1話 契約
●主人公視点
闘技場への登録をハジット様から伝えられたあと、すぐに身体測定や装備の購入などを行った。
ハジット様は装備などいらないと仰られたが、闘技場の検査官から装備しなければ登録できないと言われ渋々購入していた。
そのため、今はひどく不機嫌だ。
「おい。武器を買ってやったんだ。精々生き延びて金を稼いでこい!」
”バシッ!”
背中を平手打ちされ、痛みに顔が歪む。
「...精一杯、がん、ばり、ます」
ハジット様は怒気をまき散らしながら検査室から出ていく。
「それでは、あなたを113号とします。
この決闘場で113号があなたの名前です。」
「わかりました...」
「113号。あなたはE級戦士となります。
最低のランクではありますがこれからの成長を期待しております。
では、部屋へまいりましょう」
検査官と共に石造りの廊下を歩いていく。
闘技場では、毎日戦士や獣が戦い。民衆を楽しませている。
実際にお金を賭け娯楽の一環になっている。
道すがら他の戦士とすれ違う。
腕を負傷した戦士や体中傷だらけの戦士など、体のどこかを負傷している人しかいなかった。
「ここにいる戦士たち体を負傷しても決闘の日程が組まされれば、戦うしかありません。
逃げることなどできないのです。
逃げようとすれば、あなたの体に刻まれた奴隷紋が体を縛りますので気を付けてください」
そう、奴隷が主人の言うことを絶対守る理由はこれだ。
奴隷紋を体に刻まれたその瞬間、最底辺の人生が決めつけられる。
「ここがE級戦士の待機部屋です」
検査官に言われたその部屋は、地下の薄暗い中に存在し、ネズミがはびこる不衛生な場所だった。
検査官が扉を開け、入るように手を向ける。
「くれぐれも問題を起こさないようにお願いします」
中に入ると、扉が閉まる。
「...おやおや、新入りか?」
真っ暗な中、突然声が聞こえた。
「...誰ですか?」
”クックック”
「おめぇと同じ負け組だ」
低い笑い声が部屋に響く。
「...俺は今日来たばかりで何もわからないんです。
この部屋ではどうすればいいですか?」
「この部屋の奥へは行くな。死にたくなければな」
そう言われた後、闇の中からこちらを覗く人影があることに気づいた。
しかし、その人影は奥へと消えていった。
「...なんだったんだ...?」
その言葉を素直に聞いておこうと113号は思った。
手探りで壁を探し、背中をつけた状態で座り込んだ。
いろいろとこれからのことを考えているとそのまま、うとうとと寝てしまった。
●???視点
(...いい匂いがする...)
その存在は、何かを感じておもむろに動き出す。
(...どこだ...)
うろうろとその世界を動き回る。
しばらく、動くと113号を見つけた。
(...こいつか?)
”クンクン”
鼻を動かしながら匂いを嗅ぐ。
(ケケケ!こいつだ!)
すると、世界が歪み113号の前に出現する。
(...面白い匂いだ。力を貸してやるよ...)
すると、113号の中に入りこむ。
●主人公視点
”力が欲しいか?”
何かが囁く。
(なんだ?)
”自由が欲しいか?”
また囁く。
(うるさいな...)
”俺と契約しないか?”
(わかった、するから黙ってくれ...)
”契約成立だ!”
その存在は嬉しそうに声を上げた。