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第15話 その紋章を押さないで……!

 教室に飛び込んだアリアが、勢いのままアシュレイの黒鎖を蹴りつける。

 密集していた鎖は、その衝撃を連鎖的に受け取り、狙いを大きく外して教室の壁や天井を打ち付けた。


 だが――



「ああぁぁっ!?」



 暴風のような鎖に全力でぶつかったアリアは、反動で大きく弾き飛ばされてしまった。

 背中から壁にぶつかり、そのままずり落ちて膝をつく。


「……ティ……ア……っ」

「無茶を……して……!」


 相当なダメージだったのか、全身が震えている。

 だが、もうか細い声しか出ないのに、それでも自身を気遣う2人の姿に気持ちを奮い立たせるアリア。

 そうして何とか立ち上がり、アシュレイを睨みつけた。



「貴女は……ヴァルハイト達が言っていた魔法少女かしら? 聞いていた特徴と、若干違うようだけど」


「そ、それは……っ」



 アシュレイの言う通り、アリアの姿は、いつものシャイニーアリアとは些か違っていた。


 胸元のリボンがなく、ニーソックスもなくなり、脚全体が剥き出しになっている。

 長手袋も左側だけ。ルミナスハンドも出せていない。


 シャイニーティアの起動はできたものの、その姿は、とても完全復活とは言えないものだった。



(どうして、こんな状態に……っ。私がまだ、あの人を怖がっているから……?)


 アリアが変身できなくなった原因が、アシュレイや戦いに対する恐怖だとしたら、この姿になった理由も説明がつく。

 エルナとロッタの悲鳴を聞いて、2人の死をイメージしてしまったアリアは、無意識のうちにシャイニーティアを起動させていた。


 が、それは決して恐怖を克服できたからではない。

 敵への恐怖を、『親友を失う』という別の恐怖で押し流した結果によるものだ。


 この中途半端な変身は、まだ心のうちに恐怖を残した、アリアの不安定な精神状態が表面化したものなのかもしれない。



「まぁいいわ。もう、あの子を見つけるのも無理そうだし……貴女、代わりになって頂戴」



 尚、そんな状態でも、認識阻害バイザーだけは何とか出すことができた。

 アシュレイは、まさか目の前の少女が自身が追い求める『あの子』だとは思わず、全力の黒鎖を浴びせかける。


「くぅっ……!」


 それを受けるアリアには、一切の余裕がない。

 何とか躱してはいるが、とにかく動きが鈍いのだ。

 いつものように、柔軟性を活かした回避もできておらず、逃げるだけで精一杯といった感じだ。


 それもそのはず。今のアリアの状態……中途半端なのはコスチュームだけでは無い。

 各種強化の出力は落ちているし、肝心のフィールド無効化も完全ではない。

 全てが魔導具の強化頼みでは無いとはいえ、今のシャイニーアリアの戦闘能力は、普段の6割程度まで下がっていた。


 それに、アリアの動きを妨げるのは変身不全だけでは無い。

 ギリギリで鎖を躱していたアリアが、突如ブルッと震え足を止める。


 当然、アシュレイはそれを見逃さない。

 次々と鎖を叩き込まれ、アリアは避けることすらできなくなった。


「くっ、はっ、うぅっ! こ、このっ、くぅぅっ!」


 観念して鎖を迎え撃つアリアだが、何故か得意の足技を使わない。

 何かを耐えるようにピッタリと脚を閉じ合わせ、腕だけで攻撃を防ごうとしているのだ。


 本領ではない手技だけで、アシュレイの猛攻を防げるはずもない。

 体を鎖が打ちつけるたび、アリアの口から悲鳴が漏れる。


「くぅっ! うぁっ! あっ! 嫌っ、あっ!? あああぁぁっ!?」


 が、その声には苦痛より、何か切ない響きが多分に含まれていた。



 変身してからアリアは、とにかく2人を助けようと、一目散にここまで駆けてきた。


 脇目も振らず――勿論、トイレにも寄らずに。



(だ、だめっ……! このままじゃ私……!)



 アリアは、下腹に致命的な爆弾を抱えたまま、戦いの場に飛び込んできてしまったのだ。



(ここで漏らしちゃうっ……!)



 一歩踏み込む毎に出口が痺れ、鎖が当たれば衝撃で耐えていたものが出てしまいそうになる。

 実際、もう何度か浸水を許してしまっており、レオタードの股布には、卵くらいの染みができてしまっていた。



「ほらほら、どうしたの? ヴァルハイトやイングリッドからは、もっと強かったように聞いているけど」


「くっ、うぅっ! あぁぁっ!? だ、だめっ、んんっ!」



 アシュレイの煽りにも、言い返すことができない。

 できるのはヨタヨタと後退りながら、必死に頭と、そして膀胱への致命打を防ぐことだけだ。


 実際のところ、今アリアが下腹に抱えている水量は、彼女の限界からすれば7割程度。

 それでも辛い我慢は強いられるが、本来なら、数々の苦難で鍛え抜かれたアリアの括約筋を突破できる量ではない。


 だが、今は事情が少し違う。


 本来そのくらい小水が溜まれば、膀胱が膨らみ多少の余裕が生まれるのだが、アシュレイへのトラウマでその膀胱が強張り、壁が広がらなくなってしまったのだ。

 なので、現時点でアリアの膀胱には、もう一滴分の入る隙間もない。


 アリアの我慢は、限界に達していた。



「ふぅぅっ、あっ!? ま、待って! やめっ、出っ……くぅぅっ!」



 ダメージよりも膀胱への衝撃に耐えきれず、ついに敵に静止を願い始めてしまうアリア。

 だがそれは、アシュレイに本当に一切の余裕がないことを伝える結果にしかならない。


 反撃はないと踏んだアシュレイは、攻撃に回していた鎖を数本、背後から忍び寄らせる。

 そしてある程度まで近付くと、鎖は一瞬で、アリアの両腕を縛り上げた。


「あぁっ!? し、しまった!」


「ふふっ、捕まえた」


 鎖に両腕を持ち上げられ、宙に吊り上げられるアリア。

 浮かされたことで踏ん張りが利かなくなり、脚がモジモジと動いてしまう。


「あら? もしかして……」


 その様子と、ここまでの戦いでの縮こまった動き、そして切なげな悲鳴から、アシュレイはとうとうアリアの不調の1番の原因に思い至った。



「貴女、おしっこしたいのかしら?」


「っ!? ち、違うっ! 違うわっ! お、お、おしっこなんて、私、別にっ……!」



 アシュレイの言葉を、反射的に否定するアリア。

 この女が、獲物がトイレを我慢しているなどと知ったとき、何をするかは身に染みてわかっている。

 それに何より、敵に漏らしそうになっていることを知られるなど、アリアにとっては耐え難い恥辱だ。



「ふぅん……じゃあ、その脚の動きは何かしら?」


「こ、これはっ、そのっ……別に、トイレなんかじゃ……!」


(だ、だめぇ……! 止められない……っ!)



 だが、いくら言葉で否定したところで無駄なこと。

 忙しなく擦り合わされる脚が、顔面の脂汗と涙が、アリアがもう限界であることを知らしめてしまっている。


「強情ね……私が前に遊んだ子は、もっと素直だったわよ?」


 勿論、どちらもアリアである。


 ただ紅扉宮でアリアがアシュレイに捕まった時は、『白状すればトイレに行かせてもらえる』と思っていのだ。

 だからこそ、アリアは恥を偲んで尿意を認め、トイレを懇願した。



『おしっこ、おしっこですっ! おしっこがしたいんですっっ!!』



 その結果返ってきたのは、『ここでしていいわよ』という、あまりに非情な答えだった。


 ――もう絶対に、この女相手に尿意を認めたりはしない。


 そう思い、必死に括約筋と気持ちを締め上げるアリア。

 そんなアリアに、アシュレイは笑みを崩さず手を伸ばす。



 狙いは勿論――膀胱。



「な、何をっ……やめてっ!」


「だって、気になるんですもの。おしっこのことは、『ココ』に聞くのが1番だし。ねぇ?」



 そこは、今アリアの体の中で、1番刺激を与えてはいけない場所だ。

 アシュレイは、ちょうどその膀胱の所に浮ぶ、金色に輝く紋章に指を突き当て、ツンツンと(つつ)き出す。


「んんっ! くっ……! や、やめてっ……あぁっ」


 今、アリアの膀胱はうまく広がらない状態で、壁は厚いままになっている。

 腹の上から少し突かれたくらいでは、大きな刺激にはなり得ない。


 だが、その中を満タンまで溜め込んでしまったアリアにとっては、その程度の刺激でも耐え難い暴力となるのだ。



「だ、だめっ! 押さないでっ……あ゛っ!? も、漏れっ……!」



 アシュレイが一押しするたびに、吊るされた体勢で精一杯腰を引き、脚を大きく擦り合わせる。

 全身の震えも、徐々に大きくなってきた。



「あら? この紋章……」



 アリアの反応を楽しんでいたアシュレイが、ふと自分が押している紋章の変化に気付く。

 指で膀胱を押し込むたび、それに合わせて紋章の光が強くなるのだ。

 それはまるで、アリアの尿意と光が連動しているよう。


「へぇ、面白いわね、これ。じゃあ、えい♪」


「ん゛はぁっ!? そんなっ、押したらぁっ! や、やめてぇっ!」


 アシュレイが少し強めに指を押し込むと、アリアの体がビクンと跳ね、紋章はより強い光を放った。


 そして――



「あら? あらあら? ねぇねぇ、これって……」

「違うっ、それはっ、違うわっ! 違うの!!」



 アシュレイとしては少し力を入れた程度だったが、アリアにとって、それは致命的な圧力だ。

 増大した水圧に、疲弊した括約筋はかなり量の浸水を許してしまった。



「お漏らし、かしら?」

「嫌ああぁぁっ……! 言わないでぇ……!」



 アシュレイが指差した部分――レオタードの股布には、局部全体を包む程の大きな染みができていた。


 失禁を指摘し、クスクスと笑うアシュレイ。あまりの羞恥に、アリアの目から涙が溢れた。

 だが今のアリアは、恥辱に泣き濡れる余裕すら与えてはもらえない。



「さぁ、続きをしましょうね。降参する時は、『おしっこをさせて下さい、アシュレイ様』って言うのよ? そうしたら、トイレに行かせてあげてもいいわよ」


「だ、誰がっ、貴女なんかにっ、ああぁあぁぁっ!? やめてぇっ! 私っ……もう、我慢がっ……で、出ちゃ……!」


 先ほどの小さな失禁で、アリアの堤防に致命的なヒビが入ってしまった。

 全力で脚を交差させて出口を閉めているのに、押される度にじわじわと小水が染み出し、少しずつレオタードを濡らしていく。



「ん゛あ゛ぁあぁっ!? だめっ……もれるっ……! も゛れるぅっ……!!」


(あぁ……! もう……むり……くぅっ!)



 やがてレオタードは吸水限界を超え、太股に一本、二本と滴が伝う。


「で、でちゃ、う……! で……ちゃうぅぅ……!!」



 ――限界。



 アリアは屈辱を噛み締め、アシュレイから顔を背け、目を瞑る。


 そして、おずおずと口を開いた。







「お……おしっ……おしっこを……させてっ、くだ――」





『情けないっ!』


(はっ!?)



 尿意に負け、敗北の言葉を口にしようとした、まさにその瞬間。

 アリアの脳内に、どこか聞き覚えのある、でも少し幼い声が響いた。


 目を開けると、そこにいたのは10歳くらいの、不機嫌そうな顔をした猫耳の少女。





「……わた……し……?」




 幼き日のアリアが、情けない姿を晒す自身を睨みつけていた。


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