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第21話 ゼフ先生のお悩み相談室・相談者人族G君の場合

「君、お悩み相談とか来る人だったんだ」

「喧嘩売ってます?」



 今日のお客様は予想外の人物。2年生男子、人族のG君です。


「いやいや、決して悩みが無さそうとか思ってる訳じゃなくてね? 君は、悩みを溜め込まないタイプかと思っていたから」


 G君はなんというか、とても安定している生徒だ。


 いや、決して穏やかなタイプではないし、どちらかというと荒い方に片足突っ込んでるんだけどね。

 感情の処理の仕方が、抜群に上手いんだ。自分の中で消化したり、外に向けて小さく放ったり。

 溜め込まないで、上手に処理している。正直、10代としては異様と言っていいレベルかな。


 悩みもそんな感じで、さっさと解決させてるイメージだったんだけど――



「まぁ、確かに。でも今、相談できるおっさん枠がいないんですよ。親父は通信機使わないと話せないし」


 ご実家はウィスタリカ協商国だったかな?

 そんなに遠くはないし、間のランドハウゼン皇国含めて同盟国だから移動も簡単だけど、だからって学園に通える距離じゃないからね。


「なるほど、そうゆうことなら、任せておいて。おじさんが話を聞こう。で、どんなお悩みだい?」


「実はさ――」



 ふむふむ、なるほど。


 何やら、先日のアールヴァイスによる学園襲撃のあと、とある女の子Aさんといい感じになったらしい。


 ふむふむ、ふむふむ!

 それで、それで……最後は膝枕!!



「これ、イケる感じ? 俺の勘違いじゃない?」


「I・KE・RU・YO!!!! 絶っっっ対イケるっっ!! というか、その場で押し倒してもイケたよ! アリアさん押しに弱そうだし!」


「おしたおっ!? アンタ、ホントに聖職者っ!? あと匿名性!」



 なんちゃってだから! あと多分、聖職者としてもなんちゃってだから!


 にしても、いいねっ、青春だね!!


 アリアさんも頑張ったじゃないか。それに引き換え、グレン君はちょっと情けないぞ?

 押し倒すのはやり過ぎでも、チューぐらいはするべきだ。


 なるほど、この子の弱点は恋愛か。でも、それもまた、甘酸っぱい!


「とにかく、女の子がここまでやってるんだから。ヘタレていたら、失礼だよ」


「ヘタレで悪かったですね……! アリアはほら、1人エゲツないライバルがいるじゃないですか?」


「あぁ、『グレン様』。同じ名前とか、災難だよね」



 グランディア決戦、そしてアリアさんの英雄。


 『(しろがね)の魔人』グレン・グリフィス・アルザード大尉。


 でもね、グレン君。アリアさんの気持ちは、もう殆ど君の方に傾いてるよ?

 数ヶ月とはいえ、いつも隣にいた自分を信じなさい。


「面白がってんな……? まぁ、でも、ちょっと頑張ってみますよ。あぁ、あともう一つ」


「はいはい、何かな?」









「アールヴァイスの首領って、本当は何がしたいんだと思います? 『神父様』」










 ――本当に、恋愛が絡まないと、怖い子だね。




「『呪印で世界征服』って言ってたんだよね? それが、嘘だと?」


「耳が早いですね。嘘ではない……でも、そこで終わりじゃない。その先に、何か、凄く重苦しいものを感じたんですよ」


「なるほど……でも、僕も面と向かって話したことはないからね。済まないけど、僕に言えることはないかな」


「……そうですか。じゃあ最後に、指名手配の聖人について――」

「大司教様」


「あ、リグリット」


 見つかっちゃったね。いや、今日は見つけてくれてよかったかな?

 暗幕越しなのに、グレン君から、微塵切りにされそうな視線を感じたからね。


「グレン君、悪いんだけど……」


「ええ、忙しいのに、長々ありがとうございました」


 そう言うと、グレン君は意外と素直に去っていった。

 去り際に、リグリットの顔を一瞥して。


 リグリットが美人で、デレデレしてたらアリアさんに言いつけちゃうところだけど……残念ながら違うね。


「大司教様、彼は……」


「うん、『気付いてる』。気を付けてね」


 リグリットが険しい視線を、グレン君が去った方に向ける。

 お悩み相談室……ちょっと控えた方が良さそうかな。




 ◆◆




 入り組んだ裏路地の奥深く。

 何の変哲もない小屋の中に、微かな魔導の光が灯る。

 光が数枚の床板に伝わると、それらの床板がスーッと左右に分かれていく。

 床板の下から現れたのは、地下へと続く階段だ。



「やっぱりいいね、『秘密基地』って感じがして!」


「何度も何度も何度も言っておりますが、お静かに願います、大司教様」



 如何にもなギミックを見て子供のように目を輝かせるのは、聖導教会大司教、ゼフ・ディーマン。

 教会の大司教がこんな人目につかないところにいるところを見られれば、何かよからぬことをしていると、勘繰られるだろう。

 秘書のリグリットはギロりとゼフを睨みつけるが、効き目がないのもわかっており、すぐに呆れ返った視線を向ける。



「ごめんごめん。男の子は、こうゆうのに弱いんだよ」


「もう男の『子』という歳ではないと思いますが……はぁ、人目につく前に、降りましょう」


「はーい」



 連れ立って階段を降りる、ゼフとリグリット。


 建物2階分ほど降りると、次に現れるのは狭い廊下。

 そこを抜け、少し大きめの扉を開けると、魔導の明かりに照らされた、地下神殿が姿を現す。



「グレン少年については、如何致しますか?」


「今のところは様子見でいいよ。すぐに何かをしてくる感じではなかったし。学園には近付きづらくなっちゃったけどね」


「承知いたしました。一応、様子だけは探らせるよう、指示を出して起きます」


「ありがとう。いつも助かるよ、リグリット」


「『閣下』、もう本部内です。切り替えを」


「おっと、そうだったね」



 『じゃあ』と、ゼフは普段のふわふわとした感じより、幾らか表情を引き締める。



 そして――




「これでいいかい? イングリッド」


「よろしいかと、首領閣下」




 ここは、秘密結社アールヴァイス、ベルンカイト本部。

 大司教の仮面を脱いだゼフは、幹部のイングリッドを連れ、大廊下を歩いていく。

 そして、他の幹部たちの集う、礼拝堂の扉を開けた。



「みんな、またまた集まってもらって、すまないね」



◆次章予告


 水着&温泉回だ。

 それ以上言うことはない。


 次章、聖涙天使シャイニーアリア。


第六章 熱闘! 聖水皇女の夏休み


 ――来て……背中、流してあげる。

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