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光の呼び名  作者: アルエル
ベルカン編
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第24章 潜入の道具


キーラは朝からベルカン中層のパイロット工房に訪れていた。


無骨なドアノッカーで扉を叩く。

中からパイロットの声が返ってきた。


「開いてるぞ」


キーラは返事を待たずに入った。


奥にいたパイロットが炉の前で仕事をしていた。火の色が腕の煤を浮かせる。

パイロットが言う。


「お前か、今日は風便の日じゃないだろ」


キーラが返す。


「ええ、そうね。今日は依頼よ」


パイロットが言う。


「依頼だと?」


キーラは返す。


「イヤリングを作って欲しいの」


パイロットが言う。


「耳飾りが欲しかったら露店にでも行きな」


キーラは言う。


「ただのイヤリングじゃないわ。細工をしたいの」


パイロットがいう。


「細工だと?どんなだ」


キーラは言う。


「人の会話だけを拾う機能をつけて欲しいの」


パイロットは炉から半歩退き、火箸を縁に置いた。指先の煤を布で拭いながら、目だけでキーラを測る。


「会話だけをか、魔道具だな。少し手間がかかるぞ」


「手間?」


「そうだ。魔法石をイヤリングにするためには石の加工がいる。削りと刻みで術式を作る」

「それに小さいからな。小さくても機能を保つには、上位の魔法石がいる」


キーラは即座に返す。


「石ならあるわ」


懐から、布に包んだ魔法石を取り出した。光が強いわけじゃない。けれど目を引く。濁りが少ない。


パイロットの眉がわずかに上がる。指先で布をほどき、石を火の明かりにかざした。


「魔力の純度が高いな、どこで手に入れた」


キーラは肩をすくめない。淡々と答える。


「上層で大枚をはたいたわ」


パイロットが短く息を吐く。計算の息だ。

石を机に置き、指で軽く弾いた。乾いた音が短く跳ねる。


「これならいけるぞ」


キーラは間髪入れずに畳みかける。


「何日でできる?」


パイロットは石から視線を外さずに言う。


「三日だな、作ってやる。三日後にまた来い」


キーラは頷きかけて、そこで止めた。仕様を詰める。


「ひとつ。人の声だけを拾うとなると、雑音を消すように調整する」

パイロットは指で机を二度叩く。乾いた音が条件の合図だ。

「距離はどうする」


キーラは即答する。


「中規模な酒場の中で使う感じよ」


パイロットが頷く。


「屋内か。全ての声を拾えばそれはそれでうるさいぞ」

「拾う幅を広げるほど、声は増える」

「拾う音に指向性を持たせるか」


キーラは迷わず言う。


「ええ、それでお願い。私の意識する方向の会話を拾いたいの」


パイロットが目を細める。疑いではなく、作り方の目だ。


「意識の同調も入れると疲れるぞ」

「だから“意識そのもの”を材料にするんじゃなく、石が向いてる方向に絞る」

「意識は、石の向きを気を付ければいい。後は勝手に拾いすぎないようにする」


キーラは短く頷く。欲しかったのは、その線引きだ。


パイロットは石を指で押さえ、形を見た。ぶら下がる揺れを想像して、首を振る。


「石はぶら下がるタイプじゃなく、耳に固定するような意匠にしよう」

「揺れたら拾う方向がぶれる。ぶれたら余計な声を拾う。屋内では致命的だ」


キーラの表情が僅かに緩む。仕事の話が仕事のまま進んでいる。


「ありがとう。助かるわ」


パイロットは炉の前に戻りながら、最後に言った。


「三日後だ。金は——」


キーラは鞄から封筒を出す。机の上に置く音は小さい。


「前金。金貨三枚」


パイロットが言う。


「いらん。お前達でだいぶ稼がせてもらってるしな」


キーラは封筒を引かない。


「いいえ、受け取って。お金を払うから責任が生まれるの。無責任な仕事は許さないわよ」


パイロットは片眉を上げて、口元だけを歪めた。


「わかったよ。おっかないな」

「まともな商売で使うものじゃないだろ?口止めか?」


キーラは小さく笑うでもなく、ただ言う。


「そんなもんよ」


パイロットが封筒を受け取る。


「わかった、受け取ろう。出来上がったら残りを払ってもらう」


キーラが頷く。


「ええ、それでお願い」


扉へ向かいながら、キーラは振り返らずに言った。


「また取りにくるわね」

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