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魔法少年・ユウ  作者: 里見
はじまりの季節
12/16

〜side yu〜誠の話

12月に入った。

外の空気は冷たくなり、家々からはストーブの香りがした。

人々は11月よりも早足になった。


ユウは誠を兄と思うことで、自分が完成したように感じていた。

誠は外の世界とユウとをつなぐ梯子的役割よりも、ユウの内部を補う人になった。

それが兄弟という意味なのだと、ユウは理解した。

誠はユウにとって、14日目の月の、暗い部分だった。


「誠、いよいよ今月だね」

とユウは言った。

彼の右手からは大量の氷の粒が、倉庫の壁に向かって飛んでいた。

在子と道が実戦魔法を練習する倉庫群から、東へ1キロほどのところにある倉庫の中だった。

その倉庫の壁には「伍番」と黒のペンキで書いてあった。

「かなり命中するようになったね」

誠は枯木を集めて焚火をしていた(もちろん炎は誠の人差し指から出したものだ)。

「ねぇ誠」

とユウは言った。「去年の暮れは誠が闘ったの?」

「そうだよ。去年は俺が魔法少年だったからね」

「勝ったの?」

誠は首を振った。

「負けたよ」

「負けたらどうなるの?」

誠はプラスチックフォークに刺したマシュマロを焼いていた。

倉庫の中には甘い香りが充満した。

「街の魔力を女子組に独占されてしまうんだ。言ってなかったっけ?」

「よく言うよ。その話になるとはぐらかしていたじゃないか」

「あはは、そんなつもりはなかったんだけどね。だけど避けたい話題なのは確かかな」

「別にどうしても知りたいわけではないけどね」

「ウソツキ」

と誠は言った。

「そっちこそ」

とユウは言った。

「まぁ、長い話になるからゆっくりと話そう。食べなよ」

誠は焼いたマシュマロをビスケットに挟んでユウに渡した。

ユウはリュックサックの中からペットボトルのコーラを取り出して、誠の正面に座った。

ユウと誠の間では燃える枝がパチパチと音を立てていた。

「ユウはいつから魔法が使えるようになった?」

と誠は切り出した。

「誠と出会ってからだよ」

とユウは応えた。

「そうだね。それではそれ以前は君は魔力を持っていなかったのか?」

誠は頷いた。「答えはイエスだ。なぜか。魔力というのは生まれながらの魔法使いしかもっていないのか」

誠は首を振った。「ノー。魔力は、誰もが持っている。しかし、非魔法使いは魔力を所持し続けることが出来ない。なぜなら、魔法使いが全部吸い取ってしまうからだ。そして、その権利を巡って、男子組と女子組が争っている。男子組は1人の少年を代表に、女子組は1人の少女を代表に選んで、次の1年の魔力を吸い取る権利(魔力権という。そのままだね)を決めるんだ」

「魔力はどうやって吸い取るの?」

とユウは訊いた。

「おぞましい機械で。と言っても、俺は実物を見たことがない。吸い取った魔力は研究部の人たちが独占しているから。そもそも、非魔法使いの魔力を奪うのは、研究部の魔法研究のためでしかない。なぜなら一般的な魔法使いにとって、魔力は生活を便利にするためのものだから。それだけに使うのなら、自分の魔力だけで充分すぎるんだよ」

「ふんふん」

とユウは頷いた。

「あたりまえだけど、俺は一般的な魔法使いだ。研究員にはそう簡単にはなれない。それではなぜ一般的な魔法使いである俺が君を勝たせるためにこうして魔法を教えるのか。もちろん君に勝ってもらわないと困るわけだけど、それは俺が非魔法使いの魔力を欲しているからではない。まぁ、単純にそう決められているからだよ。魔法少年の任期を終えたら、次の魔法少年を育てなくてはいけない。体育会系の部活みたいなものさ。円滑に魔法社会に溶け込むにはルールは守らなくてはいけないのさ。研究員を怒らせて魔法が使えなくなっても困るしね」

「そういうことが出来るの?というか、魔法使いはどうして魔力を吸い取られないの?僕はどうして誠と出会ってから魔力を盗られなくなったの?」

誠はビスケットをポリポリと齧った。

「うん。魔法使いは防護壁を魔法で張ることが出来るんだよ。簡単な鎧みたいなものだね。魔法の初歩の初歩だから、ユウも少し練習すれば出来るようになるよ。魔力を盗られないようにするだけだから薄いものでいい。ちなみに今は俺がユウの防護壁を作っている」

「知らなかった」

「目に見えるものではないし、魔力が吸い取られたとしても魔法が使えなくなるだけで、身体に異変は起こらないからね。本当ならこれを初めに教えるのだけど、君には時間がたりなかったものだから」

「どうして?」

「魔法少年探しを俺がサボっていたからだよ」

誠は笑った。炎でぼんやりとして、細かい表情がユウには分からなかった。

「僕が魔法少年になったのは偶然?というか、魔法使い同士が決闘をしたらいいのではないの?僕はもともと非魔法使いなのに」

ユウは自分でマシュマロを焼いて口に入れた。

「ユウに声をかけたのは偶然だよ。見た雰囲気であるていど気に入ったから声をかけたのはあるけど。だって気の合わない人と付き合うのは俺も面倒だからね。非魔法使いから12・31決闘会の決闘者を決めるのは決まりなんだ。この行事自体、一種のエンターテイメントだからね。つまり、魔法を全く使えなかった少年少女が1年で学んだものを駆使して闘うのが面白いのだろう。研究部が魔力を欲しがっているのは本当だけど、血眼になるほどでもない。男子部と女子部の仲だって言うほど悪いものではないらしい」

「僕らは闘牛みたいなものということ?」

「そうだね」

「だって、命に危険があるよ。そういう練習をしてきたように思う。街の人のためになると誠が言ったから、僕はこういう練習をしてきたんだ」

「そうだね。それは嘘ではないよ。ユウも知っているはずだ。魔法がどれだけ便利かということを。そして使い方次第でひどい武器になるということも。これは男子部と女子部の代理戦争でもある。この言い方は今となっては少し大袈裟だけど(さきほども言ったように、男子部と女子部の関係は悪すぎるというわけではない)、近い昔には、本当に魔法使いが、研究部を中心として男女戦争を起こしそうになった。大掛かりな魔法を使える研究部員たちが闘ったら、非常にまずいことになる。それで打開案として、決闘会が提案されたんだ。非魔法使いを使うことにしたのは、高度な魔法が使えないことや、貴重な魔法使い(主に研究員だ)から死者をださないためだよ」

「なんだよそれ。僕たちの命がまるで軽いみたいじゃないか」

「少なくとも研究員に比べたらね」

「そもそもどうして男と女が戦争をするほど仲が悪いんだよ」

「元々はジェンダーの問題だったらしいけどね」

「何それ。そんなことのために僕は闘うのかよ」

「そうだよ。くだらないかもしれないけど、これはエンターテイメントなんだよ、ユウ。スポーツと一緒さ。バスケットの試合に意味があるかい?サッカーの試合で人が死なない保障があるかい?」

ユウは立ち上がった。

「誠は僕がそんなくだらないことのために死んでもいいの?」

ユウは声を荒げた。

「もちろん嫌だよ。くだらないことでもそうでなくても関係なくね。だから決闘会では死なないように注意深く闘って欲しいし、道路を歩くときは自動車に気をつけて欲しいし、仮に対外戦争が起こったとしたら慎重に鉄砲を握って欲しいよ」

「なんだかよく分からなくなってきたよ」

ユウは地面に座り直した。「それで、過去に亡くなった人はいたの?前回は誠が負けて、でも生きてるみたいだけど」

「うん。俺は生きてたね。死んだのは俺が闘った相手」

誠はビスケットを半分に割って、片方を火の中に放った。

「俺の、妹だった」

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