2話 食事奪取
●主人公視点
「起きろー!起床時間だー!」
扉を開け、衛兵が部屋の入り口から声を上げる。
(...朝か...)
部屋の中を衛兵が持つ明かりが照らす。
すると、入るときには気づかなかったがそこら中に人が寝ていた。
小さい子供や老人などさまざまな人間がそこにいた。
(...こんなにいたのか...)
ふと、昨日声をかけてきた人物を探す。
(あの目つきは忘れないはずだが...)
しかし、奥からぞろぞろと出てくる人の波に押されそれどころではなくなる。
(多い...!)
仕方なく、扉から出て階段を上る。
そのまま、進むと大きな部屋に辿りつく。
(なんだここ...)
「早く席についたほうがいいよ?」
後ろからそう声を掛けられる。
声の方を向くとそこには紫の髪の女が立っていた。
その女に引っ張られ近くの席に座る。
「あんたとろいね?新人?」
(なんだこの馴れ馴れしい女...)
「...昨日入ったばっかりだ」
”ふ~ん”
女は興味なさげに鼻を鳴らす。
「なら、私がいろいろ教えてあげるよ」
そう言いう女の顔をじろじろと見てしまう113号。
「何よ、惚れちゃった?」
「...なんでそう気を使ってくれるんだ?」
呆れながらも113号は問いかける。
「そうね~、勘!」
「...曖昧だな...」
意識を他に切り替えようとしたところ、扉より衛兵が入ってくる。
「これより食事を配る!取りに来い!」
数名の衛兵によって食事を用意しているらしく、順番に取りに向かう。
「しばらく座ってな...」
先ほどの女がそう言ってくる。
なんとなく、そうしたほうがいいと判断した113号は座ったまま食事を待つ。
”おい!俺の飯を取るんじゃねーよ!”
怒号が響く。
「なんだ?」
「...始まった...」
113号が困惑している傍らで女がおもむろに発言する。
食事を取りに行った数名が喧嘩を始めたのだ。
”クソ!死ね!”
”てめぇが死ね!”
数名の奴隷が喧嘩を続けるが、衛兵は止めない。
「...なんで止めない?」
「あいつらにとってこれは余興。奴隷である私たちが食事を巡って争う醜い余興...」
しばらくすると喧嘩が終わったのか、静かになった。
「...もともと食事も全員分はないの、奪うしかない...」
女は鋭い目で113号を見つめる。
「...わかった。どうすればいい」
「私に任せな」
身を屈めて机の下へ入り込む。
「このまま、下を通っていく」
食事のある前列まで行くことが目的だ。
「...子供や老人、入ったばっかりの新人はどうしていいかわからないから動かない。
動くのは大人の奴隷や血気盛んな奴隷ばっか。
そんな奴らとまともに戦っても仕方ないから、しれっと後ろから回る」
「...意外と考えてんだな」
しばらく進むと、前列の場所まで到着。
「ここからは遮るものがないから何とかチャンスをも見つける」
戦っている数名の奴隷をよそに、他の奴隷も機会を伺っていた。
「...よし、今!」
女の合図で二人は走りこむ。
「あ?!止まれガキ!」
戦っていた他の奴隷から怒声が響くが気にせず、食事を奪う。
置いてあったのはパンだったが二人は食べる分をもぎ取り部屋の座席の中に紛れる。
「机の下なら追いかけてこれないでしょ...急いで食べな!」
113号はその言葉通りに口にパンを突っ込む。
パサパサの乾いたパンだったが、食べれるものは食べておくべきだと言い聞かせ飲み込んだ。
「よし、このまま隠れておくよ。今出たら殴られそうだし」
女と一緒に机の下で気配を消す。