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第5話 真説・聖水皇女の夏休み(後編)

 男達は海岸を東に抜けて、人気のない岩場を進んでいく。

 最初のうちは、そのことに不安を覚えていたアリアだったが、数分も歩くとそれどころではなくなってしまった。


 いよいよ尿意が限界に達し、不安定な足場でバランス取るだけで、精一杯になってしまったのだ。

 一歩踏み出す度に膀胱が揺さぶられ、この場で中身を出してしまいそうになる。



「はぁーっ、はぁーっ、ひっ!? ふぅぅぅっ……んっ、く、あっ、あぁ……!」



 脚の付け根の前に左手を添え、その裏では、右手が強く出口を押さえ込んでいる。

 必要量を遥かに超えて摂取してしまった水分が、もう満タンの膀胱を更に更に膨らませていく。

 強い波が来る度にアリアの水門は開きかけ、水着の出口付近には、乙女として許されない湿りが広がっていた。



(ま、まだ? まだなの? トイレっ……早くっ、トイレ……!)



「で、ティアちゃんは1人で来たの?」


「え……あ、あのっ……んんっ……と、友達、と……あとっ、かっ、あぁっ……彼氏もっ……あ、あんまり……はなしっ、かけない、で……!」



 男達の機嫌を損ねるのはまずいと、最低限の受け答えはしていたが、もうそれすら苦痛になってきている。

 名前を聞かれた時、咄嗟に変身後の偽名を言えたのは奇跡だった。


 グレンの存在を『彼氏』と言ったのは、勿論知らないのをいいことに願望を言ったわけではない。

 『男がいる』と思わせることで、少しでも自衛になればと思ったのだ。


(ごめんなさいっ……グレン君っ……! でもっ……怖いの……!)


「えーっ! ティアちゃん彼氏いんのっ!? でも、どーせパッとしない男でしょ? 俺に乗り換えなよ♪」


「ふざけっ――あぁはぁっ!?」


 ジョジョッ!



 突然肩を掴まれ、予想外の刺激にまた小水が溢れてしまう。

 絶賛片思い中の相手を悪く言われ、怒りを沸騰させたアリアだったが、下腹に湧き上がる排尿衝動に、抗議の言葉は悲鳴に塗り替えられてしまった。


「揺らさないで……! で、出ちゃっ……あぁっ、やめてっ……!」


 チョロ……チョロロ……。


(だ、だめぇ……出口、開いちゃう……! おしっこ……おしっこ出ちゃうっ……!)



 膀胱が揺らされ、増大した水圧が固く閉ざされた水門をこじ開ける。

 尿道を小水に擦られる破滅的な快感に、アリアはついに、男達の前で両手を出口に持って行ってしまった。


「あ……くっ……! ま、まだ!? トイレっ、まだなの!? 私っ、そのっ、本当は、もう……!」


 引き伸ばされた膀胱の壁の様な、薄皮一枚残っていた虚勢も剥がれ落ちた。

 まだ警戒を解けない、自身の手綱を握られてはいけない相手に、我慢の限界を超えかけていることを白状してしまった。


 一刻の猶予もないことを全身で伝えるアリアに対し、男達は不気味な程に軽い表情を崩さない。


「大丈夫だって、もうすぐだから♪ ほら、あのデッカい岩あるっしょ? あれ左に曲がったら、もうトイレ見えるから」


「本当!? 本当ね!? う、嘘だったら……許さ、あっ……ゆる、さっ……な……あぁぁぁ……だめぇ……っ」


(あぁっ、ま、まだよ、まだっ、待って……! まだっ、出ないでっ!)



 『そこにトイレがある』という情報に、アリアの全身は一足早く放尿の準備を始めてしまった。

 膀胱が収縮を始め、括約筋がしきりに力を抜こうとする。


 次の瞬間には迸りそうになる乙女の恥を、最後の力を振り絞り押さえつけるアリア。

 ヒョコヒョコと、今にも脚を止めてしまいそうになりながら、何とか大岩を通り過ぎ、視界の中心にそれを捉えた。




「あっ、あぁぁっ! ト、トイレっ、トイレぇっ! もうっ、ダメえええええぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」



 狂おしいほどに待ち望んだ、赤いと丸と三角のマーク。

 その圧倒的な魔力は、ギリギリのところで保っていた、アリアの最後の理性を吹き飛ばす。


 絶叫を上げながら、トイレに向けて駆け出すアリア。

 両手で出口を押さえたまま、今にも崩れ落ちそうな内股走りだ。

 水門が開きかけているのか、水着の染みは尻の穴の下くらいまで広がっている。


 それでも、なんとか本格的な決壊に至る前に、アリアはトイレまで辿り着いた。

 扉を開けると、夢にまで見た白磁の便器が視界に飛び込んでくる。

 確かに少々汚いが、今のアリアはそれがトイレであるならば、時代に取り残された汲み取り式であっても構わず腰を下ろすだろう。


 顔面に、失態を免れた安堵が急速に広がっていく。




(あぁぁっ! 間に合っ――)


「ティーーアちゃん♪」

「んああぁっ!?」



 あと一歩。あと一歩でトイレに足を踏み入れるところまで来ていたアリアに、男の1人が後ろから抱きついた。


「置いてっちゃうなんて、寂しいなぁ。ここまで連れてきて上げたのに~」


「ご、ごめんなさいっ! でもっ、私……ああぁっ! は、話は、後でっ……は、離してぇっ!」


 便器を目の前にして、アリアの下半身は秒読みを始めてしまった。

 迫り来る大放水は、もう止めることはできない。

 何とか男を引き剥がそうともがくアリアだが、腕も脚もガクガクと震えるばかりで、全く力が入らなかった。



「そんなこと言って、おしっこしたら帰っちゃうでしょ? 先に『お礼』が欲しいなぁ~」


 やはりというか男達は、アリアをただで返すつもりなどなかった。


 アリアの様子を見つつ、道順を変え遠回りをして、抵抗できない程に尿意が高まるのを待った。

 そして、我慢の限界に達した女が一番油断するであろう、便器を目の前にした瞬間を狙って、ついに牙を剥いたのだ。



「んはぁっ! や、やめっ、そんな、だめっ!」


 アリアに抱きついた男が、その右手でアリアの胸を揉みしだいた。

 悍ましい感触に、本格的な貞操の危機を予感するが、今のアリアにはそれ以上に差し迫った問題がある。



「ほんと、やめっ、そこ、痺れてっ……! で、出ちゃっ、あぁっ!」


 ジョォォォッ!



 尿意で敏感になってしまった体が、虫同然の男の手つきにあっさりと反応し、下腹が緩んでしまったのだ。

 水着に溢れ出す水流。アリアはたまらず、男を引き剥がしていた手を出口の戻し、全力で蓋をした。

 抵抗を無くした獲物に、男は大喜びで右手を動かす。


 最も無防備になるはずの、放尿の瞬間を狙わなかったのはこのためだ。

 尿意を堪えたままの方が、相手の抵抗は弱くなる。


 放尿中は確かに襲いやすいのだが、もう出てしまっているからと、開き直って抵抗してくる女も少なくない。

 過去にはそのせいで失敗して、憲兵の世話になった手痛い経験がある。

 以来男達は、襲う際は放尿前の、ギリギリで止められるタイミングを狙うようになったのだ。


 加えて、我慢中の女を狙う理由がもう一つ。



「そっかそっかぁ~。ティアちゃん、もう我慢できないんだ? じゃあ、こんなことされたら、どうかなぁ?」


 男はそういうと、アリアを抑えていた左手を下にずらし、臍の少し下、ぽっこりと張った下腹をポンっと叩いた。


「くはあぁぁあっっ!!?」


 ジョォォォォォォォッ!



 外部からの押し出す圧力に、ボロボロの括約筋が悲鳴を上げる。

 勢いよく小水が飛び出し、一瞬で水着の吸水限界を上回った。

 吸いきれなかった小水が、小さな川となって太股から流れ落ちる。


「やめてっ、やめてぇぇっ……! お腹っ、押さないでぇ……!」


 ポタポタと小水を床に滴らせがら、尻を振って本格的な決壊を耐えるアリア。

 その姿に、男の顔が邪悪に歪む。



 そう、この男もまた、尿意に悶える女性に欲情する『聖癖』持ちだ。


 トイレの前で震えている女を連れ込むもの、この男の発案。

 ここに至る道中、懸命に失禁を我慢するアリアの横で、この男も襲い掛かりそうになる衝動を、ギリギリで押さえつけていたのだ。



「おー、頑張るねぇ。ティアちゃんは何回我慢できるかな? ほら、にー、さーん」


 ――ポンッ! ポンッ!


「あ゛ぁっ!? やめ゛っ、ん゛んっ! まって、おねがっ、ああぁっ!? とまらないっ! もれるっ! もれるぅっ!」


 ジョォォォッ! ジョォォォォォッ!



 男が膀胱を叩く度、アリアの出口からまとまった量の小水が溢れ出す。

 その反応に気を良くした男は、叩く手に更に力を強めた。


「ごーっ、ろーっく」

「あ゛ぁーーーーっっ!! あ゛あ゛ぁーーーーーっっ!!」


 ジョォォォォォォォォォォォッ!



(あぁっ……もう……だめ……っ)



 もう閉まらない尿道。振り上げられた手。

 既にびしょ濡れの下半身。


 目の前に迫った大失態に、アリアはそっと目を瞑り――



「しーっあぶろっ!?」



 次の瞬間、アリアその場に縛り付けていた男の腕が、するりと解けた。




「アリアっ! 行け!」


「あああぁあぁぁぁあぁぁあああぁあぁあぁっっっっ!!!! でるううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっっっ!!!!」




 アリアの背後から届いたのは、いつだって絶対に自分を助けてくれる、でもある意味では、今一番会いたくないヒーローの声。

 その声に勇気――ではなく、絶対に漏らすところなど見られたくないという羞恥心を刺激され、アリアは崩れそうになった脚を必死で動かした。


 便器を跨ぎ、水着を脱ごうと手を動かせば、押さえを失った出口からジャバジャバと小水が溢れ出る。

 ようやく水着を下ろすことができた時には、アリアは我慢し続けていたものを、1/4ほど出してしまっていた。


 そして――




 ブジィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッッッ!!!!!


「んはああぁああぁぁぁああああぁぁあああぁぁぁぁあああぁああぁああぁあああぁあああぁあぁぁぁぁあああぁぁあぁぁぁ……っっ!!」



 我慢に我慢を兼ね、耐えきれずに出始めてしまってもまだ我慢を強いられた小水が、ようやく、念願の最大出力で迸った。

 相も変わらず超高水圧のゴールデンブレスは、明らかに老朽化しているこの便器など、貫通させてしまいそうな程の大迫力だ。

 白磁の上げる甲高い悲鳴を聞きながら、アリアは、全身を駆け巡る凶暴な解放感に打ち震えた。



(あぁ……だめっ……きもちいい……あたま……とけるぅ……)



 快感が許容量を超える度、ビクンと体が大きく跳ねて、ブレスの照準が便器から外れそうになる。

 だがそんなものは、今アリアが感じている安堵と快感に比べれば瑣末ななことだ。

 例え水流の半分が壁にぶちあたろうとも、アリアが下腹の力を入れ直すことはなかっただろう。



「んんふぁああぁぁあぁああぁ……っ! くひいいぃぃいいぃいいいぃぃいぃぃぃいいぃいぃぃいいぃぃぃいいいいぃぃ……っ!」



 精神は加速度的に高調し、口から漏れる音量が大きくなる。



(だめ……こえ……おおきい……きこえちゃう……っ……ぐれん、くんに……とびら……うすい……とびら……扉っっっっ!!!?)



 アリアの意識が、急速に正気を取り戻す。

 快感に上気していた顔面は、一瞬で真っ青に。

 しゃがみ込んだ姿勢のまま、アリアはバッと後ろを振り向いた。




 グレンに助けられた時、実のところ、アリアの水門は完全に決壊していた。

 下半身と、トイレの床を水浸しにする大失態は、どうやっても避けられない。

 ならばせめて一滴でも多く、正しい場所に、正しい作法で、もう止められなくなってしまった熱水を収めたい。


 そんな、粉々に砕けったら乙女の尊厳の最後の一欠片を守るため、アリアは『恥』を撒き散らしながらも、便器を跨いだのだ。




 ――扉を閉める余裕など、あるはずはなかった。



 シュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!



「あ……あ……あぁっ……あぁぁっ!」



 振り返ったアリアの目に飛び込んできたのは、開け放たれた扉と、その向こうに広がる青い海。

 そして、最前列でアリアを呆然と見つめる、ヒーロー兼想い人。



「嫌……っ……嫌ぁ……っ!」



 向かい合う2人。だが、その視線は交わらない。

 グレンの目は、アリアの顔ではなく、その更に下――




 ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!

 ビジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!




 金色の濁流が噴き出す出口を、まじまじと見つめていた。




 ――い゛や゛あ゛あ゛ぁぁあ゛あぁぁああぁあぁぁあああぁぁぁあぁあああぁあぁあああぁあぁぁああぁああああぁぁぁあぁぁあああぁぁっっっっっ!!!!!


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