第4話 黒鎖の爪痕と桃色の暴威
「はぁっ、はぁっ……くうぅっ! はぁっ、はぁっ……!」
授業終了5分前、まだ人のいない廊下を早歩きで行くアリア。
運動系の授業は、シャワーと着替えを考慮して5分早く終わるのだが、アリアはその全てを放り捨て、更衣室を飛び出した。
足取りは小刻みに忙しなく、額にはびっしりと汗が浮かんでいる。
表情は、何か切迫した問題を抱えているかのように険しい。
「くぁぁぁっ! ふぅぅっ! ふぅぅぅぅっ! あっ、あっ、あぁぁぁ……っ」
手が、何かを掴もうとワナワナと動いては、思い出したかのように、ギュッと握り直す。
時折、腰をブルッと震わせては、そのたびに足を止め、太股をギュッと綴じ合わせた。
(あぁっ……漏れそう……っ)
アリアは、耐え難い尿意に襲われていた。
体育の切り上げの15分くらい前……ちょうど、蹴り飛ばしたグレンをトラック脇に運んだ後のこと。
アリアは、自身の下腹が急激に重くなっていく感覚に襲われた。
人としては当然の生理現象ではあるが、迫り上がる速さが尋常ではない。
(ま、また、来た……!)
アリアがこの症状に襲われたのは、これで2回目だ。
最初の1回目は、変身ができないとわかった次の日の放課後。
気晴らしにと、エルナ、ロッタと街に繰り出している時だった。
人気のクレープ屋台に着いたところで、突然催してきてしまったのだ。
並んでいる間にもドンドン尿意は高まり、クレープを買う頃には、アリアの我慢は限界に達していた。
購入直前、ようやくアリアの窮状に気付いた2人に支えられ、ギリギリで最寄りのトイレに駆け込んだのだ。
ショートパンツは無事だったが、下着は壊滅レベルに濡らしてしまっていた。
あのままクレープを選んでいたら、間違いなく屋台の前で大惨事になっていただろう。
あの時、店の列はそこまで長くはなかった。トイレを探す時間も含め、15分もかかったか怪しいところだ。
元々かなり遊び回った後で、クレープを食べたらトイレに行こうとは考えていたが、今回も症状が出る前から、アリアの下腹はそこそこ重くなっていた。
前の時間は護身術だったのだが、授業が後ろまで伸びて、休み時間が移動だけで丸々潰れてしまい、トイレに行けていないのだ。
並走するエルナに危機を伝え、ペースを落として残り時間を耐え切る。
整理体操の終盤は、脚の震えを抑えるので精一杯だった。
そして切り上げの合図と共に、一目散に更衣室のトイレを目指した。
『一目散』と言っても、そこはアリア。周囲に尿意を悟られまいと、歩みは多少早い程度。
更衣室に着いた時には、少ない個室は埋まっており、更に7人が列を作っていた。
無理もない。休み時間が潰れたということは、ここにいる全員が、最低2時間はトイレに行けていないことになるのだから。
(む、無理っ……こんなにっ……待てない……!)
ここに着くまでも尿意の急上昇は続いており、そろそろ限界が近づいている。
この行列を耐え切ることは出来ないと判断したアリアは、フラフラと更衣室を抜け出し、別のトイレに向かったのだ。
脚を大きく露出した体育着で校舎を歩くなど、アリアにとって、本来なら耐えられない羞恥プレイだ。
だが、下腹を襲う大津波に耐えられなかった時の恥辱は、そんなものとは比較にならない。
幸い、まだ座学は授業中だ。
それにアリアも、普段人通りの少ない校舎の端の方のトイレを目指している。
とうとう内股歩きになりながらも、何とかアリアは、誰にも見られることなくトイレまでたどり着いた。
――辿り着きはした。
「あぁっ……う、嘘っ……整備、中……んんんぁっ!?」
無情にも、そのトイレは立ち入り禁止だった。
遡ること1ヶ月半前、学園の水道管に、密かに巨大なスライムが棲みついた。
幸い、スライムはシャイニーアリアの手で速やかに討伐されたが、棲家にされた水道管は総入れ替えを求められた。
スライムの粘液が付着していて、水質が変わってしまっていたからだ。
特に人体に害はないが、多くの要人の子女が通う皇立学園で、スライム水溶液を使い続けるなどあってはならない。
学園は少しずつ、影響が最低限になるよう水道管の交換を行い、本日は、今アリアが驚愕の視線を向けるトイレが交換日だった。
(そんなっ……私もう、我慢が……っ)
人目を避けたのが裏目に出た。
ここから先にはトイレはなく、今来た道を戻るしかない。
ジョォッ!
「あ゛ぁああぁっっ!!?」
尿道に、かなりまとまった量の浸水。
絶望的な状況に、体の方が先に根を上げてしまった。
それを堰き止めようと、アリアの膝がキツく交差する。
(と、と、とにかくっ、戻らなきゃっ……! ああぁっ!? も、漏れ、ちゃうっ……!)
更衣室の方に戻ろうと、必死で脚を動かすアリア。
少しでも膀胱への負荷を減らすため、尻を後ろに突き出した不恰好な姿勢だ。
行き道では忙しなかった足取りも、よろよろと重たいものになっている。
(早くっ、更衣室のっ……ト、トイレに……あぁっ、でも……っ)
更衣室を飛び出す際、列の後ろに更に2人が並ぶのを、アリアは確認している。
埋まった個室に9人の列。更衣室のトイレの、3つしかない個室が空いた可能性はゼロだ。
なら別のトイレを目指すか?
だが、ここから校舎側のトイレまで、今のアリアの歩みでは3分はかかるだろう。
(間に合わないっ……う、嘘でしょっ……私、こんなところで……!?)
目の前が真っ暗になっていく。
アリアはもう、自分が無事にトイレで用を足す姿を、思い浮かべることができなくなっていた。
(あぁっ、助けてっ……誰か、助けて……っ)
エルナ、ロッタ、リーザ、アネット……もう自分ではどうすることも出来ず、友人達の虚像に手を伸ばすアリア。
そんなアリアの元に、運命は最悪の『誰か』を遣わした。
「あっれぇ、アリアちゃん。そんなに青い顔して、どうしたのぉ?」
「シェ、シェリア……!」
(そんなっ……こんなときに……っ!)
見慣れたくもない、小柄なピンクのツインテール。
何度もアリアを失禁の危機に追い込んだ少女が、『いいオモチャを見つけた』と言わんばかりの顔で、アリアの前に立ち塞がった。
「ぅっ……くっ……!」
慌てて腰を引き戻し、必死に平静を装うアリア。
直立の姿勢により膀胱が圧迫され、上からも下からも涙が溢れそうになる。
(くぅぅぅっ……ダメよっ……耐えて……! もし、彼女にっ……知られたりしたら……!)
姿勢も表情も、崩すわけにはいかない。
もしシェリアに、アリアが今にも漏らしそうになっていることを知られたら、確実に邪魔をしてくるだろう。
そうなれば、トイレまで間に合わないどころではない。
確実に、この場で大失態を演じてしまう。
「ご、ごめんっ……んんっ……私っ、急いでるっ、から……!」
虚勢の仮面を貼り付け、足早にシェリアの横をすり抜けようとするアリア。
一歩踏み出す度に、振動が膀胱を揺らし、出口が開いてしまいそうになる。
それでも懸命に足を進めるアリアだったが、シェリアがこんな獲物を逃すはずがなかった。
「えぇ~、さぁみぃしぃぃ~」
横を通り過ぎたアリアに、獲物を狙う狩人のような目で掴みかかる。
普段のアリアが相手なら、シェリアでは指先を掠らせることすら不可能だ。
だが、今のアリアは下半身に全力、全神経を注ぎ込んでいる。
シェリアはあっさりと背後を取り、腰から両手を前に回す。
そして――
「それっ♪」
「あ゛あ゛ぁあっ!?」
シェリアの両手が軽く膀胱に押し込まれ、アリアが切迫した悲鳴をあげた。
そのまま、腰を引いてブルブルと震えるアリアの様子に、シェリアが何かを勘付き、その出口に手を伸ばす。
そこをそっと撫ぜると、ブルマの生地から、じんわりとした湿り気が伝わってきた。
「あれ? あれあれぇ? アリアちゃん、もしかしてお漏――」
「違うっ、違うわっ! 私っ、漏らしてなんかっ、あ゛ぁはあっっ!!」
ジョォォォッ!
失禁を否定するアリアに、シェリアがもう一度、先ほどよりも強めに膀胱を押し込む。
既にヒビの入った水門は、増大する水圧に耐えきれず、ブルマに言い訳ができないほどの染みが広がった。
「ほらほら、早く認めないと、大変なことになっちゃうよ? ほらっ、ほらっ!」
「や、やめっ、やめなさいっ、やめてぇっ! ん゛んっ、お腹っ、押さないでっ、あ゛ぁあっ! 押しちゃっ、だめぇっ!」
ジョッ! ジョロッ! ジョロロッ! ジョォォッ!
シェリアの両手が、リズミカルにアリアの下腹を圧迫する。
脚がガクガクと震え、両手で出口を押さえているのに、溢れる小水が止まらない。
ブルマはもうグッショリで、太股の雫は秒刻みで増えていく。
「あははっ! 面白ぉいっ、ポンプみたいっ!」
「あ゛あぁっ! おねがっ、ん゛んっ! 許してぇっ! もう、漏れっ、あ゛っ!? だ、だ゛めっ、だめっ! あ゛あ゛ぁっっ!!?」
ジョォォッ! ジョォォッ!
「じゃあ、これで最後にしてあげる!」
「あ゛ぁぁっ! 待って! お願いやめてっ! やめてええぇぇぇぇっっっ!!!」
――よいしょおっっ!!




