表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

12 討伐開始

ここからしばらくバトル展開です。苦手な方はご注意ください。

 遠征が始まって10日目。ようやく灰牙猪(グレイボア)の出現が確認されたキヌアの森に到着した。森に入って少し開けたところで陣地を張った後、リューフェティたちは、灰牙猪の誘導場所などを騎士たちと話し合い、討伐前の最終確認をしていた。


 今日のリューフェティは、長い髪を一つに束ねて後ろに流し、いつもの長い魔女のローブではなく、騎士たちが着る戦闘服にマントを付けていた。リューフェティは、戦闘中まで言葉遣いに気を配ることはできないだろうと考え、この日に至るまで、戦闘中は荒っぽい口調になる可能性があることを慎重に匂わせた。

 すると、日頃から男性口調の女性騎士や女性兵士が多いせいか、遠征班の面々には特に違和感なく受け入れられたので、リューフェティは、思い切って「意識を戦闘態勢に切り替えたいので、この服装の時はこの(男性)口調で話しても気にしないでくれ」と伝えていた。


「今日のリューフェティ様がその(男性)口調で話されてもあんまり違和感がございませんね。戦闘服姿だからでしょうか。なんだかペトラ様を彷彿とさせます」

「こっちの方が話しやすいからいつもこう話したいけど」


 セリーヌの言葉に、リューフェティは本心を漏らしたが、セリーヌは「やはりリューフェティ様は貴族ご出身ではないのね」と思っただけで、それほど気に留めていない。

 そもそもの顔立ちが中性的なせいで、リューフェティの立ち振る舞いは元来の男性らしい姿だったが、まさか男の魔女がいるとは想像もしていないせいか、はたまたここにいる遠征班の面々が純粋なせいか、リューフェティの性別に疑いを持つ者は皆無だった。


 ちなみに、いつもと着る服が異なるのはリューフェティだけではない。セリーヌたち侍女も、遠征時は、何かあった時に走って退避しなければならないため、いつも王城で着る足首まである長いスカートの制服姿ではなく、村娘のようなひざ丈のスカートにブーツ姿だった。生足が露出する部分がないよう、黒のタイツで足を覆い、髪もシニヨンではなく、ポニーテールにまとめている。


「そうやって話されると騎士の皆様とあまり変わらなく見えます。今日のリューフェティ様はご令嬢が見たら一目で恋に落ちそうな見事な男装の麗人ですね」


 ――俺が落としたい人はここにいるんだけどなぁ。


 リューフェティことリュイは、にこにこと微笑むセリーヌをちらりと見やった。その頬に手を伸ばしてみても、セリーヌは「どうしたのかしら」とリュイを見やるばかりで、無防備にもされるがままになっていた。


 ――この無防備さ、本当に嫌になる。油断のならない戦闘をしなければいけない、そんな状況じゃなく、男の自分(リュイ)としてこの人に触れられたら――


 リュイは重いため息をついた後、無理矢理に意識を切り替えて、手で触れたセリーヌの頬に魔力を流した。体内感覚が変わったのか、セリーヌは驚いたように自分の両手を見回す。


「これは……?」

「騎士や兵士たちに戦闘時にかけているのと同じ、体が強化される魔法をかけた。これで普段よりも速く走れるし、何か衝撃を受けても緩和できる」

「不思議な感覚ですね。体がいつもより軽い力で動かせるような気がします」

「体内に働きかけている分、体全体の動きが強化されているよ。踏み込みが強くなったり、早く走れるようになっている。ただし、後で体に反動が来るから気を付けて。万が一私たちに何かあったらほかの二人を連れてすぐに陣営から離れるんだ。いいね?」

「かしこまりました。リューフェティ様もお気を付けくださいませ。ご武運をお祈りしております」

 

 リュイは名残惜しい気持ちでセリーヌの頬から手を離すと、目をつむる。近くに目標が迫っている感覚があった。

 リュイはセリーヌに背を向けると、目を見開き、整列する騎士と兵士たちに告げた。


「目標が北方約10メートル地点に接近している。全員配置につけ」

「はっ!」


 リュイの声掛け後、すぐに騎士と兵士たちは行動を開始した。その直後、リュイの宣言通り、騎士たちが向かった先の横の茂みから巨大な猪2頭が飛び出してきた。


 体高はおよそ大人の男性の胸あたり、体長は2メートルにもなる巨大な猪が鋭い牙をもって突進してくるのだから、直線上にいてはひとたまりもない。

 打ち合わせどおり、騎士1名と兵士2名が、残りの騎士と兵士とは別方向に走り、リュイは2頭の灰牙猪の突進方向を妨害するように魔力で生み出した氷の障害物を出した後、既に作った障害物の氷の側面からさらに氷の壁を作り出し、灰牙猪を1頭ずつに分断する。

 リュイは、騎士や兵士たちにかけた身体強化が切れないように確認しながら、灰牙猪の進路を制限することで動きをコントロールし、同時に周囲の状況を探知する後衛の役目だ。

 兵士が強化した力で槍を灰牙猪の横っ腹を突き刺し、位置を固定した上で、騎士が急所の首の付け根を攻める。といっても灰牙猪もかなり暴れるので、攻撃しては離れて(ヒットアンドアウェイ)を繰り返し、徐々に灰牙猪たちを弱らせていった。


 計画通りに進んでいた時、リュイは叫んだ。


「3頭目がくる!全員今の持ち場からいったん離れろ!」


 灰牙猪は家族単位で行動することが多い。発見数が2体であったとしても、残りの家族が出てくる可能性がある。これも想定していた。――が、現れた魔獣を見て、兵士たちが思わず声を上げる。


「あれは……!?」


 リュイは灰牙猪よりもさらに大きな巨体がその姿を現すや、全員に警告を飛ばした。


金牙猪(ゴルボア)だ!総員、武器を手放して距離を取れ!」


 リュイの警告に、騎士や兵士たちが一斉に武器を離して撤退しようとしたが、相手は素早かった。


「レン!」


 兵士が1名、退避中に灰牙猪に刺さった剣の近くを通りかかり、バチンと高い音が鳴った途端にその場に声も出せずに崩れ落ちる。


 金牙猪は灰牙猪の変異上位種にあたる。等級は第二級で、その脅威は灰牙猪とは比較にならない。灰牙猪よりもさらに巨大な体躯、鉄のように固い外皮に加え、魔力による特殊攻撃として雷気をまとった刺突をしてくる。天から落ちる雷ほどの強さはさすがにないものの、牙を鉄の武器で押さえつけようとすれば感電して動けなくなるのでひとたまりもない。


 リュイはレンに突進してくる金牙猪を瞬時に生み出した巨大な氷の壁で突き飛ばし、進路を変えさせた。そして動けなくなったレンを抱えて、魔獣たちから距離を取る。


「レン、無事か」

「は……い。まだ少し手足に痺れが残っていますが、もう動かせます。すみません、短剣を外し忘れました」


 剣に帯びた雷が飛んだものの、多少の距離があった上、すぐに地面に倒れ伏せたことで雷が地面に流れたことが幸いしたようだった。


「リューフェティ様、おそらくこの規模の遠征班で対応できる等級を超えているかと思われますが、いかがされますか」


 リュイは、金牙猪たちをけん制しながら、素早く今後の方針を組みなおし、レンや青ざめた顔の騎士たちに伝えた。


金牙猪(あれ)は私が一人で対応する。距離を離すから、皆で残った灰牙猪2匹にとどめをさしてほしい。やれるか?」

「はっ。リューフェティ様もご武運を」


 司令塔であるリュイの命令に、騎士たちは、それ以上の質問や疑問を挟まず、素早く動き始めた。

 リュイも立ち上がって、怒りに燃えた瞳を向ける金牙猪に向き合った。挑発と牽制を重ね、騎士たちが雷に巻き込まれないよう、離れたぬかるみまで移動する。


 ――騎士たちの練度が高くて助かった。しかし、よりにもよってこいつか。

 

 魔女たちは、魔力を操り、超常現象を起こせる。その超常現象が魔法と呼ばれている。魔女に知見のない者たちは、魔女はどんなことでも可能だと思っているがそれは違う。魔女は一人につき、それぞれ一つの能力しか使えない。そしてその能力も汎用性も十人十色、相性も様々だ。一見強い能力でも、相手が悪ければ勝てないこともある。

 そういう意味で、リュイの能力は金牙猪とは相性が悪かった。


 金牙猪は、リュイを警戒するように、バチバチと牙から雷気を飛ばして見せた。そして、泥を跳ね飛ばしながらリュイに襲い掛かり、リュイがそれを身をひねって躱す。


「俺、これでも分類は戦闘系(・・・)だからね。こんなところで負ける気はないよ」


 リュイは誰にも聞こえないところで独り言ちると、魔力を練り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ