理想の共感
この物語は、AIをアシスタントに、日々浮かんだアイデアを形にした短編集です。
既視感を覚える部分があっても、それはAIや作者が無意識に影響を受けた結果かもしれません。
「もうあったらすいません」くらいの気持ちで、気軽に楽しんでいただけると幸いです。
ハルは特別な努力などしなくても周囲の誰からも好かれる青年だった。ハルの描く絵や口ずさむ歌は見る者、聴く者の心を自然と和ませた。社会の競争や評価とは無縁で必要なものは不思議と向こうから転がり込んできた。
ある日、ハルは無料マンガを覗いていると良い人だが質素な生活をしている主人公が好きに生き好きな判断で気を使わずに交流し慕われて暮らす話に「癒やされる」など共感すると言ったレビューが並んでいるのを見た。この主人公像はハル自身の日常とかなり重なっていることがあった。
「理想の生活をしてるんだな俺って」
そう自覚したハルの心に奇妙な変化が起きていった。これまでは無意識だった人の期待に応えるという行為が意識的な行動へと変わっていったのだ。絵を描くとき、これで喜んでくれるだろうかと人の好みを多く知ろうとした。歌うときも、もっとらの理想に近づけようと、人の意見をできるだけ取り込んでみた。人との会話では相手の期待を読み取り完璧な返答を探した。ハル自身は良かれと思って人への気遣いをしていたつもりだった。
その意識的な配慮は皮肉にもハルの魅力を奪っていった。ハルの絵は作為的になり歌詞は曇った。人々には無理をしているような不自然さが映っていた。ハルの作品への人気は急速に失墜した。ファンはハルから離れていく。「なんか最近、変わったよね」「前はもっと良かったのに」と囁くようになった。絵の依頼は減り、歌を聴く人も減っていった。
人気が低迷してくると、人への気遣いと期待に応えるプレッシャーにハルの精神は限界に達する。絵を描くこと歌うこと人と話すこと、かつて好きだったすべてのことがハルにとって苦痛になった。顔から表情が消え言葉も少なくなり。ハルは、これまで無縁だったプレッシャーにも潰され、まるで透明な牢獄に閉じ込められたかのように完全に孤独に追い詰められていった。
酒を飲んで現実逃避も少なくはなかった。手っ取り早くいい気分になれる酒はいい時はいい気分を盛り上げてくれるが、悪い時に逆に作用した。
その時は悪い方に出た時だった。酔って憶えていないがノートPCを壊してしまった。人の評価をみて怒りで破壊したのだろうか。
それだけではないだろう。期待という見えないプレッシャー、そして期待に応えようとしたのに受け入れられなかった憎しみなど色々なことが表に出てしまった結果だった。
しかし、その出来事は結果的に評価や期待という幻想も消したことにもなった。
「幻想は、やはり幻想か……」
その声には絶望だけではなかった。ハルは他者の望む幻想を意識的に追い求めたことで失敗し以前はできていた、意識的なハル自身の価値観に基づいた選択がなくなっていたんだ。
もう他人からの評価や期待に左右されない自分自身の心地よさと純粋さを取り戻そう。
そう決意しハルはかつて絵を描いていた画材を手に取った。歌を口ずさもうと喉を開いた。しかし何も思い浮かばない。ハルの指は止まり声は出なかった。そこにあるのは無機質な空白だけだった。 かつて、まるで呼吸のように自然に溢れ出た思いは、意識的に他者に媚びようとしプレッシャーに潰された中ですっかり涸れ果てていた。
ハルは座り込み何も書かれていない歌詞を書く紙とスケッチブックを呆然と見つめた。
その後、空虚な日々にハルはただ時間を潰すかのように小説や漫画を読み歌を聴き絵を見た。 そして、その行為の中でハルは気づいた。
共感の形は人それぞれだった。だがハルの無意識な行為が、最初は否定的だった人々にさえ良い影響をもたらしていたのだと知った。結局、多くの共鳴を生んでいたのは人も自分も嫌がることを避け、ただ心惹かれるものに身を委ねる姿勢だったのかもしれない。思えば、みんなもまたハルと同じように現実の隙間を埋めるように物語や旋律、色彩のの中に満たされない自身の理想を探し求めていたんだ。すべての理想を叶える必要などなかったんだ。ただ難しいが、みんなにも自分にも結果的に嫌なことにならないことで好きな道を歩み続ければ、共感し見つけてくれる者が必ずいるんだ。