第18章 金の扉
香りが、先に来る。
香水。香木。上等な布の匂い。
空気が、金の色をしている。
三番商館。
看板に金の縁取り。扉に彫刻。
窓が大きく、中が見える。
商品が並んでいる。
布。宝石。魔道具。
どれも、値段が高そうだ。
キーラが扉の前で立ち止まる。
「ここか」
ノアが地図を閉じた。
エイドは荷を確認する。
木箱が三つ。ミレイの風が支えている。
傷はない。汚れもない。
「入るわよ」
キーラが扉を押す。
鐘が鳴った。
高い音。綺麗な音。
中に入ると——また香りが強くなる。
香木の匂い。蝋燭の匂い。
金の匂い。
カウンターに、男がいた。
三十代。髭が整っている。服が上等だ。
商人の目をしている。
男が顔を上げた。
「……いらっしゃいませ」
声が丁寧だ。
だが、目が値踏みをしている。
キーラが前に出る。
「パイロット工房の納品物を持ってきたわ」
男の眉が動く。
「パイロット工房?」
「そう」
キーラは頷いた。
男が立ち上がる。
立ち方が、興味の形だ。
「……あの工房の荷を、あなた方が?」
「運んだわ」
キーラは頷いた。
「荷は無事。確認して」
男が木箱に近づく。
目を細める。
近づいてから、一度だけキーラたちに視線を戻す。
判断が、まだ出ていない。
「……封は破られていない」
「破らないわ」
キーラは言い切った。
男が頷いた。
「では——開けます」
*
木箱を開ける。
中に、布で包まれた物。
男が布を剥がす。
魔道具が、現れた。
銀の腕輪。三つ。
表面に紋様が刻まれている。
魔力を感じる。
男が一つ手に取る。
じっと見る。
見方が、鑑定の形だ。
「……間違いない」
男が小さく言う。
「パイロットの作る腕輪は、偽物がない」
リュミエルが小さく光る。
「偽物、ね」
男がリュミエルに気づいた。
目を見開く。
「……光の精霊?」
「そうよ」
リュミエルは答えた。
男が一歩下がる。
下がり方が、驚きの形だ。
「光の精霊を連れているのか」
「そうよ」
キーラははっきり答えた。
「だから、偽物は運ばない」
男の目が細くなる。
細め方が、計算の形だ。
「……なるほど」
男が腕輪を戻す。
戻し方が、丁寧だ。
「確かに受け取りました」
ノアが前に出る。
帳面を開く。
「……受領証を」
「もちろん」
男がカウンターに戻る。
紙を取り出す。
ペンを走らせる。
受領証。
日付。品名。数量。署名。
男が紙を差し出した。
「どうぞ」
ノアが受け取る。
受け取り方が、慎重だ。
目を通す。速い。
「……問題ありません」
「ならいい」
男が頷いた。
そして——声を落とす。
「……次も、運んでもらえますか?」
キーラが眉を上げる。
「次?」
「ええ」
男が前に出る。
「パイロットの荷は信用できる。だが——運び屋が信用できなければ、意味がない」
男の目が、キーラたちを見る。
見方が、値踏みの形だ。
「あなた方は、風の精霊と光の精霊を連れている」
「なら——次も任せたい」
男は言い切った。
「報酬は?」
「通常の運送料。それと——」
男が一拍置く。
「上層での販路を紹介しましょう」
キーラの目が光る。
「……販路?」
「ええ」
男が頷いた。
「あなた方が商売をしたいなら、人を紹介します」
ノアが静かに言う。
「……条件は?」
「運送の独占契約」
男は言い切った。
「パイロット工房の荷は、全てあなた方が運ぶ。——それが条件です」
キーラは一拍置いて、頷いた。
「……考えさせて」
「お願いします」
男が名刺を差し出す。
「返事は、三日以内に」
キーラが名刺を受け取る。




