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第8話 氷の女との再会

「い、いんぐりっど……!」


 クローゼットの前に立っていたのは、この世のものではない何かではなく、生きた人間だった。



 秘密結社アールヴァイスの幹部、『氷華』のイングリッド。



 私達の生活を脅かす敵であるはずの彼女との遭遇に、しかし私は、この上なく安堵してしまっていた。

 そう思ってしまうほど、私はこの城が恐ろしかったのだ。

 対するイングリッドは、何かばつの悪そうな表情を浮かべると、慌てて私から目を背けた。


「ランドハウゼンのアリア皇女だな? その、何と言ったらいいか……私も女だ。心中は察する」


「え……ああぁっ!?」



 その言葉で、私が自分が今、どんな姿を晒しているか思い出した。


 地面に這いつくばっている上、無駄に脚を踏ん張ったせいで、お尻を突き上げた、まるで獣の雌が雄を誘うようなポーズになってしまっている。


 そして……っ……そして何より――




 ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!! ビジャビジャビジャビジャビジャビジャビジャビジャビジャビジャビジャッッ!!


「嫌ぁぁぁぁぁぁ……っ」



 ブルブルと震える腰からは、未だ物凄い勢いで熱いものが溢れ出ている。

 もうクローゼットの中も外も水浸しなのに、限界まで我慢を続けた私のお腹は、半分も軽くなっていない。


 力を入れて止めようとしたけど、無駄だった。

 出すことがあまりに気持ち良すぎて、体のどこも、私の言うことを聞いてくれないのだ。

 待たせ続けた膀胱が許してくれるまで、私は2人に出るところを見せつけながら、失禁を続けるしかない。


 ――カツカツッ。


 イングリッドが、私から少し距離を取った。

 水溜まりが広がって、彼女の具足を汚してしまいそうになったのだ。


「うぅっ……ごめんなさいっ……もうっ……どうにも、止められないの……ああぁぁぁぁ……っ」


「あ、や、済まないっ」


 恥ずかしさと申し訳なさに耐えきれず、私は泣きながら彼女から顔を背けた。

 でも、下腹を中心に荒れ狂う快感と、ビチャビチャと跳ねる水音が、私に現実から目を背けることを許してくれなかった。


 やがて、尿道を下る水の勢いが衰え、公開処刑にも等しい時間がようやく終わりを告げる。



「んんっ、んはぁっ」



 体の芯からの震えに、堪えきれず、はしたない声を出してしまう。

 立ち上がろうと手足に力を込めたが、まだ上手く力が入らない。

 中途半端な位置で体を支えられなくなり、水溜まりにへたり込んでしまった。


 バシャっと、大きな飛沫が跳ねる。


 お尻が……冷たい……っ。



「その……大丈夫か……?」



 イングリッドからの気遣いの言葉にも、何の反応も返せない。

 人前でお漏らしをして、しかもよりによって、ずっと着てみたかった制服を穢してしまったショックは、私の心をズタズタに引き裂いた。


 声を出したら大泣きしてしまいそうで、たった一言『ええ』と返すことすらできない。


「うっ……うぅっ……ひぐっ……うぅぅ……っ」


 でも、いつまでもこうしてはいられない。

 いつ、あの異形が戻ってくるかわからないし、イングリッドとも話をしないといけない。


 それに、マーク君にも謝らないと。

 とてもみっともない姿を見せてしまったし、きっと怖い思いもさせてしまった。



「ぐずっ……マーク君、ごめんなさ――」







 ――え?




 謝罪の言葉は、後ろを振り向いた瞬間、喉に詰まってしまった。




 いない。



 マーク君がいない。



 クローゼットの中には誰もおらず、部屋を見回しても、彼の姿はどこにもなかった。


「ん? どうかしたのか?」


「あっ! ね、ねぇっ、クローゼットの中にいた子供は、どうしたの……?」



「子供?」



 イングリッドは私と違って、周囲の状況が見えていたはずだ。

 でも、そのイングリッドは、私にマーク君のことを聞かれると、キョトンとした顔で答えた。















「クローゼットの中には、最初からお前しかいなかったぞ」






 ゾクン――と、体の奥底から怖気が湧き上がった。


 え、嘘、じゃあ、あれは?


 私はいったい、誰とクローゼットに隠れていたというの?


 あんな狭くて暗い場所で、2人きりで……!






「アと少しダったノに」




 怯える私の耳のすぐ横で、誰かの声が聞こえた。

 無機質なのに不機嫌だとわかる、男の子の声だ。



 その声は、確かに『あと少し』と言った。


 何が? 何が『あと少し』だったの?


 イングリッドが来なかったら、私は、どうなって――



「あっ」


 シュビィィィィィィィィィ……。



 力の入らない尿道は、膨れ上がる恐怖に対してあまりに無力だった。


 一体どこに残っていたのだろう。

 誤魔化しようがない程のおしっこが再び出口から溢れ、巨大な水溜まりを更に大きく広げた。



「うぅっ……ひっく……うっ、うぁぁっ……!」



 水溜まりを揺らす涙は、失禁が終わっても、しばらく止まらなかった。




 ◆◆




「こんなものかな……少しはマシになっただろう」


「ありがとう……その、迷惑をかけて、ごめんなさい……っ」



 イングリッドから渡された下着とショートパンツに足を通す。

 湿った感触は気持ち悪いけれど、それでも彼女の言う通り、気持ちはかなり楽になった。



 あの後、私が動けるようになると、イングリッドは私の体を水の魔術で洗ってくれた。

 しかもどうやっているのか、彼女が出したのは水ではなく、お湯だ。



『水は氷の次に得意だが……これは、この服の力があればこそ、だな。独力では不可能だ』



 と、言っていた。

 その後は、言われるがまま、靴も、下着も、全部脱いで彼女に洗ってもらった。



「それで、あの……このことはっ……その……っ」


「わかっている。誰にも言わないと約束しよう」


「あぁっ、ありがとう……! はぁ……」



 安堵に、胸を撫で下ろす。

 後始末をしてもらったり、こんな情けないお願いをしたり……私は、彼女に対してかなり心を開いてしまっていた。


 死ぬかと思ったら助かって、でも死にたくなるほど恥ずかしくて……そんな状態で体を洗ってもらったお湯の温かさに、気が緩んでいたのもある。

 でも、何よりイングリッドは、表情の乏しさとは裏腹にとても優しくて、まるで歳の近い姉に面倒を見てもらっているような気持ちになったのだ。



「まぁ無理かもしれないが、なるべく気にしないことだ。特にこんな状況ではな。私も恥ずかしながら、先程どうしても我慢できなくなってな……適当な部屋で、その、済ませてしまった……」



 言葉尻から、本当に恥ずかしがっているのが伝わってくる。

 それなのに、私の気が楽になるようにと、わざわざ恥を明かしてくれる。

 本当に、どうしてこんな人が、呪印で世界を支配しようとしている組織なんかに……。


「それにしても、よく私のことを知っていたな? まさか、学園中に顔写真付きで流れているわけではあるまいな……?」


「え?」

「ん?」




 …………あ゛っっ!!



 そうだった、私、変身してない姿だと初対面なんだ!

 危なっ……! なんかもう、知り合いのつもりで話していたわ……。



「あぁぁっ、えっと、そう! 私は、貴女の現役時代の演技を、よく観に行っていたから……!」


「んぐっ!? それは……なんだ、こそばゆいな……」



 ごめんなさい。


 騙しているみたいで、申し訳ないけれど……。

 さすがに、シャイニーティアのことまで、黙っててもらうわけにもいかないでしょ?


 私は、照れるイングリッドに、現役時代の話をしてこの場を誤魔化した。




 ◆◆




 ――アリアが失禁する20分ほど前。



「くぅっ……あぁっ……!」


(トイレっ……トイレはどこだ……!?)



 イングリッドもまた、トイレを求めて、城内を歩き回っていた。

 いざとなれば、野外での排泄も辞さないイングリッドだが、さすがに屋内の廊下や部屋でぶちまけてしまうのは躊躇われた。


 決心がつかないまま、爆発寸前の膀胱を抱えながら、ヨロヨロと歩くイングリッド。

 だが、その我慢も終わろうとしていた。



「ひぃっ、ふぅっ、ひぃっ、ひぁっ……!」


(あぁっ、だめだっ……もうっ、漏れるっ……漏れっ、あぁっ!?)


 ジョォォォッッ!!



 とうとう暴発が始まった。

 彼女の身を包む魔導具『フリージア』の縞々ショーツに、大きな染みが広がった。



(も、もうっ、だめだぁっ!)



 イングリッドは、慌てて近くの部屋に飛び込み、下着に手をかける。


 が――



 ――ペタンッ……ペタンッ……。



「っ!?」



 廊下から、足音が聞こえてきた。

 こんな城で聞くにはあまりに異質な、素足が床を叩く足音。

 間違いなく、イングリッドの部下を食った異形だ。


 下着から手を離し、声が漏れないよう、両手で口を押さえるイングリッド。



(こ、こんな時に……! 早くっ、早く通り過ぎろ……!)



 我慢に我慢を重ねたイングリッドの放尿音は、間違いなく、とんでもない爆音になる。

 そんなものを響かせてしまえば、外にいる何者かに、彼女がここに逃げ込んだことを知らせるようなものだ。

 足音の主が通り過ぎるまで、絶対に放尿は許されない。


 だが、既に限界を超えているイングリッドの体は、彼女にそれだけの時間を許してはくれなかった。



 ジョッ、ジョジョッ、ジュビビビッ! ジョォォォォォッッ!!


(あぁっ! だめだっ! もうっ、止めていられないぃぃっっ!!)



 小水は薄手の下着を突き抜け、イングリッドの脚を濡らしていく。

 やがて下着は半分が濡れそぼり、素通りした小水が床に落ちて、パシャパシャと音を立てた。



(漏れるっ! 漏らしてしまうっ! それにっ、お、音が……!)



 イングリッドは、半泣きになって室内を見回した。

 どこでもいい、放尿の音を遮れる場所はないか。


 残念ながらそんな場所なかったが、彼女は別の答えを見つけた。



(あそこならっ! ま、間に合ってくれぇぇっ……!)



 もう小水は止まらない。

 パラパラと雫を滴らせながら、イングリッドはなんとかそこへ――ベッドへと辿り着く。


 下着を下ろしている余裕はもうない。

 イングリッドはベッドの上に登り、枕を引っ掴んで自分の股に押し当て、そして――



「ん゛っっ!!」


 ジュワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…………。



 大きく体を震わせ、枕の中に放尿を始めた。

 静かな室内に、くぐもった放尿音と、押さえた手の隙間から漏れる、イングリッドの吐息が小さく響く。



(だ……だめだ……あたまが……とろける……き、きもちよすぎて……こえが……!)


「んっ、んふっ、んんっ、んむっ……!」


(まだ……でるぅ……っ)


 シュィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ…………。



 結局、イングリッドは足音の主に見つかることはなかったが、耐えに耐えた熱水の方は、枕一つでは吸いきれず、ベッドに巨大な地図を作る羽目になった。



◆イングリッド

 ※放尿時

 膀胱:大、括約筋:強、124%

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