4話 時が満ちるその時まで
ソフィーお嬢様に婚約者がいたなんて、気がつけなかった。俺としたことが、なんと無様だろう。ソフィーお嬢様を寝かしつけ、自室に戻った俺は入ってすぐに蹲った。どれくらい時が経っただろう。窓から差し込む光が明るくなってきていた。いつまでも、こうしている訳にはいかない。
お嬢様の分身だと思っている栞にそっと触れ、話しかける。
これは俺が辛くなった時に必ずする儀式のようなものだ。
「本当は俺だってお嬢様のこと、名前で呼びたい。私が話しかける時にはその飴玉のように素敵な目を輝かせて、俺だけを見てくれる。でもそれは今じゃないんだ」
「この関係性のままじゃ、対等じゃない。俺は執事で、ソフィーはお嬢様。現状それを覆さないことには真に結ばれたとは言えないだろう?」
「この間の夜に庭師と会ってたって問い詰めてたソフィー、一生懸命に俺を脅そうとしてて可愛くて笑いそうになっちゃったよ」
君は本当のことなんて知らなくていいんだ。君の俺への感情が真実になるその日まで、この行いは知られる訳にはいかない。
あの日、俺にくれた優しさを君はもう忘れてしまっているだろう。家族との縁が薄い俺にとって、本当に太陽なんだ。
誰かの物になるくらいなら、もう待っていられない。
ただ、今はまだ彼女の気持ちが完璧に仕上がってはいないだろう。他の男と交流することで、気がつける愛情だってあるはずだ。婚約者なんて当て馬にでもさせてもらう。
「あぁ、可哀想なソフィー。君にとっての感情って一体どれが本当に君自身のものなんだろうね」
「俺が君に魔法をかけているって伝えても、ソフィーは笑って信じないだろうけど」