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3話 信じたくない事実

最近、なぜかお父様がそわそわするようになった。

お仕事が忙しいからかしら。イーサンに何か知らないか聞いても心当たりがないみたい。私の誕生日パーティーって時期でもないし、何か事業で大きな発表でも控えてるのかもしれない。

そんなことを考えていたある日、お父様の書斎に呼び出された。1人で来なさいと言われたが、私はイーサンを連れていくと聞かなかった。いつものことだから、と半ば諦めたように笑って呆れられた。


呼び出された書斎にイーサンと向かう。私の後ろをずっと守るように歩いてくれるのも優しいけれど、私は隣を歩きたい。

ゆっくりと歩みを遅くすると、察したのか歩幅を合わせてくれる。足音の重なり方が、とても心地よい。


「一介の執事に過ぎない私が、御家族との大切な話の場に同席して本当に構わないのでしょうか。今からでも、お嬢様だけで向かわれた方がよろしいのでは?」


「私がいいって言っているんだからいいの!それに、また目を離した隙にこの間の庭師のことみたいなのが起きても困るわ。これじゃ何のためにメイドを全員辞めさせたか分からないじゃない」


「あれは、経費削減の為の人員調整だったと聞いておりましたが……」


「そんなの建前よ!きっとお父様が私に甘いから頼み事を聞いてくれたのね!あ〜やっぱり父親は娘に甘いのね。イーサンには私しか必要ないもの、他になんて目移りさせない。ずっと私の隣にいるのはあなただけよ」


話しながら歩いているとあっという間に着いてしまった。屋敷の中は広いようで狭い。他の部屋に比べて比較的装飾が簡素なのはお父様の趣味だ。コンコン、とノックをすると入るようにと聞こえてきた。


「お嬢様、どうぞお入りください」


「ありがとう。お父様、失礼いたします。お約束通り、イーサンもこの場に同席するわよ」


「あぁ、構わんよ。彼にも知っておいてもらった方が良いからな。伝える時期が変わっただけだ」


お父様はそういうと、手で空いているソファの向かい側に座るように促した。そっとイーサンに目配せをすると、後ろで立っていると言われた。さすがにお父様の前では横に座れないらしい。仕方ないと諦め、お父様の前になるようにソファへ腰掛けた。


「ソフィー、お前ももう立派なレディになったな……。人にはそれぞれ役割というものがあるだろう。これはソフィーの役目なんだ、分かって欲しい」


そういうと私の前にそっと1枚の写真を置いた。そこには、金髪でいかにも王子様というような容姿をした青年が微笑んでいた。これはパーティーで引っ張りだこだろうな。


「あの、お父様これはいったい……?こちらの方がどうかなさったんですか?」


「お前の婚約者だ。お前が嫁げるようになったら、伝えようと思っていたんだ」


時が止まるというのはこういう時に使う表現なのだろう、ふと他人事ようにそんなことを思った。それからお父様は、この婚約は数年前には決まっていたこと、事業が傾き始めたため本格的に今動き始めた話であることを告げていたと思う。正直、半分も頭に入っていなかった。私にはイーサンしかいないのに、いないはずだったのに。イーサンは後ろで立っているため、顔を見られないのが辛い。


「歳の頃もちょうど良い、いつまでも執事にばかり構っていられても困るからな。ひとり娘を嫁がせるのは寂しいが、幸せになれる相手だ。近々うちに寄ってくださるそうだから、2人でゆっくり話しなさい」



そこからは本当に記憶が無い。後からイーサンに聞いた話だと、呆然としながらもお父様には返事をして自室に自力で帰っていたらしい。そこからは倒れ込むように寝てしまったと。

起きたら全部夢であって欲しかったが、どうやら現実らしい。

イーサンに笑顔で婚約を祝福されたら、私は死んでしまうかもしれない。いや死ぬだろう。

そう思い、ふと顔を見ると少し複雑そうな、険しい顔をしていた。何を言ったらいいのかも、どんな顔を自分がしているのかも分からない。今はもう、何が正しくて本当なのかを分かりたくなかった。

ただ、イーサンと幸せになりたいという気持ちだけが今の自分に信じられる本心だった。


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