こだわる男
※内容は銃に伴う記載で、ハンドガンに関する用語があります。出来るだけ説明文を添えましたので、なんとか理解していただけると思いますが、苦手な方はご遠慮ください。(尚、後書きに注意事項あり)
まあ、世の中頭のおかしな野郎から、何考えてんだか分からん奴等が少なからずいるもんだ。生憎どこの国行ったってそりゃ変わらねえ。肩が触れただけで半殺しにする奴もいりゃ、明らかにてめぇが悪いのに逆ギレする馬鹿。酔っ払ってなんとなくムカついたってだけでドたま(頭)目がけてアーミーナイフ突き立てるアホもいる。
俺は今、ゆらゆら寄られている。
澄んだ青空に、日照りも良好。アスファルトに照り返す日差しが眩しすぎて気持ちが悪い。
こんな日に黒のイタリア製スーツに身を包んだ俺の飼い主ロバートもそんな“イカレ”た人間の一人だ。
そんな俺は猫だよ。オスの八歳でメアリーなんてメスの名前なんか付けられちゃってよ。外でりゃポーカーフェイスの俺だから、可愛いレディニャンコには“ポーター”って名で通してるが、バレたら一生笑いモンだぜ。
そんな俺がなんで揺られてるかって言うと飼い主は自殺したいんだと。そんで俺まで引きつれて、ガンショップに行くってな話しな訳なんだな。
銃で死にたいらしく、しかもスーツや家具同様に、それにはこだわりがあるらしんだが、俺の知ったこっちゃねえんだよ。
まったくよ。俺を連れていく理由が分からねえし、こいつが突如死にたくなったってのだって理解不能と言うか理解しがたいんだよ。
まあ、どうでもいい話しだし、何にしても猫の俺じゃこの飼い主を止める事もできねぇし、どうするのか見届けるとするさ。第三者的にね……
*
ゆらゆら揺られていた動作がピタリと止むと、目の前には目的のガンショップがあった。ロバートはそこに吸い込まれるように躊躇いもなく入る。
『C・Shop』
こんな看板が赤に黄色い枠取りされデカデカと掲げている店。
店内に入ると少し薄暗い気もするが、眩しい外界から入ったときの錯覚にすぎない。
入り口から入ると、両サイドに大型の銃が所狭しとディスプレイされているが、防犯がきちんとされているのが一目で分かるほどの厳重さだ。
入り口の真正面にあたる奥にはカウンターが見える。しかも手元の窓口が開けられているだけの金編み張り。
それでも正面に立てば、そのどぎつい迄の店主の顔がお目見えする。
「いらっしゃい」
あぶらっけのあるゴツゴツした顔にオールバック。顔中に行き渡るかのような不精髭にモッサリの胸毛を白い下着からはみ出している。シャツの袖をまくってでる腕からも毛がモサモサ。
そんな奴がロバートの前にのっしりと現われ、その黒スーツのナリに細面の顔、定期的に散髪を伺わせるような整った黒髪。そんなロバートを下から舐め回すようにジロジロと見る。
店主はロバートを見定めるなり、鼻で笑った。
そんなことにも動じず、金網越しから手前に出っ張ているカウンターにメアリーの入ったカゴをゴトリと置いて言い放つ。
「銃を見たい。ハンドガンだ」
店主はメアリーを一瞬ジロリと見る。
そんな薄気味の悪さに悪寒が首から尻尾の先へかけてゾクゾクとメアリー襲う。
「まあ、うちはどんな客だって歓迎するぜ。へっへっへっ」
そんな事を言った後、店主はまずご自慢の店の話をし始めた。
「うちは看板に掲げるC・ショップ。つまりクレイジーなものを扱ってるぜ。本当は名前の頭文字だけど」
すると手元に置いていたウィスキーボトルに油性で“エンジンオイル”と書かれたのを手に取り一気に飲み干し、ゲップ一発かました。
ゲフッ!
「ふぁ〜きっくぅぅ!」
ロバートは表情一つ変えずにそれを眺め、喋りだすのを待っていたのである。
すると、店主は弛んだ唇を手の平で拭いながら喋りだす。
「あぁ銃はもちろんだがボンテージやレザー製品、金具、電動具やゴム製、シリコン製品などなど。純正製品からハンドメイド、パフォーマンスも受け付けるぜ、へっへっへっ」
しかし、ロバートは最初に言った通り目的は一つ。それをあっさりと言いきる。
「ハンドガンを」
拍子抜けするような客とは思いつつも、店主はめぼしいハンドガンをまさぐり出した。
「ハンドガンなら1818頃のレアのフロントロック式から最新のショットショーでお目見えした、生まれたてのハンドガンまで何でもござれだ」
そう言って順々にもったいぶるようにハンドガンを出しはじめた。
「まずはS&Wの37か39はどうだ? この辺は警察はもちろんだが、格安で一般人にも多く出回ってる。初歩的なハンドガンだが」
カウンターに置かれた銃を手に取ることもなくあっさりと言い返す。
「次」
言い返す言葉も出ないゴツイ店主。
しかし、客の要望である以上次に行くしかない。
「じゃ、珍しいのでいくとドイツHK、P7。小型だが、スクイズコック式で扱いは難しい。おかげで安定性はなくブレるし、引き金引いただけでは弾はでねえ。その分、暴発を防ぐだけじゃなくコイツを人に奪われた場合なんぞ余程熟知した奴じゃないかぎり返り討ちにあって射たれる事も減る。そんな一品よ」
ロバートはしばらく眺めていたが、やはり手に取る事もなく、
「次」
さすがに半ギレになり店主が半ゴリラになりかけてきた。
「あんたよ。何か目当てのハンドガンあるなら言ってみろよ! その方があんたのローテンションにいちいち胸くそ悪くしねえで楽なんだよ」
店主が怒るのも当然だろう。愛想良く説明付きで薦めているにも関わらず、ロバートは冷たくあしらう素振り。しかし、そんな事を見透かしたように店主に語り掛けた。
「ご主人は素晴らしいガンマニアだ。たとえ私が目星をつけて来ているにせよ、ご主人のお薦め品と説明を聞きかずにはいれない。こだわりを感じますから」
こだわり、こだわり、こだわり、こだわり……
店主の頭に響く“こだわり”は心地よかったにちがいない。態度を一変した。
「へっへっ、お客さんもお見受けしたところ、素晴らしいこだわり屋さんでげすね! 通りで趣味のいいスーツと猫ちゃんだこと」
いくら機嫌がよくなったとは言え態度を180度となると多少の薄気味悪さも感じる気がするが、ロバートは淡々と話す。
「このスーツはアメリカに来てまだ日の浅いイタリア人の若者が仕立てた代物ですが、生地が良く、しかも丈夫で長持ちするのでお得意様になってますよ」
こだわる男二人の世界になっていた。
気分を良くした店主は、ロバートの言うように店主お薦め品を次々と出しはじめ、店主のショータイムとなっていく。
「気分爽快なったところで早速。登場しますはUSSRのTT33。大戦後も愛される名銃トカレフ。弾はライフル銃のようなボトルネック(酒壺型)だから貫通しやすい。だからストッピングパワーがない分、殺傷能力は低い。護身用として人を無闇に殺したくなけば適任だが、安全装置がないから気を付けなきゃならねぇ」
(ストッピングパワーは簡単に言うと貫通するよりも標的内に停止する方が威力を増す。究極のホローポイントと言う弾。標的に命中すると弾先が潰れ、きのこ状に広がって標的内残る。一時、問題になりました)
すると薄ら笑みを浮かべて最後に言い放つ。
「クレイジーだぜ、クレイジー」
(暴発しやすいイメージがあるが、それは某国のコピーが原因)
やはり手に取る事無く次へと促した。
店主はロバートに見合ったハンドガンを見立てて次々と出す。
「オーストラリアの26。グロックは?」
「次」
「じゃ、護身に最適のドイツP228かP239!?」
「次」
「むむっ。ならばあんたの好きなイタリーのM93Rのセミと3点バースト切り替え付きの機関ハンドガン。市販はされてねぇ代物だが違法じゃねぇ。需要があれば供給されるんだよ。こいつのカスタムは某ロボット警察(おそらく実在しないと思うが、あってもおかしくはないだろう)が、ぶっ放していたことから有名になったクレイジーな一品だ」
ほとんどバナナの叩き売り状態。しかし、ロバートは興味を引かない。
店主は悩んだ。顎に手をあて、ロバートを眺める。
「うっ!」
店主は気付いた。その身なりに合う銃を差し出してみようと。
「よし! ガンマニア必見。ピースメーカーの愛称で親しまれるM1873。軍にも長きに渡り愛用されたコルトSAAだよ。シビリ、アーティにキャバ、バントラのバレルは色とりどりの選び放題。シングルだから安定したリボルバーは使うも飾るもよしの一品だ!」
するとロバートはここにきて初めてハンドガンを手に取った。
ハンマーを引いて渡されると、それを手に取るりロバートは引かれたハンマーを静かに戻す。
店主はその行動にドキドキ。初めて赤ちゃんがおもちゃに興味をもちはじめ、一体どうするのだろう! に、ちょっとだけ似た心情。
すると、ロバートはシリンダーを左手で押し出しクルリと回した。
ジーーーー!
独特の回転音がなる。
すると、そのまま銃身を自分に向けるように反転させ、銃口側から全体を眺め、しばらく覗いた後、クルリと元に戻すとシリンダーをはめる。銃にとって左面は顔。そこを静かに眺めると、銃を構えてみた。
それを手に馴染ませていると、いきなり銃身を手前に回し指で弾き反転させると、勢いそのままに横に向け外側から内に捻るように回すと、銃身が下に向き、グリップの下部が相手に向くように手に納めた。
店主は目を見開いてかたまってしまった。
ハンドガンの扱いが以上に慣れていたからだ。
店主の顔が溶けるロウのようにトロトロと変形していく。そして完全にスケベ笑いに変わっていた。
「あんた気に入ったぜ!
クレイジーだぜクレイジー。がっはっは。人は見かけじゃね〜な」
ロバートは高笑いする店主の前にゴトリと銃を横向きに差し出した。
「いいハンドガンだがこいつじゃない」
店主はニヤニヤしながら考える。
「同コルトの1911も軍人に愛され、今も愛好者がいるが……あんたは惚れないだろうな」
銃の扱いができるとなると幅は広がる。しばらく考えて店主は逆に一点にしぼった。
というかここまでくると、“俺は何が欲しいか当てましょうクイズ”になってきている。もちろん店主はドキドキする客にハイテンションだった。
「あんたハンドガンをなんの目的に使うかしらねぇが、ここから見せるのは本来ハンティングに使うハンドガンだぜ」
ロバートはそれでもクールに答える。
「楽しみです」
「じゃ、初のマグナム使用のAMオートマグ。但し、オートジャムと批判されるほどよくジャムる(単純に言えば排莢がつまる事)から、お飾りがいいがな」
さすがにいらないとばかりの顔をみせるロバート。
「なら、ブラックホーク……んー。よし! 50AE、IMIのデザートイーグル。こいつは我が国アメリカのリサーチ開発のイスラエル生産で、.357の頃は不評。しかし、.44で安定をもたらし需要が増えて、現在にいたる代物だ」
(マグナム弾使用銃はイメージ的に爆発的威力みたいなイメージがあるが、ちゃんと反動を押さえるための重量設計がなされているため、女性でも重量に慣れれば以外に射てるんです。.357や.44くらいなら)
するとロバートがここにきて悩み始めた。しばらく黙っていたが、
「んー。在り来たりだがいい。ロングバレル使用もありますか?」
「残念だがしばらく時間が掛かるぜ」
店主の考えはヒットした。どうやらロバートは強力なハンドガンが目当てのようだと気付いた。
「よし。これが最後だ! 安くしてやるぜ。最強の.454カスール弾使用のルガーのレッドホーク、ブラジルのトーラス、レイジングブルでどうだ!」
(カスールも射てないことは無いだろうが、多少マグナム弾に慣れた人でも、射ちすぎると手首やるか、皮が向けてしまうらしい。一応、注意)
すると、またしばらく考え込むロバート。
店主は食らい付いた事がうれしくてたまらない。が、しかし、微笑んでいたのはロバートだった。
「ご主人。最後なんて嘘ですね!」
「な、なにーー」
完全に見透かされていた。
(そうだ。この男は始めからからあのハンドガンが目的だったのか……)
「負けたぜ」
ロバートはゆっくりと腕を組ながら、店主に言った。
「M500があるでしょ」
店主は隠しきれない事を察知してすべてを捧げた。
「そこまで扱える自信があるんじゃしょうがねぇ。悲劇の中に瀕死の状態でS&Wが威信をかけたハンドガン。世界最強のみを掲げて2002年(03年頃との話も)にデビューさせた、まさしく大砲の異名が似合うハンドガンだ。.500S&Wの専用弾から造りはじまった化け物だ。M500自体も特殊なXフレームを採用。ダブルアクションリボルバー(シングルも含む)弾デカすぎつてシリンダーに5発で射ち手の健康を保障しねえと言うわけわからん宣伝文句付き! さらに、ある機関じゃこんなもん一般人にもたせたら警察がやべぇだろと疑問符も投げ掛けられたいわく付きハンドガン」
(アクションとは簡単に言うと弾を叩きだすハンマー部位がトリガー(引き金)を引くと連動しするのがダブル。実銃だと分かるが扱い慣れないでカッコつけるとブレて当たらんよ。そんで一発ごとにハンマー引くのがシングル。西部劇でよく左手で素早く弾く動作みますよね。負荷と言うべきか?減少し安定して命中率が上がる。どちらが扱いやすいかはその人によるんだろうね)
店主は興奮しすぎてしまい、一層顔がアブラギッシュにテカりはじめた。
そしてシルバーモデルの二丁を叩きつけた。
「コンペンセンター4と8だ! どっちがいい」
この熱き戦いに必殺ブローたたき込むようにロバートがつぶやく。
「2004デビューのハンターください」
店主、ノックアウト!
「分かってたのね、ぐほっ……」
ハンターそれは、パフォーマンスセンターの言わばカスタム。まさしくハンティング用のモンスターハンターです。その異質なハンドガンにアメリカ人は惚れ込んだ。実際。ハンターだけではなく、M500はいまもバックオーダーが止まない。
(これがハンドキャノンと称しているが、マグナム使用銃はほぼハンドキャノンといっていいだろう。マグナム弾は本来狩猟用ですからね)
「負けたぜ。クレイジーだぜクレイジー。身分証明書提示してくれ」
ロバートは満足だった。
「毎度あり〜」
こだわる男は世界最強のハンドガンで頭を射ちぬいて自殺したかったのだ。
長い時間店内にいたせいか、辺りは綺麗な夕日で街をオレンジ色に染めていた。美しい黄昏。ロバートは満足気。帰りの足取りは軽かった。
しかし、みなも一度はないだろうか?たとえば出掛ける前に、服をあれがいいかな?これがいいかな?この時ばかりはこだわってみようかな!? だが、その為に迷いに迷い疲れちゃって結局こんな感じでって普段と変わらないなんてこと。
実際、身近に髪型にこだわる奴が、いつまでたってもキマらないと嘆き、散々、時間かけて待たせられた挙げ句、ワックスをつけた髪を洗い直し、結局ノーマルヘアーでした。なんて事が。もちろんロバートも店主とのこだわり合戦で疲れてしまい、目当てのハンドガンを手にした満足感で、すっかり自殺願望がなくなってしまっていた。
*
おう! 久々だな。俺、メアリーだよ。冒頭でぼやいてた猫だよ。
見たかうちの飼い主の馬鹿さかげんがよ。やっぱり世の中何考えてんだか訳のわかんねえのが右見ても左見てもいやがる。
嗚呼、腹減ったなぁ。
俺はアメリカンショートヘアーで、外にでて可愛いレディーニャンコの前ではポーターだ。誰がなんと言おうとポーターだ。文句は言わせねえ。
それが俺の“こだわり”だ。
END
〇最後まで本作『こだわる男』を読んで頂き有難う御座いました。
私は銃刀(実銃、真刀)に触れたかと言われればYES。
かと言って所謂そのスジではありませんし、法を犯した訳でも御座いません。近年、実銃、エアガンの類での事件があり、銃社会の国々でも悲惨な事件が多発しています。それは刃物も同様。銃刀以外も武器にはなりますが、ここではあえて“銃と刃物”とさせて頂きますが、海外観光地で実銃射撃体験などできますし、(日本でもクレーン、狩猟などありますが)できれば興味本位などだけではなく、危険性の本質も考えて頂きたいと願います。