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魔法少年・ユウ  作者: 里見
はじまりの季節
14/16

〜side yu〜誠の話3

「もちろんその魔法少年というのは俺だよ」

と誠は言った。

ユウは黙って頷いた。

「俺は自分を半分礼に渡していて、礼は俺に半分を預けていた。そうすることで、俺たちは充分な人格になることができた。生きることは決して楽しくないけど(きっと誰だってそうだろう?)、礼の半分をもらうことで、俺は正しい丸になれたんだ」

「丸」

とユウは言った。

「うん。どうしてかは分からないけれど、そう感じた。それで少し生きやすくなった、と」

「なんとなく分かるよ。月は影の部分も含めて月だから」

「そうかもしれない」

誠は丸いビスケットをしばらく見つめてから大きく齧った。

「礼は死んだ。12・31決闘会で俺と闘って、その日の傷が原因で次の日に死んだ。彼女は海に棄てられた」

「どうして誠は闘ったの?」

とユウは訊いた。

「魔法少年だからだよ。俺に魔法を教えてくれた人のことを俺は好きだったし、裏切りたくなかった。それに、もし決闘放棄したら魔法も取り上げられてしまうかもしれないしね。研究部のマウスにされてしまうかもしれない。いろいろな可能性がある」

「そうなの?」

「あくまでも俺の思い付く可能性だ。だけど思い付くということは、あるかもしれないということだ。それになにより、決闘に勝った魔法少年は研究部に入れてもらえるかもしれない、と言われた。君には話していなかったけど、研究部というのは、本当にたくさんの情報と知識を持っている。俺は魔法を手放したくなかったし、もっと効果的に使いたかった。もっと可能性を知りたかった。結局決闘には負けたけどね」

誠の話が途切れて、ユウは言葉を探したけど何も見つからなかった。

「だけど」とユウは続けた。「決闘で死ぬことはそれほど多くないらしいよ。殺人が目的ではないんだ。さっきも言ったけど、エンターテイメントの要素が大きいのだから」

「うん」

とユウは言った。

「ここからは個人的なことなんだけど、少ししゃべってもいいかな」

と誠は言った。

「しゃべる権利はだれにもあるよ」

「そうだね」と言って誠は広角を上げた。「俺は礼が死んだら、礼が持っていた俺の半分が戻ってくると思っていた」

「うん」

「だけど実際には彼女が死んでも、それは戻ってこなかった。俺はずっと半分だった。それはとても辛いことだった。すごくイライラして、ちょっとしたことに哀しくなって、何をしても落ち着かなかった。気持ちのよくない夢もたくさん見るようになった。夢がまるでいなくなった礼を補完しているようでもあったけど、とても及ばなかった。花は少し俺を落ち着かせてくれた。だけど相変わらず俺は半分だった」

誠は左手に薔薇を一本出した。

「こういうものも作れるようになった。冬でも薔薇を咲かせられる」

「ねぇ誠」とユウは言った。「僕は誠の半分になれてる?僕と兄弟になったのは、礼さんの代わりなんでしょう?」

「そうじゃない」

誠は首を横に振った。

「正直に答えてよね、誠。薔薇の香りは誠を正直にさせるんでしょう?」

「そんなことを言ったのはたぶん俺かな」

と誠は笑った。「そうだね。正直に言って、兄弟になりたいと思ったのは君の半分をもらうためだった。そういう意味では礼の代わりということになるね。だけど、君が礼の代わりと言ってしまうのはどうも不自然な気がするよ。君は礼ではないし、それに君は僕に君の半分を差し出していないだろう?」

ユウは頷いた。

「俺がユウと兄弟になったのは、俺の弱さと、君への信頼のためだ」

「誠は僕の暗さを受け入れてくれた」とユウは言った。僕にとって僕の暗さとは、僕の全てでもあり、僕の外にあるものでもある。だから僕は誠がいなくなっても半分になったりはしないと思う」

「俺はきっと君がいなくなったらまた半分になるだろうな」

「だけど僕も、誠がいなくなったら完全な円ではなくなる気がする。僕は誠が兄弟になってくれたときに、自分が完成されたような気がしたんだよ。ちょうど壁の一部に誠がなってくれたんだ。それで少しづつだけど、いろんなことが良い方向に向かっているような気がする」

「ベルリンにある壁だっけ?」

「そんな風にいったのは僕だっけ?」

誠とユウは静かに笑った。

「君は死なないと思うよ、ユウ。勝てるかどうかは分からないけれど」

ユウはそれについて考えた。

「出来れば死にたくないと思う、たぶん。それに相手も殺したくない。それはささいなことかもしれないけど、大きなことのようにも思える。蟻を踏むのと世界を壊すのと、それが同時に行われているみたいだ」

「そうなのかもしれない。俺と礼は世界のことは考えていなかった。それが俺たちの約束だったんだ」

「うん」

ユウは頷いた。「僕ね、この話をするまで、僕を除く世界がすっかり変わってしまったのではないか、って思っていたんだ。誠に出会ったときくらいから」

「どんな風に?」

「僕の知っていた世界では魔法がなかったし、人の命ももっと大切にされていた気がした。だけど、僕が知らなかっただけで、たぶん世界はもともとこんな感じだったんだ」

「それについては俺には判断出来ないけれど、命だけではなく、世界だって重いようで実は軽い。変わったって、亡くなったって、本当は誰も困らないんだ」

「うん。それでも護ろうとするんだね」

「魔法少年だからね」

ユウは小さく笑った。

「個人的な世界を」

「充分」

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