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第12話 この痛みは誰のせい?

「……よし、これで全部だな」


 机の上に積まれた板状のパーツ。

 撮影機の記録媒体だ。


 全員がアリアの所に合流した後、彼女達は部屋に仕掛けられているという撮影機の捜索を始めた。


 何せその中には、アリアのあられも無い姿が映像として残されているのだ。

 放置して、誰かに回収されでもされたら大惨事である。

 まだ動けないアリアは今回もロッタの膝枕に安置し、リーザ、エルナ、アネット、グレンの4人が部屋中を探し回った。


 撮影機はそこそこ小型化に成功しており、現在は最小で手の平サイズほどになる。

 目視が難しいほどではないのだが、薄暗い部屋の中、物陰などに設置されていると、意外と見つけづらい。



 が、ここでグレンが奇妙な能力を見せる。


 なんでも、霊子力を媒介に映像情報を走査する『撮影機の知覚』がビリビリくるらしい。



『そこ!』

『見える!』

『落ちろ!』



 などと無駄にテンションを上げながら、次々と撮影機を見つけていった。



 見つかった撮影機は6台。

 いくらあのアシュレイでも、アリア1人を撮るために、わざわざ本部から持ってくるような数では無い。

 調査用として、元々持ってきていたんだろう。


 となると記録媒体の中には、アリアの映像以外にも、アールヴァイスの秘密に関わる何かがあるかもしれない。



「さ、ぶっ壊しますわよ」

「ふぁっ!?」



 そんな証拠物品に対し、躊躇なく破壊を決めるリーザに、アリアの喉から変な声が出た。



「こんなの残ってたら、アンタぐっすり眠れないでしょ?」


「あ、俺は保存用と鑑賞用に一つずつ――」

「グレン様」


「冗談です、本体ごと粉々にします」



 エルナ、アネットも同意見らしい。

 グレンも……少なくとも証拠物件として提出する気は無いようだ。



「本体を壊す必要はないのではなくて?」


「『撮られてた』って事実一つで、楽しい妄想をする奴はいるんだよ。何も無かったことにするべきだ」


「そんな人いるのかい?」


「いるぞ、俺とか」


「グレンの記憶媒体()もそこに並べて。一緒に砕くから」



 ポキポキと指を鳴らすエルナに、すすーっと距離を取るグレン。

 日常を感じさせる様子に、アリアの心が多少軽くなる。



「みんな……ありがとう」



 媒体の扱いは、アリアに大きな不安を抱かせていた。

 街の平和を預かる一員として、アールヴァイス壊滅に近付く可能性が少しでもあるなら、国の然るべき機関に提出するべきだ。


 だがその中には、アシュレイに弄ばれる自身の姿も収められている。

 帝国の役人達が、仕事を逸脱してそれを鑑賞するとまでは思わないが、紛失、流出する可能性はゼロでは無い。

 本当なら、誰の手にも渡したくないアリアの心情を、仲間達はしっかりと汲み取ってくれていた。



「では、派手に行きますわよ? どうせなら部屋中破壊して、死闘を演出しましょう」


「いいね、乗った」


「そうゆうことなら」



 ニヤリと笑い、拳を握りしめるエルナ。

 グレンも生命波動の光を纏う。



「「「「せーのっ!」」」」



 室内に、荒々しい破砕音が響き渡った。




 ◆◆




 アリアとリーザが相次いで行方不明になったことで、今回の実習は当然のことながら、途中で切り上げとなった。

 更にアシュレイの襲撃で、アールヴァイスが遺跡に出没し、しかもかなり詳細に調査を勧めていることが発覚し、以降の遺跡調査実習も一旦中止。

 学生達は、日頃の成果を見せる機会が無くなったことに落胆しつつも、殆どの者は渋々といった感じだが、このことを受け入れている。


 詳細は不明だが、アリアが囚われていた部屋は、壁はそこかしこが傷付き、机などの備品もバラバラ。

 床には『魔導具と思しき粉々の金属片』が散乱しており、激しい戦闘があったことが予想される。

 アリアも命に別状はないものの、1人では歩けない程に『負傷』していたらしい。


 これらのことが生徒達の危機感を煽り、血気盛んに実習続行を願う生徒の出鼻を挫いたようだ。



 そしてもう一方の事故、死んだと思われた術式陣が効果発動し、リーザが巻き込まれた件だが、こちらは全体的に『いいニュース』として広まっていた。


 良好な状態で残った未開放領域は、それだけで価値のある研究対象となり、いざという時は遺跡そのものが資源になる。

 さらに、レヴィエムとバニフリックの遺跡限定だが『若くて見た目のいい女性』という――何とも馬鹿げた――条件も発見された。

 今後しばらく、帝国とギルド間で遺跡調査権の奪い合いになり、その後は両者共に、それなりの利益を得ることになるだろう。


 娘を危険に晒されたフラウディーナ公爵家ではあるが、今回はこの『功績』の方を強調することを選択。

 世間に『不祥事』のイメージを抱かせないため、関係者への責任追求は、家としては行わなかった。



 こうして、数々のトラブルに見舞われたアリア達の遺跡調査実習は、学内外に大きな波紋を残す結果となった。




 ◆◆




「ああぁあぁぁぁあぁああああぁあああぁあああぁぁあああぁあぁあああぁあぁぁあぁぁあぁっっっっ!!!!」



 アールヴァイス本部、医療棟にアシュレイの悲鳴が響き渡る。

 周囲の医療スタッフは、一切それに構うことなく淡々と作業を進めていく。



「麻酔の追加投与は?」


「これ以上は、後遺症が残りますね」


「仕方ない、このまま続けよう。眼球を摘出する」



 彼らは全て、ドクター・ヘイゼルの部下だ。

 ある種の狂人の域に達した彼の元で働くうちに、彼らもまた、人間らしい感性が抜け落ちていくらしい。


 格上の幹部、しかも見た目は美しい女性のアシュレイが痛みに苦しんでいようと、不気味なほどに冷静で無表情だ。


 医療室は、アシュレイだけが壮絶な表情で叫び続ける、異様な光景となっていた。


 グレンいち押しの軍用閃光弾の光を直視したアシュレイは、一時的に視力を失った。

 左目はやがて光を取り戻したが、右目は完全に失明。

 現在は失った視力を取り戻すため、怪人化の技術の応用で生成した、新たな目の移植手術の真っ最中だ。


 回復魔術の存在があるせいで、この時代の医療……特に外科方面の技術はあまり高くない。

 麻酔も同様で、かなり危険な量を投与しても、眼球をくり抜く痛みは緩和しきれないでいた。

 患者が暴れることを想定して、アシュレイの全身は強化ミスリル鋼の枷でガッチリと拘束されている。



「お゛っ、あ゛っ、お゛ぉっ、お゛っ、あ゛っ、お゛ぉっ」



 アシュレイが痛みで気絶と覚醒を繰り返し始めた。

 ビクビクと体を震わせ、顔から、下から、水分という水分が外に吐き出されていく。

 そんな地獄を凡そ1時間に渡り味わい続け、漸くアシュレイの眼球移植手術は完了した。


 血と体液で濡れた手術着を纏い、右目を包帯で覆った痛々しい姿でベッドに座るアシュレイ。

 医療スタッフの説明を受ける表情は無だが、意識はハッキリしているようだ。


「右目が完全に定着するまで3日。そこから視神経の修復に更に2日。その間は、医療棟から出ないよう、お願いします」


「ええ、わかったわ。……シャワーを浴びたいのだけれど」


「すぐに血流を早めると、痛みが強くなりますよ? 女性スタッフに体を拭かせますので、お待ち下さい」


 体に纏わりつく不快感はかなりのものだ。

 サッパリと洗い流したかったアシュレイは、開いている左目でスタッフを睨みつける。

 とは言え、右目はまだズキズキと痛んでいる。これ以上の痛みはアシュレイとしても遠慮したい。


 大人しく女性スタッフを待つ間、こうなった経緯に意識を巡らせるアシュレイ。



「やってくれたわね……あの()



 思い出すのは、アシュレイが目を失う直接の原因となった、猫耳の獣霊の少女だ。

 未だ名前も知らない、だがアシュレイの嗜虐心を激しく掻き立てる少女。


 可愛いオモチャとしか思っていなかった彼女が、アシュレイに牙を突き立て、少なくない被害を与えてきた。


「痛い……あぁ、痛いわね。それに、体もベトベトで気持ち悪い……」



 ――全部、貴女のせいよ……?



 彼女には痛みは与えない方針だったが、『飼い主』に牙を剥くようなら躾が必要だ。

 どうせ暫く、アシュレイはこの医療棟で暇な日々を過ごすのだ。

 どんなふうに泣かせてやるか、この日々の中でゆっくりと熟成させる。


 新たな責めの形、そして少女の反応を夢想し、アシュレイの顔が歪な笑みを作った。



 ――待っていなさい。すぐに迎えに行くわ。


◆次章予告


 心を蝕む恐怖と屈辱。

 体を蝕む悦びの残滓。

 刻まれた傷はアリアから戦う力を奪い、少女は我が身の無力を嘆く。

 シャイニーティアは答えない。少女が、自ら立ち上がるまでは。


 次章、聖涙天使シャイニーアリア。


第五章 落涙! 翼の折れた聖涙天使


 ――ほんの少しだけでいいから、2人の勇気を、私に分けて下さい……!

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