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見切り発車投稿です
ヒロインのように、特殊能力があるわけではない。
ライバル令嬢のように、ハイスペックでもない。
ただ、普通の伯爵令嬢である。
モブと言えばモブ。
プレイヤーが物語を進めて行く中で、イベントをお知らせしたり攻略ヒントを教えたり、ヘルプ等プレイヤーの案内役。
普段はライムグリーンの髪をゆるフワに三編みでまとめて大きめの伊達メガネという出で立ち。
それが、今の私だ。
前世を思い出したのは、9歳の頃。私の親はなかなかに寛大な心の持ち主で、基本的に私のやりたいことを好きにさせてくれていた。もともと好奇心旺盛で色々な事に興味を持つこともあり、兄と同じような教育を受けさせて貰った。
もちろん、兄の能力には全く及ばないのだが、それでも、同世代の中で知識は飛び抜けていると思っていた。
その日は、教育の一環として丘の広場に来ていた。
「こちらから首都が一望できますよ。」
教師に促されフェンスに近づき街並を見下ろす。
その景色に既視感を覚え、一瞬靄がかかった記憶が頭を掠めた時、私は倒れた。
兄や教師の焦る声が聞こえたが、私はそのまま意識が遠のいてしまったのだ。そして、思い出した。
ここは、ゲームの世界だ。どおりで、主要人物や地理の名前にどこか聞き覚えがあると感じていたはずだ。
『アンリミテッドラブで織りなす学院生活と冒険をキミと。』
恋愛シュミレーションゲームである。
プレイヤーは、ヒロインとライバル令嬢どちらかを選び、物語を進めていきながら攻略対象と愛を育んでいく。学院生活が主だが、ファンタジー要素もある為に定期的に魔物狩りやらアイテム探しやらのイベントも発生する。
攻略メンバーは全員で6人いるようだが、はじめに登場するのは5人で、ヒロインとライバル令嬢どちらもプレイして3人以上のハッピーエンディングを迎えた後に、隠しキャラが攻略メンバーとして登場する仕様だった。
そして、私はこのゲームをヒロインで2人、ライバル令嬢で1人ハッピーエンディングを迎え、ついに隠しキャラを登場させる為に『もう一度はじめから始める』を選んだ瞬間…
とんだ。私、ではなく、データが!!!
その時の衝撃は憶えている。叫んだし。
ちなみに、前世の最期は憶えていない。何故このゲームに転生したのかも解らない。
確かに叫ぶほどショックだったけど、凄いハマっていたかって言うと実はそれほど熱くはなっていなかった。
現実に、好きな人や気になる相手すらいない生活をしていたから、まあ、人生のスパイス程度にね、なんていう軽い気持ちでやっていたゲームだ。
攻略メンバーも、確かに魅力的ではあるものの、最推し!と言えるキャラもいなかった。
それなのに、何でそのゲームをやっていたかって?
絵が!タイプだったからです。はい。見た目から入るタイプなので。
そのゲームを進めて行く中で、大変お世話になったのが私が転生したこの案内役令嬢、サリーだ。
解らないことがあると、彼女に会いに行って質問をしていた。
ゲームの基本的な進め方はもちろん、ゲーム内で使われる専門用語、アイテム、魔法、ほぼ答えて貰える。
イベントに詰まると、さすがに答えはくれないがヒントをくれたりするし、序盤からラストまで欠かせない存在なのだ。
そこまで思い出して、目が醒めたのは2日後だった。どうやら熱を出していたらしい。体調が悪かったのなら、ちゃんと言いなさいと叱られた。
それまで、座学ばかりやっていたのだけど、体力をつけた方がいいと言われ女性剣術も習いだした。
前世でのゲームを思い出し、自分が如何に重要人物か気付いたので、今まで以上に雑学等も勉強した。
将来、ヒロインやライバル令嬢に何か聞かれた時にすぐ答えられるように。
それから7年後、私はゲームオープニングの主学院入学式を迎えた。