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 荷運び。いわゆる、雑用係である存在だ。


 大遠征はもちろん、冒険者パーティーでも長旅をすれば、必ず一人や二人が付き添うもの。


 影の助っ人、目立たないパーティーの支柱、雑用係はとても重要な役割と言ってもいいほどの存在だと……いうことらしい。


「はぁ……はぁ……」俺はそんなとても重要な役割と同じ重量の荷物を背中に背負って、山を登っている。


「はぁ……はぁー」


 次の傾斜面を登って、やっと平坦な地面にたどり着いた。


 俺は跪いた態勢でぜぇぜぇと息をしながら、休憩している。ところで、たどり着いた矢先に、視線の先に黒い靴が発見した。


 その靴を履いている主人は見るまでもなく、俺はその人の正体がわかっている。


 それでも俺は視界を上に映し、その人の全貌を自分の視野に収める。


 蒼白で無表情な女性。不健康な白い肌に黒い帽子をかぶっている。長いローブをかけて、服の両側にスリットの切れ込みが見える。


 彼女は俺の未練を解決するために蘇ってくれた……一人の死霊術師。


 客観的に見れば、綺麗な人だろう。


 だが、その生気のない顔に、綺麗より空虚のほうが脳に先走る感じだ。


 そんな無表情な彼女が俺の前に立っていて、虚ろな視線で俺を見つめてくる。


 そして、透き通るような声で俺に話しかけてきた。


「お疲れ様……昼ですが、よく頑張りました。」


「はぁ……それだけ?」まだ息を切らしていながら、彼女に質問を問いかける。その返事はとても冷たいものだった。


「それだけ。」


「……そう……はぁ……」疲れているため、言い返す気力が湧かない。それに、重要なのは――


 はぁ……はぁ……やはり……体力は生前より劣っている。感覚はそのままだとしても、全てが昔みたいに同じではないようだ……


 死体だからなのか?


「はぁ――」くそ、こんな感じだと、俺の目的は……


 突如、彼女は声を発する。


「……あ。」


「……あ?」


 俺は疑念を晴らすために、彼女の方に目を向けたが、彼女はただ指で向こうの方向に指して、こう言った。


「見て。バルードさん。」


 彼女の指に沿って、俺は思わず息を飲み込んだ。


 周辺を見た感じ、山腰の峠の景色だ。周りに稀少な葉がついている何本の木が立てられている以外、ほぼ何もない。逆に下を見れば、全然木に阻まれていない視界の先に広大な草原が広がる。緑色が点在し、広大な画布に描かれているような景色、明確に壮観だと言える。


 原始的な風景。俺はこの壮観な景色を見て、冒険が始まる半年以来の記憶が勝手に蘇った。


 俺たちはずっと山を登り、川を越えた。草原も越えて、盆地にも潜った。時々小屋に滞在し、フードを被って町に留まった。


 俺たちの旅は――あるいは彼女が称しているこの半年以来の“冒険”は、ずっとこんな感じだった。


 魔物もない、敵もいない。戦うことは一度もない。ひたすら歩いて、何かを見る。


 冒険らしい逸話は何一つもない。


 正直に言って、冒険というより旅行だろうなーって自分でも思う。


 でも、変に無理やり魔物と戦わせるよりよほどいい。


 この半年、彼女は時々見かけた魔物について、その生態の知識を教えてくれる。


 この旅行にははっきり言って、俺も戦闘なんか期待していない。


 だって、最初からわかっているつもりだ。戦闘能力のない自分には、ほしい冒険は何なのかを……


 戦闘より、彼女の見聞のほうが面白い。旅の見物のほうが俺の感情に高ぶらせる。このことは彼女に言わなかったが、実はこっそり楽しみにしていたのだ。


 今日は何の魔物の知識について教えてくれるだろうって。今日は一体どんなものが見れるだろうかって……


 俺は山麓まで直視できるほど滑らかな斜面を見ていて、ずっと考えていた。


 山の斜面は下に続いて、草原のほうに伸ばす。それで広大な空間が広がっていく。まるで、自分の思考と同じく。


「こう見れば、自分は大して登ってないと感じちゃうな……」


「……でも、いい景色でしょう。」


「……ああ。」


 原始的な風景を前に、風が吹くとともに、どんな悩みも一緒に連れていかれそうだ。


 そして、俺たちの間にしばらく沈黙が続く。


 先に話しかけてくるのが彼女だった。


「では、そろそろ行きましょう。」彼女の足元に踵を返したのを見て、俺は思わず彼女の方に向いた。


「……早いな。」


「ええ。早めに移動したほうがいいですから。」


「え?どういうこと?」俺はすぐさま荷物を背負って、彼女の近くに近づいた。


「この周りの木、少しずつ近づいてくるのを感じてませんか?」


「え……あ!」彼女に言われてみれば、確かに距離が縮められた気が……


「もしかして、これは――」俺が“魔物”という言葉を告げる必要もなく、彼女が「行きましょう」という一言だけ、全てを物語った。


 そして、とても気付きにくいだが、彼女はすっごく小さく、小さく微笑んでいるような気がした。


 俺は思わずその微笑みに凝視していた。

2024.10.29 少し修正しました。

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