第1話 秘密結社の騒乱
!!注意事項!!
第七章はホラーです。
どうしても、『ホラー×お漏らし』が書きたかったんです。
なので、『ホラーは読めん!』という方へ。
『※第七章のホラー部分のダイジェスト』というタイトルで、まとめ話を掲載しています。
お手数ですが、いったん目次に戻って上記の話から読み進めて下さい。
「イングリッドからの連絡は?」
「未だ、音信不通です……」
「んー……まいったね……」
秘密結社アールヴァイスの首領ゼフ・ディーマンは、彼にしては珍しく、本気の困り顔を浮かべていた。
事の発端は2時間前。
捜索に出た幹部達から、待望の『城』を発見した、との連絡が届いたのだ。
『城』は、アールヴァイスの最終目標である、呪印による世界征服に係る技術が眠っているとされる、神代の遺跡。
発見できたこと事態は、非常に喜ばしい。
問題は、別の場所を探索していたはずのイングリッド、アシュレイの2名が、ほぼ同時に発見の報告をしてきた、ということだ。
何か薄ら寒いものを感じたゼフは、直ちに待機を指示した。
だが一歩遅く、イングリッドの班は通信途絶。
通信が繋がったアシュレイが、普段の彼女からは考えられないほどに怯えた声で、こう告げてきた。
『あそこには何もない』
『何人か取り込まれた』
アシュレイは、魔力、そして霊子力に対する知覚の優れた闇精霊。
彼女の言う『何もない』とは、そこに一切の霊子力が感じられない、ということだ。
幻覚……というレベルの話ではない。
幻覚であっても、それを成すための力は必要だし、そもそも霊子力は大気中のどこにでも存在する力だ。
全ての物質、エネルギーの根源、そして全てが還る先、などと言われたりもしている。
だが城の周囲には、その霊子力が存在しないと言う。
すなわち城のある空間は、この世界の理――創生と破壊の循環から外れた別の世界、ということになる。
「少し、甘く見ていたかな……『呪いの城マリアベル』」
アールヴァイスが追い求めていた『城』――『呪いの城マリアベル』は、これまで何人もの人間を行方不明に至らしめた、謎の自然災害だ。
運良く発見された者達は例外なく精神を壊しており、彼等が共通して、森の中に佇む不気味な城の存在を口にしたことから、『呪いの城』の名で呼ばれるようになった。
被害者の数は少ないながら、発生の予測ができず、対策もできないこの現象を、ギルドは魔王と同等の脅威と定めている。
アールヴァイスがこのマリアベルを探していたのは、目的の施設と高いレベルで外観が一致していることが判明したからだ。
……生還者に適当な城の写真を順番に見せたところ、全員、目的の施設が目に入った瞬間、恐慌状態に陥ったのだ。
「僕行こうか? 神父様」
「ジャン……」
迷子の子供を探しに行くようなテンションのジャンパール。
やり過ぎるところ以外は、彼に全幅の信頼を寄せているゼフだが、今回ばかりは事情が違う。
ジャンパールは強い。
だが彼の強さは、あの世界でも強さたり得るのか。
ガウリーオが捕われた今、ジャンパールを失えばアールヴァイスは戦力的に一気に苦しくなる。
ゼフは悩み、そして――
「行ってくれるかい、ジャン。悪いけど、帰って来れる保証はできないよ?」
マリアベルに眠るとされる資料がなければ、アールヴァイスの目指す、呪印による全人類の支配は泡沫と消える。
ゼフは、冷静に冷酷に、優先順位を定めた。
「だいじょーぶ。アシュレイのとこで、色々試してから行くよ。あの人ビビっちゃったけど、境目くらいは見れるでしょ?」
「……わかった。資料を持ち帰ってくることを、最優先で頼むよ。先に囚われたみんなについては……無理そうなら、置いてきて構わない」
「はーい」
あくまでも、余裕の態度を崩さないジャンパール。
果たして彼は、その余裕のまま、無事に資料を持ち帰ることができるだろうか。
マリアベルの世界からの生還者は、確かにいる。
だが、少なくとも、話の聞けた者は例外なく――
――城に、足を踏み入れてはいないのだ。