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act2-4 ウイニングボールを君に2

「あ、私、今日はお母さんの用事、頼まれてのだった」


「あ、ごめん。私、旦那が早く帰って来いって言うから」


 私がせっせと業務外でも耐えて、セクハラ逃れのために、必死で片付けしているのに、その間に、一人二人と逃げて行く。人に厄介なことを押し付けて、あとは知らんぷりだ。


(卑劣者)


 大手企業で合理主義かコスト削減か何かしらないけど、人に面倒なこと押し付けて、自分だけ得をするって風潮は消えやしない。


 所詮、野球のボールやバッドの片付けなど誰もやらないのだ。私が言い出したから、これ幸いと、皆責任をなすりつけてしまった。


(ふん、野球なんて、居酒屋で美味しいビールを飲みたいがための余興じゃないの)


「今日のウィニングボール、これ、もらってくれる?」


 その時、私の前ににゅっとボールが差し出された。


「え・・・?」


 部署の中年の部長かと思ったら、目の前にいたのは、若い男性。


 髪を後ろに流し、野球のユニフォームを着た、確か、見たことがある。


 どこかで、最近、聞いたような・・・声。


 どうだろう?百貨店でスーツを買った時の店員?服をかけてもらって、いえ、それか近くの食料品店のレジだったかしら?でも、私は思い出せなかった。


「城市くん?」


 私はその男を知っていた。知ってて当然。同じ会社の社員だ。


 それに、我が母校の生徒。同じ学年、同じクラス、元同級生。


 つまり、伊藤エリカと私の同級生。


 名前も知らなかった人物だが、この会社に来てからは知っている。まだ他にも私の高校の同級生が会社にはいるのだ。


 それに、うちの会社が城市(しろいち)工業。という名で分かる通り、城市茂次郎(しろいちしげじろう)は、この会社の社長の息子の息子。


「な、なんでここに?」


「い、いや、僕は一応、この会社の一員なんで、今日も野球チームに参加してたんだけど、そんな初めて会ったぐらいに驚かれても、ずっと君といっしょに勤めてて、毎日ぐらい会ってるよ?気づかなかった?僕、いてもいなくても同じって言われるけど、それだけ僕って、影、薄いかな?」


「い、いえ、何でもありません。すいません、よそ見していて、気づかなかったもので」


「ああ、よく言われるよ。高校の時も影の薄い奴と言われて、目立った人間でなかったけど。ええと、僕のこと、知ってる?僕は君のこと、知ってたけど」


 高校の時に、こいつは、伊藤エリカを取り巻く一人だったはず。


 私は記憶力は良い、頭脳優秀だ。一度見た顔は忘れない。普段は、思い出さないだけで。


 私はぎくりとした。


「これ、今日、僕が打ったヒットのボール。久しぶりに良いボールが打てて、点も入ったから、君にあげる」


「え・・・?」


 今まで一度も、こんな優しい声をかけてもらったことがないかもしれない、特に男子には。


 でも、この人は学校のアイドル女子、伊藤エリカに、男子は誰も彼も夢中で・・・彼もその一人だった。はず。


 なのに、そいういう奴が、なんで、私にボールを?

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