8:部活動紹介
ゲーム対決から一週間後・・・
新入生に向けて、アドベンチャー部の部活動紹介を行うよう、
生徒会と学校側からの通達があった。
どうやら、今回の活動はアドベンチャー部のチラシ作成の様だ。
金曜日。いつも通り、多目的室を部室として使い、
そこにアドベンチャー部員が10人集合した。
まるで漫画に出てくる組織の幹部による会議の如く、
全員でテーブルを囲み、中央にスケッチブックを置く。
「えーっと、今回の活動はですね。
部活動紹介という事でですね。皆さんでチラシ作ったり、
PR動画作ったりしてもらいまーす。」
細川先生がホワイトボードの前に立つ。
そこには過去のチラシがマグネットで固定されている。
『部員募集中!!!!!
アドベンチャー部で冒険に満ち溢れた最高の青春を送ろう!!!
お申し込みは職員室の細川真美江まで!!!!!
楽しいヨ☆』
・・・秋葉楓が過去に、
パソコンにデフォルトで入っているソフトで作った安物だ。
阿戸はそっと楓を見ると、彼女は赤面し、俯いていた。
・・・・・・
手が上がる。京香だ。
「はい、京香さん質問どうぞ~」
「えーっと、細川先生。
正直チラシに関しては前回の使いまわしでも良くないっすか?
今回は動画に力入れるべきなんじゃないかと思ってるんすけど。」
それに関して細川先生は
「えっとね。生徒会が新規で作る事を要求してるのね。
だから、今回新しくチラシ作んなきゃいけないんです。
後、インターネットで活動内容宣伝できるように、
新しくPR動画も作る様に言われてるんですね。」
「あっそうですか。分かりやした。」
しぶしぶ納得する京香。彼女は自分の興味ない物事に関しては
とことんめんどくさがる性分なのだ。
再び手が上がる。次はかなただ。
「先生。質問なんですけど、
今回の宣伝の作成にあたって、
注意すべき事とかあったりしますか?
無かったら自由にやらせてもらいますけど。」
「いや?特にそういった事は聞いてないよ?
よっぽど変なのじゃなきゃ普通に許可通ると思うよ。」
・・・しばらくして、資料集めの時間に入った。
今回はまず一人一人が資料を集めメモを取り、
その後そのメモの中に記入されたアイデアを基にした
チラシと動画を役割分担して作成するらしい。
阿戸は亜香子と行動する事にした。
放課後の校舎。
阿戸と亜香子は学校に併設されている
市民図書館で資料集めを行っていた。
私立尻甕高等学校は実はかなり進学校の為、
設備が充実しており、地域住民が集まりやすい。
生徒証のカードを機械に入れ、本と共にスキャンし、
本をいくつか借りる二人。
主に、部活の魅力を広告でPRする方法や、
動画編集用のソフトの使い方などの資料を読み漁る。
「阿戸たん、このソフトの使用方法が分かったでちゅ。
まず、ファイルを開いて、保存する先を選ぶでちゅ。
そしてその後、フォーマットの欄を選択して・・・」
「色々教えてくれてありがとう!
亜香子ちゃん、パソコン普通の人より詳しいからね。
こういう活動の時、凄く頼りになるなぁ。」
互いにメモに重要な情報を記入し、
アイデアを出し合い、切磋琢磨する。
必要な情報はある程度集まった為、本棚に本を返す。
自動ドアが開いた先には、
阿戸が知っている顔の女子生徒がいた。
髪は切り揃えられた美しいロングヘアーに、
身にまとう制服も綺麗に整えられ、
キラキラしており、かつ真面目で上品な雰囲気の女子だ。
「あら、阿戸ちゃんに亜香子ちゃんじゃない。こんにちは!」
「あっ!椎名先輩。お久しぶりです!」
お辞儀をする阿戸とその女子。
彼女の名前は「鬱苦椎名」。
この学校でとんでもない有名人かつ1番優秀な生徒である。
彼女は尻甕市の一般家庭出身であるにもかかわらず、
学業、スポーツ、芸術等、数々の才能を持つ才女である。
そして何より注目すべきは、その美しさだ。
学校一の美少女であり、その美貌は老若男女、近隣住民、
その上、男女を問わず、数多くの生徒を魅了している。
また、「全国女子高生アイドルコンクール」においては
金賞を受賞した実績まであり、
「日本一美しい女子高校生」として有名である。
「阿戸ちゃん、今日は部活動宣伝用の資料集め?
勉強もトレーニングも趣味も、いつも頑張っているわね!」
「はい!椎名先輩も、これから図書館で勉強されるのですか?」
「ええ、もう私も今年から受験生よ。
第一志望は『トンキン大学』だから、もっと努力しなくちゃ!
阿戸ちゃんも亜香子ちゃんも、私と一緒に頑張りましょう!」
彼女は、阿戸の様な普通の女子に対しても面倒見がよく、
その優しく真面目で明るい性格から、周囲に好かれやすいのだ。
「はい!椎名先輩、ありがとうございます!
私も応援しています!」
ドスンドスンドスン・・・
「椎名ちゃーん!遅れてごめんね~」
突然背後から、大きな足音と共に巨大な影が接近!
三人が振り向くと、そこには巨体の女子高生。
「ごっめーん!図書館で一緒に勉強しようって約束だったのに
あたいのランチタイムのせいで遅れちゃったぁ~」
野太い声で話す彼女の名は「亜久里武陽美」。
彼女も椎名同様、優秀な才女で人気者の生徒ではあるのだが・・・
あのかなたすら超える巨体と、ボーボーのすね毛、
ゴチャゴチャした髪の毛、あまりにも太すぎる汚い眉毛、
小っちゃい目、鼻毛が見えるデカい鼻、
分厚すぎるタラコ唇、二重顎、黄ばんだメチャクチャな歯並び、
そばかすとニキビまみれの顔、
とどめにだらしなく出た腹とでべそ・・・
その結果、彼女は「世界一醜い女子高生」と呼ばれている。
・・・それでも性格自体は陽気で明るいお調子者なので、
周囲の生徒や人間とは上手く仲良くやっていけてる様だ。
一応、椎名と武陽美は互いに最高の友人として認め合っている。
「あっ!武陽美先輩も!お疲れ様です!」
お辞儀する阿戸と亜香子。
「あらら~!!阿戸ちゃんじゃ~ん!!!
お元気~!?!?お姉ちゃんも!
椎名ちゃんも!!元気ー!!!!!」
ガッツポーズと独特の明るいノリで場を盛り上げる武陽美。
少しの間、図書館前のベンチで語り合う三人。
亜香子だけは置いてけぼりだった。
亜香子はこの三人と異なり、人付き合いが苦手なのだ。
しかし愛されたいという承認要求だけは強い。
「あら、武陽美。もうそろそろ学習の時間よ。
じゃあね、阿戸ちゃんと亜香子ちゃん!
また機会があれば皆でお話ししましょうね!」
「あら!もうそろそろ勉強タイムだわよ!!
あたい等もお勉強しねェといけねェぜ!!
じゃ、またね~!阿戸ちゃーん。」
「はい!こちらこそ、お話ししてくださりありがとうございました!」
お礼を言いながら手を振る阿戸。
美しく歩く椎名と豪快に歩く武陽美。
椎名と武陽美の二人は、図書館の中に入っていった。
才女コンビと別れた阿戸と亜香子は、
メモ帳を握りしめ、アドベンチャー部の部室に帰還した。
時刻はもう夜の7時であるが、今日は遅くまで学校が開いている。
室内には細川先生と、8人のアドベンチャー部員が待機していた。
「細川先生、資料集めが終わりました!」
「あたちの頭脳をもってすれば、楽勝だったでちゅ。」
二人を迎える細川。
「おっ!二人とも終わってよかったじゃん!
これから皆でアイデアを出そうと思ったけど、
もう夜遅いから全員解散していいよ!
来週にやるから。ありがとうね!!」
アドベンチャー部員は解散し、それぞれ帰路についた。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
帰り道。街灯が照らしている公園の前・・・
阿戸が歩いていると、後ろから声をかけられた。
「よう、あどっち。」
振り向くと、そこには泉山京香がいた。
手には冷たい缶コーヒーを二つ。
「あ、京香ちゃん!どうしたの?」
無表情な・・・何とも言えない表情の京香。
「いや、アンタと、ちと話がしてェと思ってよ。
・・・もしよかったら、ウチとそこのベンチで話さね?」
京香ちゃん、突然どうしたんだろう?
尻甕自然公園のベンチに座る二人。
昼間には子供達や老人で賑わう公園も、
この夜の時間帯には誰もいない・・・
まさに二人だけの空間である。
小さな虫が集まる街灯が、そっと二人の女子を照らす。
「・・・なあ、阿戸っち。」
沈黙の中、突然京香が話し始めた。
「京香ちゃん、話って何?」
阿戸と京香の手にはそれぞれ、
雫が滴るコーヒーの缶が握られていた。
重い口を開く京香。
「・・・アンタはさ、この部活をどう思う?」
意外と普通そうな質問であった。
それに答える阿戸。
「えっとね。個性豊かでカオスだけど、
ものすごくいい部活なんじゃないかなって思ってるんだ。
確かに、たまにトラブルは起こるけど、
それも大切な経験なんじゃないかなって・・・
私は思ってる。」
「・・・そうか。大切な経験、ね。
アンタがそうなら・・・そうなんだな。」
「・・・京香ちゃんは、この部活、好き?」
突如、京香の顔つきが悲しみを帯びたものになる。
「・・・・ウチは、この部活が・・・嫌いだ。」
To be continued・・・