎているよね。仕方がないのかもしれないけど。みんなで演奏するのは楽しいけど、大会の話になると途端に興味がなくなるよ」

「雪は優しいから」

「そういうのではないと思う。たぶん、本当にそういうのが理解できないんだよ。なぜかは分からないけど」

「ある人が言っていた。勝負はエンターテイメントだって。そして試合に意味はないって」

「それを楽しめるかどうかということだね」

「あるいは楽しませることが出来るか」

「ユウ、俺はね」

と雪は言った。2人は柄の長いスプーンで氷をすくって口に入れた。「自分の中に穴が空いているのが分かるんだ」

「穴?」

「ドーナツの穴」

「クリームが詰まっていることもある」

「イエス。しかし俺には詰まっていない。正真正銘、穴のあるドーナツだよ」

雪は黄色のシロップを器用に氷と混ぜた。「なにも自分が中身のない人間だと言っているわけじゃない。もちろん寂しい人間だなんてことも言わない」

「分かっているよ。雪は中身のないやつじゃないし、友達も多い」

「でも俺には穴が空いている。つまり、俺は周囲の人間ありきの人間なんだよ。それが俺の中身なんだ。中心がない。だからこだわらない」

「周囲が関係していない人なんていないよ」

「もちろん」

雪はスプーンを動かす手を止めてユウを見た。雪の目は深く黒く、白い部分は初雪のように真っ白だった。

「だけど、そこには中心となる人物がいる。自分だ」

と雪は言った。「俺にはそれがいない。それを気に入っていないわけじゃないいんだよ。俺はこれでも自分が気に入っている」

「もし僕が雪でも自分を気にいるさ」

とユウは言った。

「ありがとう。ただ、ときどきひどく不安になることがあるんだ。俺はどうにでもなれる。だけどそれがどうなるのか、自分でも予想が出来ないところにね」

「これもある人が言っていた。雪は雪見草のようだって。雪見草って知ってる?」

「知らないよ。俺と名前が似ているようだけど」

「茎の中心が空洞になっているらしい。雪のことを知らない人がそう言っていた」

「それはすごいや。占い師かなにか?」

「そういえばそうだった。占い師で、植物に詳しい」

「へぇ。ユウにそんな知り合いがいるとは知らなかった。ユウが明るくなったのはその人のせい?」

「僕は明るくなった?雪の目から見て」

「色眼鏡なしでそう見えるよ」

「それは良い意味で?」

「もちろん。どうして?」

「雪は暗い僕と友達になってくれた人だから。暗さは僕自身だもの」

「ちょっと待って、ユウ。俺はユウが暗いから友達になったんじゃないよ。そんな変わり者に思われていたなんてちょっとショックだよ。俺はね、ユウ。俺とは正反対のユウといることでとても安らかな気持ちになれることに気が付いたんだ。まぁ、それに気が付いたのは1年くらい前で、友達になったばかりのころはそんなこと考えていなかったけどね。なにせ友達になったとき、俺たちは8歳だったんだから」

「僕たちは明暗という意味では確かに反対だよ」

「まだそんなことを言うの?俺たちは明暗で別れているのではないよ。俺の暗い部分はユウが明るくて、ユウの暗い部分は俺が明るいんだ。それで俺たちは自然に友達になったんだ。友達ってそういうものでしょう?」

「雪に友達が多い理由が分かるよ」

「ユウもこれからそうなるんだ。そして俺は中心のクリームを作らなければいけない。俺には分かるよ、ユウは今、良い方向に向かっているんだ」

ユウは雪を見た。

雪は頷いた。

「そうかもしれない」


「お兄ちゃんたち」

ユウの頭の上にしゃがれた声が降りかかった。

テレビを観ていた店主の老婆がいつの間にか立ち上がってテーブルの前に来ていた。

「これ、サービスだよ。餅がたくさんあるものだから、食べておくれ」

テーブルの上にはきな粉をまぶした餅が4つ並べられた。

「いいんですか?」

と雪が言った。

「迷惑でなければね。お兄ちゃんたち、ずいぶん小さいときからこれくらいの時期には2人で来てくれているだろう」

「はい。2学期の終業式のあとはここでかき氷を食べるのが俺たちの行事なんです」

と雪が応えた。

「そうかい。変わるものもあるけど変わらないものもある。お兄ちゃんたちが変わらずにここへ来てくれたお礼だよ。お兄ちゃん、名前は」

「雪です。雪降りの雪」

「良い名前だね。優しくて力強い名前だ」

「ありがとうございます」

「そっちのお兄ちゃんは」

ユウは雪に肩を掴まれて顔を上げた。

「僕ですか?」

「もちろんさ」

ユウは背の低い老婆が自分に話しかけていることをようやく理解した。

「僕は、ユウです。夕方の、ユウ」

老婆は目尻に皺を集めて微笑んだ。

「お兄ちゃんによく似合ってる。夜になる前の暖かい色だ。ユウさんは暖かい眼をしているよ」

ユウはそう言われて俯いた。

自分の顔が熱くなっているのを感じた。


東屋から出ると、外は暗くなっていた。空気は冷たかったけど雪は降っていなかった。

空には星が出ていた。

「雪は降りそうにないね」

と雪は言った。

「ねぇ雪」

とユウは言った。

「どうした?ユウ」

「あの人、初めて僕にはなしかけたんだ。今までは雪にしか話していなかったのに」

「それは違うよ、ユウ」

と雪は言った。「注文を聞くときも、お金を払うときも、あのおばあさんはいつも俺たちを交互に見ていたよ。たぶん6年前からずっと」

ユウはそれを知らなかった。

彼の俯く癖がそうさせていた。

「知らなかった」

「うん」

「ねぇ、雪」

「うん」

「いろいろなことが良い方向に向かっている気がする」

2人は空を仰いだ。

「うん、そうだね」


「俺たちはたぶん変わっていく。ユウと俺は離れる日が来るかもしれない。きっと来るだろうね。俺は今までユウが補ってくれていた部分を自分でどうにかしなくてはいけない」

と雪は言った。

「雪は僕がいなくなっても大丈夫だ」

「何を言っているの、ユウ。離れることといなくなることは違うよ。友達がいなくなったら寂しいに決まっているじゃない。友達は互いが存在しているから友達でしょう?1人じゃ友達になれないよ」

ユウは雪を見た。

雪は両手をコートのポケットに入れた姿勢でユウを見ていた。

「なるほど」

「あたりまえだよ」

「そうだね、簡単なことだった」

ユウは白い息を空に向かって吐いた。「ねぇ雪。年が明けたら、とびきり面白いものを見せてあげるよ」

「へぇ、楽しみだよ。それじゃあこれは前払い。終業式の前に食べようと思ってたけどすっかり忘れていたよ。楽しみにしているよ、とびっきり面白いもの」

そう言って雪はポケットからチョコレートを取り出してユウの手に渡した。

「まぁ、期待してなよ」

「よいお年を、ユウ」

「よいお年を、雪」

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