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魔法少年・ユウ  作者: 里見
変わる季節
11/16

〜side ariko〜無力ではない。だけど

夏休みに行われた学力テストで、在子と流の席が離れた。

2人の席が隣ではなくなり、2人の会話はなくなった。


在子の座る席からは流の後ろ姿が見えた。

彼女は講義の始まる時間を待ちながら、その姿を見ていた。

流は右隣の女子生徒と話をしていた。

女子生徒が笑い、流も笑った。


在子は手首のあたりの血液が波打つのを感じた。

喉の奥が熱く、両目が鈍く痛んだ。

在子の前の席の生徒が、在子に向かって何か話をしていた。

しかし在子にはほとんど聞こえていなかった。

「ねぇ、聞いてる?在子」

と前の席の女子生徒が言った。

在子は応えなかった。

「変なの」

と女子生徒は言った。

「変なのは私じゃない」

と在子は応えた。


もし流と話す女子生徒がいなくなれば、自分の苛立ちが軽減されることを在子は知っていた(もちろんそれで完全ではないことも知っている)。

魔法で彼女を消すことが出来たらいいのだけど、それが簡単ではないことも知っていた。

「というか無理」

と在子は呟いた。

「なに?」

と前の席の生徒が言った。

「髪に虫が止まってた。飛んでいったけれど」

「うそ、やだ」

「たぶん蚊よ。まだ残っていたのね」

「嫌になる」

結局、在子が魔法で出来ることといえば、彼女を巨大な炎で焼き殺すか、水で窒息させるか、そのどちらかを剣のように鋭くして刺し殺すかだった。

それではバッドで殴って殺すのと同じだった。

そしてそれをするには、在子には一般的な道徳教育が施されすぎていた。

消すことと殺すことでは、なにもかもが違う。


在子は講義が全て終わると、流のところへ向かった。

流はバッグに教材を詰めていた。

在子は流の名前を呼んだ。

「おう、在子」

と流は言った。「前髪切った?」

「うん。邪魔だったものだから」

在子は前髪を押さえつけるように触った。

「いいじゃん、そっちのが似合ってるよ」

「そう?それより流、CD聴いたわよ」

「本当かよ。どうだった?」

流の顔が明るくなった。

「正直に言ってよく分からなかったけど2番目の曲は良かったわね」

「あぁ、あれは挑戦してる感じの曲だったよな。分かってんじゃん、在子」

流は嬉しそうに言った。

在子の身体には、失神しそうなほど大量の喜びが走った。


「ねぇ道」

「なぁに、在子姫」

「物を消せる魔法なんてないのかしら」

「なんだいそれ。あるわけないじゃんか。ほらほら、だってそんなものがあったら12・31決闘会の伝統がまるで意味のないものになっちゃうじゃん」

「それもそうね」

「そうだよ。その辺、在子は魔法が何かってことを理解してると思ってたんだけどな」

道は不満そうに言った。

「してるわよ。だからあなたに聞いたのよ」

「消したいものがあるんだね?」

「まぁね。それから欲しいものもあるわ。だけど魔法があったってどうにも出来ない」

「科学と一緒だよ。魔法で何でも出来るわけじゃない」

「そうね。その通りだわ」

「だけど手放せない。そうだろ?」

「そうよ。それもその通りだわ。それも科学と一緒ね。だから命をかけるのだもの」

「在子を魔法少女に選んでよかったよ。(れい)は死んでしまったけど、在子は生きれるよ。道の勘。2年連続で、この街の魔力は女子組がいただくのだ」

「あ、道、みて。これなら人が刺せそうよ」

在子の両手からは棒状の炎が天井に向かって伸び、先は細く尖っていた。

「うん、まぁまぁ良いね。だけど在子は形を創作するのが苦手見たいだ。その分威力のある魔法が得意だけどね」

「美術は苦手だもの。でもこれが作れるようになったのは大きいわ。私、剣道の心得が少しあるもの」

在子は誇らしげに言った。

「剣道を習っていたのにこんなに時間がかかったの?本当に不器用なんだな」

と言って道は笑った。

「なによ。ほら道、これを使って実戦の練習がしたいわ。道も早くそれらしいものを出しなさいよ」

「そんじゃぁまぁ、ハンデ」

そう言って道は氷の剣を右手に出した。形は竹刀そのものだった。

「なによ。そんな氷、すぐに溶けてしまうわよ。それに竹刀じゃ切れないじゃない」

「その在子さんの剣だって切れないと思いますよ」

と道は笑った。「氷はハンデっす。ささ、剣道をしよう。道も少しやったことがあるんだ」


2人が黙ると、カラスの鳴き声が倉庫の外から聞こえた。

「秋、か」

と道は小さく呟いた。

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