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第4話 おいていかないで

「トイレっ……トイレはっ……!?」



 新人隊員のルルミラは、トイレを探し城の中を彷徨っていた。


 自分が、1人はぐれてしまったことには気付いている。

 この少し不気味な暗闇の城の中で、まだ研修中の自分が1人でいることは怖くて仕方がない。

 それでも、今にも限界を超えてしまいそうな尿意は、ルルミラに足を止めることを許さなかった。


(初任務でお漏らしなんてしたらっ……また、馬鹿にされちゃう……!)


 ルルミラの訓練生時代の成績は、あまり良い方ではなかった。

 なんとか置いていかれまいと食いついて、卒業時には騎士資格取得ギリギリのラインをキープしたが、同期には能力不足をよく笑われていた。


 研修も兼ねた初任務で、制服をグッショリと濡らして帰りなどしたら、彼女達からどんな目で見られることか……。


(こんなことならっ……やっぱり、外にいるうちにやっちゃえばよかった……!)



 真っ先に野ションを願い出ようとした彼女だが、さすがに建物の廊下や部屋の中での放尿には、なかなか踏み切れない。


 とは言え、我慢も限界だ。

 酷使し続けた括約筋は、いつ敗北を宣言してもおかしくない。


 そして、今ここにいるのは、自分一人だけ。



(ご、ご、ごめんなさいっ! 後でっ、ちゃんと掃除しますから……!)



 もともと膀胱が小さく、括約筋も大して強くないルルミラは、トイレに行きづらい野外訓練では野ションの常習犯だ。

 その度に同期から呆れ顔を向けられたものだが、いざという時の思い切りだけは鍛えられた。


 意を決して、ショートパンツに手をかけるルルミラ。


(こ、これで、お漏らしだけは……!)


「お姉ちゃん?」

「ふぃっ!?」



 突如声をかけられ、ルルミラは慌ててショートパンツから手を離した。

 ……驚いたせいで、少しだけ下着を濡らしてしまった。


 片手で出口を押さえ、身を捩りながら声のした方に目を向けると、そこには水色の髪をツインテールに纏めた、7~8歳くらいの少女が立っていた。


「え、貴女……んんっ! だ、誰……?」


 行方不明になったという子供に、女の子はいなかったはずだ。

 それにこの少女の着ている服は、山遊びをするようなものではなく、まるで病院の入院患者が着る検査着のよう。


 不信感を募らせるルルミラだが、しかし今は、それ以上に緊急を告げる問題がある。



(お、おしっこ……おしっこ出そうっ! ど、どうしよう……!)



 大人として、騎士として、幼子に情けない姿は見せたくないが、左手は出口から離せず、もじもじと動く脚も止められない。

 それどころか、発射準備に入った水鉄砲は、今にもこの少女の前でその引き金を引いてしまいそうになっている。



「ああ、あ、あのっ、お姉ちゃん、ちょっと、あ゛っ!? だ、大事なっ、用が、あ、あ、あぁっ! す、すこしだけっ……まってて……!」


 彼女を置いて、この荒れ狂う熱水を解放しようとするルルミラ。



 だが――



「行っちゃうの?」


「す、すぐ、すぐ戻るから……!」


「私を、置いていっちゃうの?」


「あ゛あっ!? そ、そんなことっ、しないから、ん゛はぁっ! お、お願いっ! お姉ちゃん、漏れ――」




「置いてイくツモりナんダ」


「え……っ」



 少女の声が、『ブレ』た。

 この時になってようやく、ルルミラは少女が、闇の中でやけにはっきりと見えることに気がついた。

 少女の姿をした、得体の知れない何かが、今まで伏せていた顔を上げていく。


「あ、あのっ、わたし、ただ、おしっこを」


「ユルサナイ」


 少女の顔が、ルルミラに向けられる。

 白黒の色が逆転した目が、憐れな新人隊員を捉えた。



「ひいぃああぁっっ!!?」



 動転し、尻餅をつくルルミラ。



(あ、でちゃ――)


 突如叩きつけられた恐怖、そして尻餅の衝撃で、限界を超えていた膀胱はあっさりと崩壊し、ジョバジョバと小水が溢れ出す。

 股を濡らす生暖かい感触に、一瞬羞恥に思考を奪われるルルミラ。

 だが、彼女は羞恥に赤らめた顔を、すぐに真っ青に染め直すことになる。


 いつの間にか、ルルミラを見下ろす少女の背後に大勢の子供が並んでいたのだ。

 彼らは何れも、体の何処かを失うか歪に変質させていて、その全員が少女と同じ色の瞳で、彼女を見下ろしていた。



「行カセナイ」


「逃ガサナイ」


「許サナイ」


「帰サナイ」

「帰サナイ」

「帰サナイ」

「帰サナイ」



「あああぁぁぁっ……やめてっ……許してっ……!」



 呪詛を囁きながら、ルルミラに迫る子供達。

 ルルミラは、水溜まりを広げながら後ずさるが、力の入らない足は、満足に体を動かしてはくれない。

 やがて、彼女の周囲は、完全に子供達に取り囲まれた。


 目の前に立つのは、一番最初に見つけた少女。



「置イテ行カレタ……置イテ行カレタ……置イテ行カレタ……置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタッッ!!」


「嫌ああぁぁっっ!! 嫌あああぁぁぁぁぁっっ!! わ、わかった! わかったわっっ!!」


「置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ行カレタ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ置イテ」





「置いて行かないからっっっ!!!」




 それは助かりたいがための、嘘だらけの苦し紛れの叫び。

 だがその叫びと共に、ルルミラに向けられていた呪詛はピタリと止まった。


 もしかしたら、少女はこの言葉が聞きたかっただけなのかもしれない。

 そんな、胸に浮かんだ希望に、ルルミラが涙に濡れた顔を少女に向ける。



「ひっっ!!」



 ルルミラを見下ろす少女の顔は、とても少女とは思えないほど、ぐしゃくじゃに歪んだ笑顔だった。






「約 束 守 ッ テ ネ、 オ 姉 チ ャ ン」



 漏らした順に死んでいく予定ではなかったんですが……。


◆アリア

 膀胱:大、括約筋:強、90%

 ちびり小


◆ジネット

 膀胱:中、括約筋:強、94%


◆副長

 膀胱:小、括約筋:普、104%

 ちびり中


◆ルルミラ(新人ちゃん)

 ※失禁時

 膀胱:小、括約筋:弱、108%

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