4:明日から
・・・
深夜1時。早乙女阿戸の自宅。
スマホの明かりが、私の顔を照らす。
自室の隅のベットの中で、
私はアドベンチャー部の情報を集めていた。
『文化部 危険』
『文化部 危ない』
『文化部 マルチ商法』
インターネットの検索エンジンのサジェストでは、
このような言葉が並んでいたが、
私は気にも留めずに指を動かしながら
アドベンチャー部の情報を捜す。
どの様な部活か、予め情報を集める必要があるからだ。
「お姉ちゃん、まだ起きてるの?」
突然ドアが開き、廊下の明かりが部屋に注ぎ込まれる。
「ノックせずに入ってごめんなさい。
でも、明日も学校なんでしょ?インターネットはもう止めて。」
「ああ、真子。ごめんね。早く寝るね。
おやすみ・・・」
妹の真子が部屋に入ってきたのだ。
しっかり者で真面目なのは大いに結構なのだが、
私のプライベートにも介入してくるところは、少し悩みの種だ。
姉の私に対してもこのように接するのだから、
将来は厳しい母親になるだろう。
「もう、こっちだって大変なんだからね・・・」
真子がそう言ってドアを閉めようとしたその時、
「お姉ちゃん、新しく入る部活はもう決めた?
どんな部活に入りたいの?」
新しく彼女からの質問が私に飛び込んできた。
ここは正直に言うべきだろうか・・・
「あ、うん。えっと私ね、
『アドベンチャー部』ってところに入ろうと思うんだ。」
妹の・・・真子の表情が怪訝そうに、少し険しくなるのが分かった。
「・・・それって、どんな部活なの?
ちゃんと運動部だよね?」
ここは噓をつかずに正直に答えよう。
彼女は虚言は最大の罪だと思う様な人だ。
「ううん、運動部じゃないんだけど、
結構アウトドア系の活動やボランティア系の運動もするみたいだよ。」
真子の表情はより険しくなる一方だ。
「その部活は、本当に大丈夫なの?
まさか、マルチ商法とか怪しい勧誘とか、
アニメや漫画について話すようなところじゃないよね?
お姉ちゃんだって高校生なんだから、そんなのは卒業しないと、
いつまでも幻想の中で惨めに生きるだけよ?
きちんと現実を見て。」
彼女は手当たり次第に厳しい批判を私にぶつける。
ちなみに妹は漫画やアニメ、ゲームなどといった
オタク系の趣味に対する理解が全く無いのだ。
そんなものは小学生の時点で卒業すべきと考えている人なので、
彼女には姉である私ですら頭が上がらない・・・
「ごめんね、そういうのに関係する話題が上がる事も
もしかしたらあるかもしれない。
でも、結構個性豊かな人が多いし、
比較的過ごしやすそうな部活だよ?」
「お姉ちゃんは、部活を何だと思ってるの!?」
突然、妹が怒り出した。
「お姉ちゃんは、『過ごしやすさ』で部活を決めるの!?
のんびりふわふわ自分を甘やかして生きる事しか考えてないんでしょう!
いい!?今の社会は、『社会性のある人』を求めているの!!
文化部で過ごした人は、運動部の人達と比べて、
社会性がある程度低い傾向にあるのよ!!!」
「・・・確かに、
文科系の人にそういう人が多いのは事実かもしれない、
でもね・・・「でもって何!?!?」
妹はさらに続ける。
「お姉ちゃんは、いっつも言い訳ばっかり!!
自分が楽して過ごす事しか考えてないんでしょう!?
『恋』?『マンガ』??『アニメ』!?『ゲーム』!?!?
そんな幻想の中で生きているから、
成績がいつまでたっても中くらいから上がらないんじゃない!!!!」
「だ・・・大丈夫だよ。
きちんとこれからも勉強と朝練は続けるし
成績は中より少し上をキープするから・・・」
「中より少し上!?!?
お姉ちゃんは何でそんなに中途半端なの!?!?!?
目標をきちんと高く定めないなんて、学生として失格よ!!!!!」
妹の目には、いつの間にか涙が溜まっていた。
顔を腫らしながら、嗚咽を漏らす。
「・・・もう、お姉ちゃんなんて知らない!!!!
アドベンチャー部でも何でも入るがいいわ!!!!!
お姉ちゃんのバカっ!!!!!」
そう言いながら、ドアをバタンと閉める妹。
・・・部屋はしんと静まり返り、
妹の慟哭だけが聞こえる・・・
そういえば、
いつも仕事で家に居ない父親や母親の代わりに
私のお弁当を作ってくれるのも、
部屋やお風呂を掃除してくれるのも、
洗濯をしてくれるのも妹だっけ・・・
妹だって、私なんかよりも・・・
ものすごく苦労しているんだ・・・
私にも、非があるのかもしれない・・・
ごめんね。こんな情けないお姉ちゃんで・・・
「・・・明日から、
もっと早く起きて真子の手伝いをしようかな・・・」
そう思いながら、私はスマホの目覚ましを
普段より早めにセットし、目を閉じた・・・
・・・・・
・・・・
・・・
深夜1時。秋葉楓の自宅。
スマホの明かりが、私の顔を照らす。
自室の隅の布団の中で、
私はアドベンチャー部の情報を集めていた。
『文化部 危険』
『文化部 危ない』
『文化部 マルチ商法』
インターネットの検索エンジンのサジェストでは、
このような言葉が並んでいたが、
私は気にも留めずに指を動かしながら
アドベンチャー部の情報を捜す。
どの様な部活か、気になっているからだ。
「楓っ!!!!まだ起きてるの!?!?!?」
びくっと反応し、後ろを振り返ると、
母親が勢いよくドアを開け、
電気を叩きながら点けて部屋の中に入ってきた。
「あんた!!!!!明日の学校はどうするつもりなの!?!?
こんなんで大学に進学できるつもり!?!?!?!?
いい加減にしないと、学費これ以上出さないからね!!!!!」
ドカッ!!バキィ!!!!
母親が何度も私を殴る蹴る。
母親はヒョロガリな私と違い、体格が良い。
その為一発一発が大きなダメージになる。
その上、私の母親はパチンコで負けると、
八つ当たりとして私に対して難癖をつけ暴言を吐き散らすのだ。
そんな母親は、当然私の趣味に対する理解は全くない。
この間だって、私がバイトして買ったフィギュアを
勝手に売り飛ばしてパチンコに使ったことも・・・
ゲームソフトをハンマーで全て叩き割ったことすらもある。
大好きなアニメだって最も暗い画面で、最も小さい音量で、
母が完全に寝静まる間に目を盗んで視聴するしかないのだ。
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!!!」
何度も謝るが、母親は攻撃の手を緩めない。
胸ぐらを掴み、顔を近づけ、般若の様な顔で睨みつける。
呼吸が互いに荒くなっている・・・
「あんたはっ!!!あんたはあああああっ!!!!!
こんなんだから成績もいつまで経っても!!!
ドベなんでしょおおおお!!!!
もうあんたなんか知らない!!!!死ねっ!!!!!!!」
母親はドアをバタンと閉め、部屋を出ていった・・・
扉の向こうで何か母親がブツブツ言っているが、
聞きたくもない罵詈雑言に満ち溢れていたので、
布団の中にくるまる事にした・・・
私も、傷だらけ、痣だらけの顔を腫らしながら、
嗚咽を漏らすしかなかった・・・
「・・・明日から、私、どうすればいいんだろう・・・」
私の心は完全に潰れつつあった・・・
スマホのタイマーをセットする余裕もなく、
私は深い眠りに落ちた・・・
・・・・・
私達の選択は間違っているの・・・?
私達が冒険しようと思う事はそんなに罪なの?
答えは、実際に冒険を続けていかないと分からないのかもしれない。
人は誰しもが自分の足で進み、
自分で未来を切り開いていくしかないのだから・・・
明日から始まる、アドベンチャー部での冒険は、
どんなものになるのだろう・・・