表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の呼び名  作者: アルエル
ベルカン編
63/77

第19章 閉じた口


上層での二日目。


プラムの行方を追う。

闇取引の情報を探す。


キーラとノアは商館を回った。

エイドとミレイは別の場所を風便で稼ぎながら探っている。

手分けして情報を集める。


職人を訪ねる。

噂を集める。


だが——手がかりは、見つからない。


キーラが帳面を閉じる。

閉じ方が、不満の音だ。


「……動かないわね」


ノアが静かに言う。


「上層の人間は、信用を重視します」


「だから、新顔には教えてくれない」


キーラは言い切った。


「壁が、厚い」



昼下がりの商館区。


すでに二軒の酒場を回った。

どちらも、口を閉ざされた。


キーラたちは三軒目の酒場に入っていた。


上等な酒の匂い。

革張りの椅子。

壁に飾られた船の絵。


客は少ない。

少ないのは高級だからだ。

高級な場所は、値段で人を選ぶ。


カウンターに、店主がいた。

四十代。服が上等。髭が整っている。


キーラが前に出る。


「少し話を聞きたいの」


店主が顔を上げる。

目が値踏みの形だ。


「……新しい顔だな」


「そうよ」


キーラは頷いた。


「でも、商売は真面目にやってる」


店主が肩をすくめる。


「真面目かどうかは、こっちが決める」


言い方が冷たい。

冷たいのは警戒だ。


キーラは金貨を一枚、カウンターに置いた。

置き方が、丁寧だ。


「話の代金」


店主が金貨を見る。

見方が、計算の形だ。


「……何が聞きたい」


「最近の港の様子」


キーラは淡々と言った。


「船の出入りが多いと聞いた。商売の流れが変わってるなら、知りたい」


店主の目が細くなる。


「……それだけか?」


「それだけじゃない」


キーラは頷いた。


「表に出ない取引。そういうのが動いてる場所も知りたい」


店主の顔が硬くなる。


「……あんた、何者だ」


「商人よ」


キーラは答えた。


「商人なら、金の流れを知りたい」


店主が金貨を押し戻す。

押し方が、拒絶の形だ。


「悪いが、そういう話はしない」


「金を積めば?」


「積んでも駄目だ」


店主は言い切った。


「この街で生きるには、信用が要る。信用を守るには、口を閉じることだ」


キーラの喉が鳴る。


閉じた口。

それが、この街の掟。



四軒目も、同じだった。

五軒目も、同じ。


どの店も、口を開かない。

開かないのは、信用を守るため。


夕暮れ。

キーラたちは宿に戻っていた。


エイドが槍を肩に担ぐ。


「……どうするんだ?」


「別の手を使う」


キーラは頷いた。


「信用が通じないなら——金の流れを追う」


ミレイが小さく言う。


「金の流れ?」


「そう」


キーラは頷いた。


「裏の取引がある街なら、必ず金が動く」


ノアが前に出る。


「……どこで調べますか?」


「娼館」


キーラは淡々と答えた。


「娼館?」


エイドが眉を寄せる。


「娼館は情報の集まる場所よ」


キーラは言い切った。


「酒が入れば、口が緩む。緩んだ口から、情報が漏れる」


「相手が女ならなおさらね。教えても意味がないって思ってる」


ノアが静かに言う。


「……酒場も、酒は入ります」


「酒場も騒がしいわ」


キーラは頷いた。


「でも——女がいない」


エイドが眉を寄せる。


「……それが、そんなに違うのか?」


「違う」


キーラははっきり言った。


「女の前では、男は見栄を張る。自分を大きく見せたくなる」


「知ってることを自慢したくなる。秘密を明かして、価値を誇示したくなる」


ミレイが小さく言う。


「……だから、口が滑る」


「そう」


キーラは頷いた。


「娼館は騒がしい。酒場と同じくらい騒がしい」


「でも——女がいる。商売女よ」


ノアが帳面を開く。


「……上層の娼館、いくつかあります」


「一番大きい場所」


キーラは指示した。


「大きいほど、客の種類が多い」


ノアが地図に印を付ける。


「……ここです」


「決まりね」


キーラは立ち上がる。


「明日、潜入する」


「潜入?」


エイドが聞く。


「客として?」


「ダンサーとして」


エイドの顔が引きつる。


「……ダンサー?」


「そう」


キーラは頷いた。


「踊りながら、客を観察する」


ミレイが小さく言う。


「……それ、危なくない?」


「危ないわ」


キーラは認めた。


「でも、客として入るより、ダンサーの方が情報が集まる」


ノアが静かに言う。


「……私も、一緒に行きます」


「頼むわ」


キーラは頷いた。


「で、エイドとミレイは?」


「宿で待機」


「何かあっても、すぐ動けるように」


エイドが頷く。


「……分かった」


ミレイも頷く。


キーラが地図を畳む。


「明日、動くわよ」



翌日の昼前。


キーラとノアは、娼館の前に立っていた。


建物が大きい。

看板に、金の装飾。

窓から、薄い音楽が漏れている。


キーラが深呼吸をする。


「……行くわよ」


「はい」


ノアが頷く。


二人は、扉を押し開けた。


中は、昼なのに薄暗い。

灯りが少ない。

だが——匂いは濃い。


香水。酒。そして——人の熱。


カウンターに、取りまとめ役の女がいた。

おそらく三十代。化粧が濃い。

目が鋭い。


「……新顔ね」


女がキーラたちを見る。


「雇ってもらえる?」


キーラがはっきり言った。


女が眉を上げる。


「ダンサー?」


「そう」


「踊れるの?」


「踊れる」


キーラは答えた。


女がキーラとノアをじっと見る。

見方が、品定めの形だ。


「……容姿は悪くない。客は寄る」


女が顎で奥を指す。


「今、人手が足りない。すぐ働けるなら、雇ってもいい」


「働けるわ」


キーラは頷いた。


「いつから?」


「明日からでも」


女が短く答える。


「ただし、初日は試用期間。踊りが下手なら、即解雇」


「分かった」


キーラは頷いた。


女が紙を出す。


「名前は?」


「キーラ」


「もう一人は?」


「ノア」


女が紙に書く。

書き方が速い。


「明日、昼に来て。衣装合わせと、説明がある」


「分かった」


キーラは頷いた。


二人は娼館を出た。


外の空気が、冷たい。

冷たいのが、心地良い。


キーラが小さく息を吐く。


「……雇用は、通った」


ノアが頷く。


「……はい」


「明日から——潜るわよ」


キーラは歩き出した。


宿へ戻る道。

通りに人が多い。


だが——その人混みの向こうに、影がある。


影が濃いほど、秘密は深い。


明日から——本当の潜入が始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ