第一話「伝説の入学式、獅子神凛、爆誕!」
青園学園の講堂は、静寂と緊張に包まれていた。都内屈指の名門校であるこの学園は、格式の高さと厳格な校風で知られている。新入生たちは、真新しい制服に身を包み、整然と並んで座っている。その中の一人、オレンジ色の髪がひときわ目立つ少女――獅子神 凛は、目を輝かせながら壇上を見つめていた。
凛の視線の先には、青園学園の生徒会長が立っていた。整った顔立ちに品のある佇まい。壇上で堂々とスピーチを行うその姿は、見る者に威厳を感じさせる。
「さすが、青園学園の生徒会長……だけど、あなたの時代はもう終わりよ!」
誰に聞かせるでもなく、小さな声で呟く凛。その顔には自信満々の笑みが浮かんでいた。
会長の挨拶が終わり、次は新入生代表の挨拶が始まる――はずだった。
その瞬間、会場の雰囲気が一変する。突如、照明がカラフルに点滅し、スモークが焚かれ、耳をつんざくような派手なBGMが鳴り響き始めたのだ。
「なんだ!?」「誤作動!?」「いや、演出か!?」
教員たちは慌てふためき、会場中がざわめきに包まれる。その中、ステージの中央に堂々と登場したのは――。
「ごきげんよう、みなさん!」
オレンジ色の髪を輝かせ、ニコニコと笑顔を振りまく獅子神 凛だった。
「わたしこそはこの学園のトップになる女、獅子神凛よ!」
あまりにも突然の出来事に、会場は一瞬静まり返る。そして次の瞬間、ざわざわとした動揺の声が広がった。
「誰だ!?」「新入生だろうけど…何してるの!?」
教員たちは完全に硬直していたが、凛はそんなことはお構いなしだ。
「驚いてるようね、でも安心して!新入生代表にはちゃんと断っておいたから!ほら、快く変わってくれたわ!」
凛が指さす先、舞台袖には疲れ果てた様子の新入生代表が座り込んでいる。
「……おい、君これは、どういうことだ!?」 教員たちは騒ぎ始めたが、凛は平然としていた。
「では改めて、新入生代表としてご挨拶させていただきましょう!」
凛が手に持っていた紙を広げると、照明が通常に戻り、会場は再び静けさを取り戻す。
「えーこの度、入学する皆様を代表いたしましてご挨拶させていただきます。まず始めに――」
棒読みで淡々と挨拶文を読み上げる凛。内容自体は至極真っ当で、むしろ整然としている。
教員たちは一瞬ホッとしたような表情を浮かべた。 「意外とちゃんとしてる……?」
しかし、生徒たちは心の中で思った。
(棒読みだし、場の空気完全にぶっ壊してるけどな!)
そして、凛が挨拶を読み終わった瞬間、突然紙をばさっと投げ捨てた。
「さて、挨拶は終わったから、ここからはわたしの言葉よ!」
再びざわつく会場。凛は元気いっぱいの笑みを浮かべながら、大きな声で続けた。
「まず、わたしがこの学園に入学したのは、強く賢く美しいこの私にに相応しい場所だからよ」
その言葉に、会場の誰もがポカンと口を開けた。
「それだけの才能に溢れた私がなにを学び何を成すのかそれはこの世界の命運にも直結するはず。」
指をくるくる回しながら演じるように説明する。
「つまり私を知ることは世界を知ることに匹敵する、そんなわたしが、あなた達を導きこの学園をさらに素晴らしい場所にする!なぜかって?それは単純に面白そうだからよだから」はっきりと言い切る
そのて凛は勢いよく生徒会長の方を向き、指を突きつけた。
「だからそのためにわたしは生徒会長になる!次にその席に座るのは、わたしよ!覚悟しなさい!」
生徒会長は驚きながらも冷静さを保ち、じっと凛を見つめた。
凛の言葉が終わると同時に、教員が慌てて舞台に駆け寄った。
「こら!何勝手なことしてるんだ!」
教員に引きずられる凛だが、本人はどこ吹く風といった様子で満足げな笑みを浮かべている。
「だって、入学式は人生で一度きりでしょ?インパクトが大事じゃない!」
その言葉に、教員たちは頭を抱えたが――獅子神 凛の伝説は、この日から幕を開けたのだった。
入学式が終わりホームルームが始まる。教室には担任の声が響いていた。新学期初日の朝、担任はクラスの自己紹介やルール説明を淡々と進めていた。
だが、そんな中、凛の頭の中は、先ほどの入学式の出来事でいっぱいだった。
「ふふ……舞台の上の私、まさにスターだったわね……」
凛は机に頬杖をつき、天井を見上げながら一人でにやにやしていた。彼女の目には、入学式の舞台でスポットライトを浴び、堂々と挨拶をする自分の姿が浮かんでいる。
「あのスモークの演出……完璧だったわ。照明のタイミングも最高。観客のざわめきも、私を引き立てる絶妙なスパイスだったわね!準備のために前日に忍び込んだ甲斐があったわ」
完全に妄想の世界に浸っている凛の耳に、担任の話は一切届いていない。
そんなとき、不意に隣から声がかかった。
「ねぇ、さっきの挨拶すごかったね〜!なんだかワクワクしちゃった!」
突然の声に、凛は少し驚いて隣を見る。そこには、明るい笑顔の少女が座っていた。クリーム色の髪をハーフアップにまとめた彼女は、好奇心たっぷりの瞳で凛を見つめている。
「あ、急に話しかけちゃってごめんね!私、犬鳴 陽鞠。よろしくね!」
陽鞠がそう言って微笑むと、凛はにやりと笑った。
「私は凛!この学園のトップになる女よ!」 凛は胸を張り、堂々と名乗る。
「それにしても、あなたいいセンスしてるわね!やっぱり私の演出は最高ってことね!」
気取った口調で話す凛を見て、陽鞠はくすくすと笑った。
「でもさ、あんなことして怒られなかったの?」
不思議そうに首をかしげる陽鞠に、凛はふふんと鼻を鳴らして胸を張る。
「怒られたわ。でも、それも一興ってやつよ!注目されてこそ、この私の真価が発揮されるのよ!」
その自信たっぷりな態度に、陽鞠は思わず目を丸くした後、微笑んだ。
「凛ちゃんって、すごく面白いね〜!」
陽鞠の言葉に満足した凛は、何かを思い出したように手を打った。
「そうだ!あなたを友達1号として、私の部活に入れてあげるわ!」
「部活?」
突然の言葉に、陽鞠は首をかしげる。
「そう!この部活を通して、私の名を学園中に轟かせるの!そしてその勢いのまま一気に生徒会長になるのよ!」
胸を張って語る凛に、陽鞠は目を輝かせた。
「わ〜、なんだか面白そうだね!私が入ってもいいの?」
「もちろんよ!あなたには副部長をしてもらうわ!」
「副部長か〜、頑張らないと!」
陽鞠が朗らかに笑うと、凛は満足そうに頷き、手を差し出した。
「決まりね!これからよろしく、陽鞠!」
「うん!よろしくね、凛ちゃん!」
二人が握手を交わしたその瞬間、凛は勢いよく立ち上がり、高らかに笑い声を上げた。
「さて、この調子で一気に学園のトップになってやるわ!わーっはっはっは!」
しかし、そんな凛の声が教室中に響き渡った瞬間、担任の厳しい声が飛んできた。
「そこ!さっきからうるさいぞ!静かにしないなら出て行きなさい!」
凛は一瞬たじろいだが、すぐに胸を張り直した。
「目立つことこそ、この私の魅力よ!誰にも文句は言わせないわ!」
だが、その言葉を聞いた担任は無言で凛に近づき、首根っこをつかむとズルズルと教室の外へ引きずり出した。
「よし、わかった。廊下で反省してこい。」
扉が閉まる直前、陽鞠は申し訳なさそうに凛に手を振った。
「が、頑張ってね、凛ちゃん!」
廊下に放り出された凛は、腕を組んで不満げに呟いた。
「まったく、担任も私の輝きを理解しないなんて、まだまだね……!」
こうして、獅子神凛の学園生活は、波乱の幕開けとなったのだった――。