act9-3 お礼のKISS
いつまでもいっしょ・・・?
高校の時から、まあ、いつまでも、お熱いこって。
ため息つきながら、工場階段を回ったところだった。
「う、げ、ごほごほ」
階段から降りて来た人がいる。城市茂次郎だ。
「どうしたの?あなたも具合悪いの?」
「うん、いや、ちょっとね。具合が悪い、いろいろ」
「大丈夫?」
「いや、大丈夫じゃないかもしれない。倒れるかも」
城市は具合を悪そうにするので、私は仕方なく、付き添って部屋まで行った。
上階には役員の部屋があり、統括の城市の部屋がある。
小さい部屋だが、窓際にデスク、手前にソファがあり、私は城市をそのソファに寝かせた。
「ああ、具合が悪い。君のドレス代、君のネックレス代、あれから、君のことをいろいろ周囲に聞かれたりして、それが具合が悪い」
寝るなり、そう言うから、私は自分が原因だったとに気づいた。
「あ・・・なんで、そう言うかと思ったら・・・ドレス代?」
相当な高額な請求をされるだろうなと、私も思った。何も思わず従ってしまったけど、高そうだなと思ったのだ。彼は別にボランティアでもない。私に請求する義務がある。
「つい、うっかりしてた。お金がかかるってこと、ごめん、いくらか、言って。すぐ返せないかもしれないけど、今はまだ、月給だから、ここで働いて、あなたに返すから」
「うん?いや、ドレス代のことは良いんだ。でも、今日は具合が悪いから、そうだな、君がキスでもしてくれたら治るかも」
「キス?」
「うん」
なんだか、水道修理でもあるかのように、当然のように言うので、私も、そういう処置の仕方があるのかと思ったほどだった。
城市も恥ずかしげもなく、ちょいちょいと指招きをする。
ええと、西洋ではそういう謝罪の仕方でもあったっけ?と私はそばに寄ったけど、相変わらず、きょとんとして、熱を測る前の子供みたいに待っているから、私もおかしくないことなのかと思って、聞いた。
「じゃあ、したら、いいの?」
聞くと、こっくりと頷く。これは、したほうが良いのか・・・?
彼には世話になってる。この前のパーティもそうだし、命を守ってくれた。求められるなら、それぐらいしたほうが良いかも。
ええい、仕方ない。
これで具合が良くなるならと私は思い切って、口をぶつけた。
「本当にしてくれるとは、思わなかった」
離れると、城市が目を丸めている。
「なっ、あんた、私を引っかけたのね」
「い、いやそうじゃなく、本当はしてもらいたかった。でも、君はそんなことをする人ではないと思ったから、ちょっと試しに、言ってみようと。してくれたら得だし」
「やっぱり、こっちはてっきり、礼にでも贈答品送る気になってたわよ」
「贈答品?うん、ええと、その、あ、君」
「このセクハラ上司」
「え、うん。そうかも」
私は思いっきり彼をソファに投げ飛ばして、憤慨してその部屋を出た。
「どうやらあの二人、結婚するって言ってる」
「えー、伊藤エリカと竹内涼?やっぱりね」
「でも、まだ入ってすぐだから、辞めるのが迷惑をかけるって言っていて、竹内涼は辞めるけど、伊藤エリカはまだ残るとか言ってる」
それからしばらくして、社内で噂が広がり始めた。
いつでもいっしょにいられる?
結婚して、会社を辞める?
(何なの、あいつら。人の目の前で、勝手なことを言ってやりたい放題して、さらにやってくれるってわけ?)
どこまで、あの後の私の記憶に、塗り重ねて来るのよ。
デートの日、私もおめかしして、竹内の行く場に行って、あの二人の邪魔をしたこともある。
「お前とは約束してねえ、ついて来るな」
竹内涼はわざとしだれかかる私を突き放して、そう言われて私は突っ立つしかなくそのまま、あの二人はどこかいっしょに行く約束で、町の中に消えて行ったのを見送った。
また、このような契機が来るとは・・・
(結婚するとは、ここで待ったが百年目)
この沢島小夜子。パーフェクトで激美貌の持ち主。おまけに超金持ち。その私の前で、永遠にいっしょの結婚だのが、成立すると思って?よくも、いけしゃあしゃあと言えたものだわ。
ゴールイン、とは上等。
二人でどこかに消える?あの女は一生あの竹内涼とラブラブな時間を手に入れ、あの男は事業を起こして一国一城の主になって自由を手にする?
そんなことが許されると思って?この私の目の前で。
元祖、ジャー島が目の前にいるってこと、お忘れよ。
この私の前で、好きにできると思ってるの?
ナッシング、エブリシング、ナッシング。
結婚を阻止するには。あの二人を別れさせるには。あの男があの女を嫌いになるには。あの男が会社独立なんてしないようにするには。
ええと、あの女を遠ざけて、あの女に別の男を作るの。あの男の弱味を握って、あの女を別れさせるようにする。会社なんて、起こさせない。
あの人は、この会社で、一生、私といっしょに・・・
(何のためにするの?そんなこと)
またするの?高校の時と同じみたいに、また、私・・・
今は私は、あの頃の沢島じゃない。
仕事もバリバリ、上司や同僚からの信頼も得て、仲間がいる。
お邪魔虫の私を応援すると言ってくれる人もいる。
私、何がしたいの?
竹内涼、あの男だけに愛されただけで、私は本当に、報われるの?
高校の時は、あの時はすべて、あの人に愛されることがすべてだった。
でも・・・
仲間も・・・女王バチとの戦いも勝って、奇跡を起こしたこの私を、あの男は満足させられる・・・・?