表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/127

第9話 ゼフ先生のお悩み相談室・相談者人族Aさんの場合

「私の首筋には、呪印が刻まれております」



 うん、君が来るってことは、その話題だよね。

 この前の子猫のAさんは、甘酸っぱいウキウキしちゃう相談だったけど、このAさんの話は、ちょっと背筋を伸ばして聞かないといけないね。


「忌むべき物です。私はこれがある限り、呪印の持ち主であるフラウディーナ公爵家には逆らえません」


 Aさんのお家は男爵家なんだけど、先日のEさんの実家に多額の借金があるみたいで、Aさんは担保としてあの家に仕えているらしいね。

 呪印付きの奴隷待遇になったのは、借金が多すぎて、どんな条件でも飲まないわけにはいかなかった、って事情があるみたい。


 ごめんね。貴族のお嬢さんに呪印なんて付いてたものだから、ビックリしてちょっと調べちゃった。



「ただ、『コレ』の持ち主は、いずれ私の本当の主人になります。高潔で、厳格で、でも実はお優しい、私のリーザ様……ふぅ」



 おおっと! 重い話かと思ったら、ちょっとピンク色になってきたよ?

 Aさんはそっちのタイプの子なのかな? いいよ、僕は愛の形は、人それぞれだと思ってる。


「いずれ彼女は、多くの者の上に立つ存在になるでしょう。その時、この呪印が、私をリーザ様の『唯一』にしてくれるのではないか……最近、そんなことを考えるようになりました」


「…………」


「ですが、呪印がそんな暖かなものでないことは、刻まれた私自身わかっております。私は……どうするべきなのでしょうか……」




 呪印を『繋がり』と考える人は、一定数いる。



 奴隷を買うのが、悪人ばかりというわけではないからね。

 孤独だけどお金だけは持ってるような人は、寂しさを埋めるために奴隷を買うことがあるし、体が目当てだったとしても、征服欲ではなく、仮初とは言え情愛を求める人もいる。


 そうゆう人達に買われた奴隷は、やはりいい暮らしをしているらしい。

 まるで、家族や恋人のように扱われるんだって。


 そして、一度落ちるところまで落ちてから、想像もしなかった高待遇を与えられた奴隷が、自分の主人を唯一無二の善人と錯覚してしまうことも、またよくある話だ。


 悪いことと言うつもりはないよ?

 奴隷が自由民になるケースの8割は、そういった擬似的な関係が、高じて本物の信頼関係になった結果の出来事だからね。


 そしてその際、一部の元奴隷は、その身に刻まれた呪印を主人との『絆』のように考え、消すことを拒むんだ。




「消すべきだと思うよ」




 下らない。


 呪印は隷属の証。人とそうでないモノを分ける境界線だ。

 そんなものは絆ではなく、鎖だ。


 実際、一度呪印を残した元奴隷も、主人との間に子供ができれば、殆どの者が……特に女性は消すことを選ぶ。

 お腹に我が子の存在を――本物の絆を感じて、呪印が紛い物だと気付くんだろう。


 赤ちゃんは偉大だね。


 別の宗教の話だけど、地母神マーテルは豊穣と出産を司るんだよ。

 我らが聖神様は『全てを司る』、なんて言ってるから、イマイチご利益がよくわからないんだ。

 そろそろ改宗しちゃおうかな?


「ゼフ先生?」


「あぁ、ごめんね。考え込んじゃって。繋がり、絆、そうゆう物を目に見える形で残したい、という気持ちはわかるよ。結婚指輪なんかも、本質はそうゆう物だし。でも……呪印は歪だ」



 呪印は、必ず上下を付ける。支配する者、される者。



「将来、その時が来たら、君は呪印を消すべきだ。君とエリザベートさんには、そんな重たい枷なんかじゃなくて、お揃いのアクセサリーが似合うと思うんだけど……僕の見込み違いかな?」


「ゼフ先生……そうですね。私も、そうありたいと思っています」


 うん、それでいい。

 君たちは、2人の心の繋がりだけで、きっと、ずっと共にあれる。





 やがて来る、最後の時まで。





「ありがとうございました。リーザ様とも、少し話してみます」


「そうしてあげて。君が催淫呪印に興味津々だったって、とても心配していたよ」


「うっ、そ、それは……!」




 ◆◆




 これで、あの2人は大丈夫かな?



 呪印――現代の人間にだけ刻むことのできる、隷属の証。


 僕の、もう一つの研究の始まり。



 僕は、これが大嫌いだ。





 ――呪印(こんなもの)さえ見つからなければ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ