12星座別恋愛小説 ~ふたご座~
これはあくまで私の主観で書いたふたご座像ですので
この小説を読んで気を悪くしたふたご座の方がおられましたらご容赦下さい。
♊5月21日~6月21日生まれ Gemini♊
*器用
*八方美人
*二面性を併せ持つ
*臨機応変
*好奇心旺盛
陽が徐々に傾き太陽が空の中心から垂直に西へズレた時
今日一日の授業終了を告げる鐘が学校中に響き渡る。
「では今日はここまで、みんなちゃんと予習と復習しとくのよ。」
二宮百合子は生徒に人気のある教師を演じていた。
彼女は私立高校の英語教師兼3年のクラス担任をしており
教え方はもちろんであるが彼女の人柄が人気を博する大きな要因となっている。
百合子のことを聖女だなんて大袈裟に呼んでいる生徒も密かにいるほどである。
「ねぇ百合子せんせぇー、今度の練習方法改革なんだけどさぁ。」
授業が終わるやいなや教壇にいる百合子の前に駆け寄ってきた少女、
橋井は百合子が顧問をしている合唱部の部長であり
現在夏のコンクールに向けて猛特訓の真っ最中の状況だ。
「そうね、まず有力なものから順々に試してみるのはどう?」
「そだね、よっしゃー!!頑張っちゃうぞ!」
「気合が入っているわね、橋井さん。さすが部長。」
橋井はクラスの生徒の中でも特に接する機会が多く、また単純熱血な性格のため
彼女のことを一番よく理解しているといっても過言ではない。
百合子はそんな彼女が羨ましく思うことが多々あった、純粋に真っ直ぐな橋井の
生き方が、信念が、情が。そのどれ一つとっても百合子にないものであった。
優秀で人の好い女教師というのは世間体は良いものの
百合子を満足させるには些か役不足であり教師になって2年、
若い多数の人間と生活を共にしていれば刺激のある毎日になると思い
教師になったが百合子にはただ退屈で安穏と消費していく日々にやや飽き気味になってきていた。
そもそも百合子は心から楽しさ、悲しみ、怒り、喜びを感じたことがなかった。
外面では表現力豊かな魅力ある女性を演じるが
実際のところそれは周りに合わせているだけのまやかしに過ぎなかった。
「じゃあ、百合子先生。また後でねー。」
ぶんぶんと大きく手を振る橋井と別れもうほとんどの生徒が帰宅したか
あるいは部活に行ってしまったため残っている者がほとんどいない教室棟を
巡回するようにゆっくりとした歩調で進む、とある教室に人影を見かけた。
ドアのガラス越しに見ると机に突っ伏しておりどうやら寝ているらしい、
百合子が起こそうと思い教室に入るとそれは見知った人物であった。
古賀秀平、百合子が受け持つ英語のクラスの生徒であり
橋井の思い人でもある少年であった。実のところ百合子は秀平が苦手である。
優等生で誰からも評判が良い彼だが彼には別の本音がある、そう百合子は踏んでいる。
同じ種類の人間だから分かるのだ、しかし彼の腹のうちは全く読めない。
彼の目がまるで百合子の本心を見透かされているような錯覚に陥るため、
なるべく秀平とは目を合わせないように自分でも知らないうちにそうしていた。
それでもここで彼を起こさずそのまま立ち去るのも教師としての品格を疑われてしまうので
百合子は仕方なく秀平の肩に手を置いて軽く揺さぶった、すると
何やら呻きながらむっくりと顔を上げた秀平の目に百合子が映った瞬間
すでにその行為はなされていた。百合子の唇が秀平の唇に重なっていた。
「あは。二宮先生教え子とまさかのキス、しちゃったねぇ。」
「・・・どういうつもりなのかしら。」
「大丈夫。誰にも見られてないし、証拠になるようなものも撮ってないし。」
無理やりキスをされ困惑している百合子に飄々と喋る秀平はほくそ笑んでいる。
「俺知ってるよ。先生俺のコト苦手なんでしょ、だから授業でも
あんまり当てないんだよね。それに本当は二宮先生は人格者でも淑女でもない。
先生は俺と似ていると思うんだよねー、違う?」
「優等生の古賀秀平君、その仮面をかぶり続けるつもりはないのかしら。」
「あっ、やっと本性表してくれたね。これでやっと本題に入れる。」
「本題?」
「俺と付き合って。」
直球な告白に百合子はさらに困惑し口を閉ざしたままでいると秀平は更に言葉を続ける。
「ほら似た者同士って惹かれあうっていうじゃん。先生だって退屈してるんでしょ、
こんな刺激なこと滅多にないと思わない?教え子との交際なんて。」
百合子は逡巡するが刺激的な未来と平穏な日々を天秤にかけより重みのある方を選択した。
「いいわ、面白そうね。」
梅雨の季節に突入した頃、秀平との交際を始めて1ヶ月が過ぎようとしていた。
彼と共にいる時間は僅かではあるがそれは濃密で百合子にとっては快感であった。
「百合ってねキリスト教では聖人や聖母を象徴するものなの。それに花言葉は『純潔』。」
「聖職者の名前には相応しいけど、君には不似合だね。」
「全くだわ。」
そして百合子は気付いてしまった、彼を本気で愛してしまったことを。
他愛もない会話をしていると彼の前では自然と笑えている自分に気が付いた、
秀平といると今までの自分は随分と猫をかぶっていたことを知らされる。
けれど彼はきっと百合子のことを本当には愛してないだろう。ただ秀平にとって百合子の存在は
摩耗していくだけの青春にちょっとしたエッセンスを入れたに過ぎない、そう百合子は考えていた。
だから自分から別れを告げよう、これ以上傷つくのを恐れていた時にそれは訪れてしまった。
いつもの朝を迎えたと思っていた、が学校へ真っ直ぐつながる道を歩いていると
校門の前に大勢のマスコミがざわざわと群がっていた。
「おっ来たぞ!!」
一人の記者がこちらを振り向き百合子を指差して叫んだ、するとあっという間に
百合子の周りにはマスコミの人だかりが出来た。
「二宮百合子さんですね。」
「一体何ですか。」
「生徒と恋愛するとはどんなお気持ちですか。」
「あなたから生徒の少年を誘ったんですか。」
矢継ぎ早に質問を浴びせられ事態を把握した、どこからか百合子と秀平のことが
漏れたらしい。あれ程警戒を怠ってなかったというのに。
と、そこで頭の中に一つの考えが浮かんだ。もしかしたら秀平がさらなる刺激を求めて
マスコミに売ったのだろうか、もしそうであったなら
自らを貶めるようなことをするのか百合子には甚だ疑問であった。
けれど秀平なら有り得る、彼と過ごした1ヶ月間で苦々しくもその可能性は大と言える。
最悪の事態に陥り思考を停止させようとする脳に逆らって
群衆を分け入り何とかして校門をくぐり抜け校舎に入ったところで校長室に連行された。
「生徒に混乱を招きますのでとりあえず今日は帰ってください。
二宮先生の処分はおって連絡します。」
それだけ告げられ百合子はとぼとぼと校長室を後にする。
「百合子先生。」
「・・・橋井さん。」
声の方向に顔を向けると橋井が目に涙を溜めてこちらを見ている。
「知ってたよね、私が古賀君のこと好きなの。それ知ってて奪ったの?
しかも教師と生徒なんてっ―――」
握りしめた拳がぶるぶると震えている、目の前にいる淫乱教師を殴りたい気持ちを
抑え精一杯自分を律しているのだろう。
「先生・・・・・、あんたは最低の教師よ!!」
そう捨て台詞を吐き橋井は走り去ってしまった。
こんな時でさえ他人に思いをぶつけられる彼女が羨ましいと思っていた。
何も考えられなかったが校舎を出て人目につかないように歩いていると
グイッと誰かに腕を掴まれ物陰に引っ張られた、それは秀平だった。
「あなたがマスコミに教えたの?」
彼に会うやいなや百合子は怒りを隠しきれず低い声音で問い詰めた。
「まさか、僕はそんなことしてない。僕も驚いている。」
「本当に?」
「本当だよ、信じて。」
彼の目を真っ直ぐ見た、この時が初めて秀平の目を見たかもしれない。
その目は曇り一つない澄んだ瞳をしている、嘘をついているようにはみえなかった。
この時初めて彼の正直な気持ちが読めた気がした、だから百合子も本当の自分を
見つけてくれた秀平にちゃんとしようと思った。
笑われてもいい、罵られてもいい素直な自分の気持ちを晒しだそう。
「わたし、貴方のことすきなの。」
一回りも年が違う少年を前にして初々しい少女のような自分がとても恥ずかしく思え俯いてしまった。
「良かった、この件で君は僕から離れていってしまう気がして怖かったんだ。
けどこれで安心した、まさかこんな展開になるなんて僕たち思いもよらなかったね。」
彼の返答はきっと百合子の世界を変えるだろう、いや変えていくだろうものだった。
「それは貴方の本当の気持ち?」
不安な気持ちで秀平を見つめる、彼を愛しているからこその心配だ。
「本当だよ。すきだ。」
それはまだ見たことのない表情で彼は照れ臭そうに笑ってみせた。