表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/34

act9-3 お礼のKISS

 いつまでもいっしょ・・・?


 高校の時から、まあ、いつまでも、お熱いこって。


 ため息つきながら、工場階段を回ったところだった。


「う、げ、ごほごほ」


 階段から降りて来た人がいる。城市茂次郎だ。


「どうしたの?あなたも具合悪いの?」


「うん、いや、ちょっとね。具合が悪い、いろいろ」


「大丈夫?」


「いや、大丈夫じゃないかもしれない。倒れるかも」


 城市は具合を悪そうにするので、私は仕方なく、付き添って部屋まで行った。


 上階には役員の部屋があり、統括の城市の部屋がある。


 小さい部屋だが、窓際にデスク、手前にソファがあり、私は城市をそのソファに寝かせた。


「ああ、具合が悪い。君のドレス代、君のネックレス代、あれから、君のことをいろいろ周囲に聞かれたりして、それが具合が悪い」


 寝るなり、そう言うから、私は自分が原因だったとに気づいた。


「あ・・・なんで、そう言うかと思ったら・・・ドレス代?」


 相当な高額な請求をされるだろうなと、私も思った。何も思わず従ってしまったけど、高そうだなと思ったのだ。彼は別にボランティアでもない。私に請求する義務がある。


「つい、うっかりしてた。お金がかかるってこと、ごめん、いくらか、言って。すぐ返せないかもしれないけど、今はまだ、月給だから、ここで働いて、あなたに返すから」


「うん?いや、ドレス代のことは良いんだ。でも、今日は具合が悪いから、そうだな、君がキスでもしてくれたら治るかも」


「キス?」


「うん」


 なんだか、水道修理でもあるかのように、当然のように言うので、私も、そういう処置の仕方があるのかと思ったほどだった。


 城市も恥ずかしげもなく、ちょいちょいと指招きをする。


 ええと、西洋ではそういう謝罪の仕方でもあったっけ?と私はそばに寄ったけど、相変わらず、きょとんとして、熱を測る前の子供みたいに待っているから、私もおかしくないことなのかと思って、聞いた。


「じゃあ、したら、いいの?」


 聞くと、こっくりと頷く。これは、したほうが良いのか・・・?


 彼には世話になってる。この前のパーティもそうだし、命を守ってくれた。求められるなら、それぐらいしたほうが良いかも。


 ええい、仕方ない。


 これで具合が良くなるならと私は思い切って、口をぶつけた。


「本当にしてくれるとは、思わなかった」


 離れると、城市が目を丸めている。


「なっ、あんた、私を引っかけたのね」


「い、いやそうじゃなく、本当はしてもらいたかった。でも、君はそんなことをする人ではないと思ったから、ちょっと試しに、言ってみようと。してくれたら得だし」


「やっぱり、こっちはてっきり、礼にでも贈答品送る気になってたわよ」


「贈答品?うん、ええと、その、あ、君」


「このセクハラ上司」


「え、うん。そうかも」


 私は思いっきり彼をソファに投げ飛ばして、憤慨してその部屋を出た。




「どうやらあの二人、結婚するって言ってる」


「えー、伊藤エリカと竹内涼?やっぱりね」


「でも、まだ入ってすぐだから、辞めるのが迷惑をかけるって言っていて、竹内涼は辞めるけど、伊藤エリカはまだ残るとか言ってる」


 それからしばらくして、社内で噂が広がり始めた。


 いつでもいっしょにいられる?


 結婚して、会社を辞める?


(何なの、あいつら。人の目の前で、勝手なことを言ってやりたい放題して、さらにやってくれるってわけ?)


 どこまで、あの後の私の記憶に、塗り重ねて来るのよ。


 デートの日、私もおめかしして、竹内の行く場に行って、あの二人の邪魔をしたこともある。


「お前とは約束してねえ、ついて来るな」


 竹内涼はわざとしだれかかる私を突き放して、そう言われて私は突っ立つしかなくそのまま、あの二人はどこかいっしょに行く約束で、町の中に消えて行ったのを見送った。


 また、このような契機が来るとは・・・


(結婚するとは、ここで待ったが百年目)


 この沢島小夜子。パーフェクトで激美貌の持ち主。おまけに超金持ち。その私の前で、永遠にいっしょの結婚だのが、成立すると思って?よくも、いけしゃあしゃあと言えたものだわ。


 ゴールイン、とは上等。


 二人でどこかに消える?あの女は一生あの竹内涼とラブラブな時間を手に入れ、あの男は事業を起こして一国一城の主になって自由を手にする?


 そんなことが許されると思って?この私の目の前で。


 元祖、ジャー島が目の前にいるってこと、お忘れよ。


 この私の前で、好きにできると思ってるの?


 ナッシング、エブリシング、ナッシング。


 結婚を阻止するには。あの二人を別れさせるには。あの男があの女を嫌いになるには。あの男が会社独立なんてしないようにするには。


 ええと、あの女を遠ざけて、あの女に別の男を作るの。あの男の弱味を握って、あの女を別れさせるようにする。会社なんて、起こさせない。


 あの人は、この会社で、一生、私といっしょに・・・


(何のためにするの?そんなこと)


 またするの?高校の時と同じみたいに、また、私・・・


 今は私は、あの頃の沢島じゃない。


 仕事もバリバリ、上司や同僚からの信頼も得て、仲間がいる。


 お邪魔虫の私を応援すると言ってくれる人もいる。


 私、何がしたいの?


 竹内涼、あの男だけに愛されただけで、私は本当に、報われるの?


 高校の時は、あの時はすべて、あの人に愛されることがすべてだった。


 でも・・・


 仲間も・・・女王バチとの戦いも勝って、奇跡を起こしたこの私を、あの男は満足させられる・・・・?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ